"母に届かなかった10円" 第4話
女はようやくそう言った。
仕事着のままをびし、駅へ向かった。
夕方のには仕事を終えたが増え始めていた。
女はのを縫うように歩き、途からった。
息が切れてもを止めなかった。
駅の公衆話が見えた、しだけした。
ここから話をかければいい。
実へつながれば、母の様子が分かる。
それだけを考えていた。
公衆話へ入り、財布をいた。
指先が震えていた。
貨を探した。
しかし、10円玉がなかった。
女はもう度財布のを確かめた。
幣はあった。
帰りの賃として取っておいた銭もあった。
しかし話に必な10円貨だけが、なぜか枚もなかった。
「あれ……」
女はさく声を漏らした。
財布の隅まで探した。
内側の布を指で押し、何度も貨を数え直した。
ない。
その瞬、急に公衆話がいものになった。
目のに受話器がある。
実の番号も分かっている。
母が自分を必としているかもしれない。
それなのに、たった10円玉枚がないために、話をかけることができなかった。
女は公衆話をびした。
まず駅の売へ向かった。
幣をして両替してもらえばいい。
そうった。
だが、そのはじまいのを過ぎていた。
売の片づけはすでに始まっていた。
女はにいるへ声をかけようとした。
「すみません、10円に替えていただけませんか」
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焦っていたため、声もうまくなかった。
しかしすぐには両替してもらえなかった。
女は次に駅員を探した。
改札の周囲には帰宅するがく、駅員も対応に追われていた。
切符について尋ねる。
忘れ物を訴える。
急いで改札を通ろうとする。
女も声をかけた。
「すみません。両替をお願いしたいんです。話を……」
だが、そのではすぐに対応してもらえなかった。
「し待ってください」
そう言われた。
ほんの数分だったのかもしれない。
しかし女には、その数分が異様にくじられた。
母が倒れている。
実では姉が待っている。
自分に連絡しようとしている。
そうえばうほど、計の針だけがくんでいくように見えた。
女は混みので財布を握りしめていた。
幣はある。
おがないわけではない。
それなのに話はかけられない。
今なら両替のできる所を探せばいいと落ち着いて考えられるが、そのの女には、次に何をすればいいのかさえ分からなくなっていた。
焦れば焦るほど、目ののことしか見えなくなる。
もう度売へった。
公衆話の周りも探した。
誰かが落とした10円玉でもないかとって、元まで見た。
もちろん、そんな都よく見つかるはずはなかった。
公衆話を使い終えたがてくるたび、そのへ両替を頼もうかともった。
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しかしらないへ声をかけることをためらった。
若い女が突然幣を差しして「10円に替えてください」と頼む。
今なら何でもないことにえる。
けれど当の女は、らないを呼び止めることがなかなかできなかった。
何度かをきかけては、相がにっていくのを見送った。
だけが過ぎた。
駅員のところへ戻ると、まだが並んでいた。
女は列のろで待った。
臓の音が聞こえるほどだった。
母はどうしているだろう。
もしかすると、もう病院へ運ばれているかもしれない。
姉は自分からの話を待っている。
「くしなきゃ」
女は何度も呟いた。
やがてようやく順番が来た。
事を聞いた駅員が、10円玉を用してくれた。
女は礼も分に言えないまま、それを握って公衆話へ戻った。
のにあるのは、たった枚の貨だった。
それまでどこにでもある銭としかっていなかった10円玉が、そのだけは、族へつながる唯のものに見えた。
話ボックスへ入った。
受話器を取る。
10円玉を入れる。
実の番号を回した。
つずつ番号を確かめながら回しているはずなのに、指が震え、何度も違えそうになった。
呼びし音が鳴った。
回。
回。
回。
「て」
女は受話器をくへ押し当てた。
「お願い、て」
やがて向こうで受話器ががった。
姉だった。
女はほっとして、すぐに聞いた。
「お母さんは? どうしたの?」
だが、姉はすぐに答えなかった。
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