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"墓前の偽息子" 第9話

「初めまして。佐伯美奈と申します」

「こちらこそ。わざわざありがとう」

「誠さんから、お父様のお話を々聞いていて……」

女性はにしていたい菊を墓へ供えた。

で並び、線を移す。

細い煙がの空へ昇っていった。

文子は目を閉じた。

話が脳裏をよぎった。

にいる息子の番号から、「母さん、オレだよ」とらない男の声がしたの、背たくなる覚。息子の妻の声がスピーカーから流れたの衝撃。包丁がへ落ちたの乾いた音まで、今も完全に忘れたわけではない。

それでも。

あの来事が、誠のを終わらせたわけではなかった。

むしろ、ずっと目を逸らしていたものを自分の目で確かめ、もう度自分のを選び直すきっかけになったのだとう。

文子は胸ので貴志へ語りかけた。

あなたが教えてくれた通りでした。

困ったほど、慌てず、確かめる。

疑うためではなく。

切なものを守るために。

誰かの言葉だけで決めず。

自分の目で見る。

自分ので聞く。

そして最は、自分で決める。

それだけのことが、にはを守るのだと、文子はあの初めて本当ので理解した気がしていた。

目をけると、誠も静かに煙を見げていた。

その隣で美奈が墓さくげている。

「お父さんに、何て言ったの?」

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文子が聞くと、誠はし笑った。

「もう丈夫だって」

も、同じ言葉を聞いた。

けれどは自分自へ言い聞かせるような声だった。

は違う。

「そう」

文子はそれ以聞かなかった。

墓参りを終えると、はゆっくり坂り始めた。途、誠が美奈の持っていた桶をさりげなく受け取ろうとして、互いのがぶつかり、で照れくさそうに笑った。

そのぎこちなさを見て。

文子も笑った。

「帰りにお茶でもんでいきましょうか」

「いいね」

誠が子供の頃と同じように頷いた。

る直、文子は度だけ振り返った。

桜の向こうにある貴志の墓は、差しを受けて静かにっていた。

あの話が鳴ったのような胸騒ぎは、もうなかった。

文子はバッグのの携帯へを触れ、それから穏やかに微笑んだ。

もし、これから先また何か困ることがあっても。

きっと丈夫だとえた。

慌てずに。

つずつ。

確かめればいい。

それはき夫が残してくれた、庫ののどんな財産よりも切なものだった。

は、駅へ向かう途にあるさな喫茶へ入った。貴志がきていた頃、墓参りの帰りによくち寄ったで、古びたの扉も、窓際に並んだ子も昔とほとんど変わっていなかった。文子がいつものブレンドを頼むと、誠は「親父もこればっかりだったな」

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と懐かしそうに笑い、美奈もの会話を邪魔しないよう静かにを傾けていた。

しばらくして誠が席をった、美奈はし迷ってから文子へげた。自分が誠の過についてどこまでっていいのか分からず、これまで詳しく尋ねたことはないのだという。ただ、折何でもないに黙り込んだり、を信じることに慎になったりする姿を見て、以きく傷つく来事があったのだろうとはじていたらしい。

「私は、無理に忘れさせようとはっていません」

美奈はそう言って、窓の度見た。

「忘れられないものなら、忘れなくてもいいとうんです。ただ、そのことでこれから先まで苦しくならないように、そばにいられたらとっています」

文子はその言葉を聞いて、すぐには返事をしなかった。子が嫁いできたにも、もちろん最初から悪いだとっていたわけではないし、というものはで変わることもある。それでも、相を急いで判断しないことと、目のにある誠実さを素直に受け取ることは両するのだと、今ならえた。

「誠は、見た目よりずっと器用な子なの」

文子がそう言うと、美奈はさく笑った。ちょうどその、会計を済ませた誠が戻ってきて「何の話?」と議そうな顔をしたため、は顔を見わせて「内緒」

とだけ答えた。誠は納得できない顔をしながらも、それ以聞かずにコーヒーをんだ。

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