"膨腹の老人ホーム" 第1話
「ただの便秘でしょう。こんなことでいちいち騒がないでください」
介護主任の神崎由里は、元のスマートフォンから顔さえげずにそう言った。夜のスタッフルームにはのい運転音が流れていたが、そのたい言い方を聞いた瞬、私には温まで数度がったようにじられた。目のの記録用には、82歳の藤原梅さん、78歳の野静さん、85歳の松子さんというの名が並んでいた。
には共通する異変があった。同じ週に入ってから、腹部だけが目に見えて膨らみ始めたのである。事量が急に増えたわけでも、以からい便秘が続いていたわけでもなく、何より腹部膨満のみ方がとも自然なほど似ていた。
私は佐藤美咲、48歳。特別養護老ホーム「陽だまりの里」で働き始めて12になる介護福祉士だった。医師でも護師でもない私に診断などできないが、齢者の体に触れてきたからこそ、「いつもの便秘」と「何かがおかしい状態」の違いくらいは分かるつもりだった。
陽だまりの里は、半までは名通りの穏やかな施設だった。ところが運営母体が変わり、しい施設として黒田隆之が入り、その直に神崎が介護主任へ抜擢されてから、現の空気は目に見えて変わった。員は削られ、族面会には細かな制限が設けられ、入居者より経費と効率を優先する言葉がび交うようになった。
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最初に異変を訴えたのは梅さんだった。
「美咲さん、なんだかここが苦しくてねえ。ご飯もそんなにべてないのに、にに張ってくるのよ」
夕、子に座った梅さんは、細いでパジャマのから腹部を撫でていた。もともと柄で痩せただったため、腰回りだけがへせりしている状態は、れたところから見てもはっきり分かった。呼吸までし浅くなっており、私はすぐに居へ移って状態を確認することにした。
「し触れますね。痛いところがあったら、すぐ教えてください」
横になってもらい、私は腹部へそっとを当てた。全体にい張りがあり、単純に皮脂肪が増えた触とはらかに違ったうえ、央から腹部にかけて何か所か規則なさが触れた。臓器の位置を判断できるほどの識はないが、それでも指先に返ってくる抵抗に、私は嫌なものをじた。
そののうちに、静さんまで「お腹がい」と訴えた。翌には子さんにも同じ症状が現れ、とも事のみが悪くなり、夜になると腹部ので眠れなくなった。偶然で片づけるには、数も期も致しすぎていた。
私は夜勤責任者だった神崎に報告し、なくとも嘱託医へ連絡するよう求めた。しかし神崎は骨に顔をしかめ、「寄りが便秘になったからって夜に医者を呼ぶの? その費用と、誰が責任取るのよ」
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と吐き捨てた。私が「同ですし、急激に膨らんでいます」といがると、ようやくスマートフォンを置いてこちらを睨んだ。
「佐藤さん、あなた介護士ですよね。医者じゃないんだから、勝に病名を作らないでください」
「病名を決めたいんじゃありません。状態が普通ではないから、医療につなげたいだけです」
「だから便秘だって言ってるでしょう。適当に腸剤でもませて、朝まで様子を見ればいいのよ」
最の言葉に、私はわず息を呑んだ。薬の判断を介護主任が勝にできるはずもなく、ましての異変を診察なしで決めつけることなどできない。それでも神崎には、最初から病院へかせたくない理由があるようにえてならなかった。
論を続ければ、私が担当からされる能性もあった。最では神崎に見した職員が夜勤ばかり組まれたり、突然別フロアへ異させられたりすることも珍しくない。私は悔しさをみ込み、「分かりました。ただし状態は記録に残します」とだけ告げてスタッフルームをた。
梅さんの部へ戻ったのは、午11をし過ぎた頃だった。枕をくし、しでも楽な姿勢にえようとした、彼女のが突然伸びてきて、私の首をく握った。
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