"23回拒まれた元部長" 第2話
加藤が笑いながらそう付け加えた瞬、佐藤はクラブを握るに力が入るのをじた。今、まさに嫌だと言ったではないか。それなのに、この男は自分の言葉を聞くのではなく、自分が聞きたいへ勝に作り替えている。
その、佐藤は予定より30分く練習をた。受付を通り過ぎる、背から再び加藤の声が聞こえたが、もう振り返らなかった。駐へ向かいながら、次の週には打席をしてもらおうと考えたものの、胸に残ったはった以にく消えなかった。
それが、佐藤にとって加藤という男との最初の会いだった。
半まで、加藤正雄は自分がから避けられるだとは度も考えたことがなかった。都内に本社を置く械メーカーで30以働き、最の8は営業本部の部として200い社員を束ねていた。朝、社すると秘役の社員が予定を読みげ、課たちは判断を仰ぎ、会議では加藤が腕を組むだけで周囲が発言の順番をうかがった。
「加藤部、この件はどちらでめますか」「最終判断をお願いします」「さすがですね、その点はありませんでした」。毎のように浴びていた言葉を、加藤はそれほど特別なものだとっていなかった。自分が優秀だから周囲が頼るのは当然であり、会社という組織ので自分がな役割を担っているのも、能力に見った自然な結果だと信じていた。
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65歳の誕を迎えた、加藤は定退職した。最終社には束を渡され、部たちが送別会をき、「これからもぜひご指導ください」と何もをげた。加藤はその言葉を額面通りに受け取り、退職も何かあれば相談の話が来るだろうと疑っていなかった。
ところが翌週から、スマートフォンは驚くほど静かになった。朝7に目を覚ましても確認すべきメールはなく、ネクタイを締める必もなく、誰かが自分の決裁を待っていることもない。最初のうちは自由になったことを楽しもうとしたものの、10を過ぎても予定のないが続くと、加藤は自宅のリビングで落ち着かなくなった。
妻の恵子は、退職から域の唱サークルや友との事会を楽しんでいた。加藤が「今はどこへくんだ」と聞けば予定を答えてくれるが、「緒に来るか」と誘うことはほとんどない。夫婦仲が悪いわけではなかったものの、加藤が会社への半を預けているに、恵子は恵子で自分の関係と活のリズムを築いていた。
あるの昼、加藤はいついて以の部だった田へ話をかけた。営業戦略についてつ助言してやろうと考えたのだが、田は「ありがとうございます。ただ、今ちょうど会議なので」と慌ただしく話を切った。
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翌別の元部へかけても似たような反応で、加藤は初めて自分の識を待っているが、もう会社にはいないという事実を識した。
その頃から、加藤はので妻に細かくをすようになった。器の置き方、聞をまとめる曜、蔵庫のの品の並べ方まで、「こうした方が効率がいい」と説する。恵子は最初こそ聞き流していたが、ある朝とうとう「会社じゃないんだから、でまで部をやらないで」と言った。
その言は、加藤がった以にく胸へ刺さった。鳴り返しはしなかったものの、卓で聞を広げながら「分かっていないな」と独り言のように呟いた。自分は良くしようとしているだけなのに、なぜそれが嫌がられるのか、その理由を考えるより先に、加藤は相の理解力に問題があると結論づけた。
転が訪れたのは、域の公民館でかれたシニア向けパソコン講座だった。暇を持て余していた加藤は、「これくらいっておいて損はない」と軽い気持ちで申し込み、初回の講座で隣に座った70代の女性がマウス操作に戸惑っているのを見た。加藤は頼まれていなかったが、カーソルのかし方とダブルクリックのコツを数分説した。
「まあ、加藤さん、すごく分かりやすいですね。助かりました」
女性が笑顔でそう言った瞬、加藤の胸の奥に久しぶりの覚が戻った。
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