みかん小説
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"墓前の偽息子" 第10話

その姿を見て、文子はふとった。1、自分は息子を守らなければならないという気持ちで必だったが、本当は誠もまた、自分のち直る力を持っていたのだろう。親にできるのは、転ばないよう支えることではなく、転んだに戻ってこられる所を残しておくことなのかもしれない。

、文子は久しぶりに仏庫をけた。事件の、警察の確認が終わってから暗証番号は再び変更していたが、今回は誠にもその番号を教えていなかった。必になったは自分でければいいし、自分がくなったについては正式な類をえておけば分だと考えたからだった。

庫の奥から貴志の腕計を取りすと、革のベルトはすでにくなっていた。文子は柔らかな布で文字盤を拭き、しばらく眺めた、それを箱へ戻さず、さな袋に入れた。翌週、へ来た誠にその袋を差しすと、息子はを見て驚いたように目を見いた。

「これ、親父の計じゃないか」

「そうよ。そろそろあなたが持ってなさい」

誠はすぐには受け取ろうとしなかった。庫を狙った事件のだけに、父親の物を自分が受け取ることへ何か引っかかりがあるのだろう。文子にはその気持ちが分かったため、押しつけるのではなく、袋を静かに座卓のへ置いた。

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「財産だから渡すんじゃないのよ。あなたのお父さんが毎使っていたものだから、あなたに持っていてほしいだけ」

誠は計を見つめていた。そして文字盤の端に残る細かな傷を親指でなぞりながら、「の頃、これ勝につけてられたな」と笑った。その顔は、1に妻の裏切りをったのものとはまるで違っていた。

文子はその夜、久しぶりに貴志のを見た。夫は昔のままの作業着姿で玄関にち、「ちゃんと確かめたか」と笑っていた。文子が「もう丈夫よ」と答えると、貴志はそれ以何も言わず、いつものように靴を脱いでがってきた。

目が覚めた、窓のはまだ暗かった。それでも文子の胸には、議なほど穏やかな温かさが残っていた。失ったものは戻らないし、裏切られた記憶も完全に消えることはない。それでもは、確かめながら、選び直しながら、しずつ次の季節へんでいける。

文子は台所へき、湯を沸かした。湯気の向こうに朝が差し込み始め、仏の遺にも淡いが届いていた。あの、墓で鳴った本の話は確かに族の暮らしを壊しかけたが、その話が最に奪えなかったものがつだけあった。

それは、族を信じる気持ちではなく、何が起きても自分の目で確かめ、自分でを選び直す力だった。

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