"捨てられた妻の逆転相続" 第8話
私たちは本当の母娘になるのだから』
恵子は涙を浮かべて微笑み、そして俊に向かって『あなたを全力で支えます』と真っ直ぐな瞳で誓ってくれた。
その純粋なと信頼を、体いつから自分は「当然の権利」だと錯覚し、踏みにじるようになったのだろうか。
名の板に胡座をかき、を力と勘違いし、最も自分をしてくれていたの女性をく傷つけ、裏切り続けた。
「母さん……恵子……すまなかった……本当に、すまなかった……」
俊はたい畳に額を擦りつけ、声を殺して泣き崩れた。
線のが静かに落ちる音だけが、男の孤独な悔を受け止めるように、暗い部にさく響いていた。
初の清々しいが、緑に包まれた旧加納の敷――「静メモリアルケアセンター」の庭園を吹き抜けていた。
庭の片隅には、静が好んで入れをしていた陽が、鮮やかな青との輪を咲かせている。
ウッドデッキのテラスでは、子の利用者たちが淹れたてのお茶を楽しみ、併設された域コミュニティカフェからは、隣の子ども連れの母親たちのるい笑い声が溢れていた。
加納恵子は、仕てのよい青のブラウスに腕を通し、庭の陽にジョウロでをやっていた。
その表はどこまでも穏やかで、の介護の苦難も、夫や息子から受けた仕打ちの傷跡も、すべてを乗り越えた者だけが宿す静謐な気品に満ちていた。
広告
「加納代表、本午からの『域包括ケアシステム推協議会』の資料がいました」
ろから声をかけてきたのは、加納所の代から恵子を支え続けている総務部だった。
「ありがとうございます。すぐ確認しますね」
恵子はジョウロを置き、タオルでを拭いながら微笑んだ。
現、この施設は単なる介護施設にとどまらず、域の孤を防ぎ、世代が支えうしい社会モデルとして、全国の自治体から察が相次ぐ注目の拠点となっていた。
恵子は義母から託された莫な資産とを、円たりとも私利私欲のために使うことなく、すべてこの社会な挑戦へと注ぎ込んでいた。
「あ、それから代表……今朝、事務所宛てに通の現留が届いております」
部が差しした封筒を見て、恵子のが止まった。
差の欄には、拙いながらも力い跡で『加納翔太』と記されていた。
をけると、と、数枚の千円札が同封されていた。
『母さんへ。 突然の、許してください。 俺は今、運送会社の営業所で荷積みの仕事を続けています。 毎体が痛くて、自分の無力さをいる々ですが、度も休まずに働いています。 同封したおは、俺が今稼いだ料のから、初めて自分の志で誰かのために使いたいとったおです。
広告
施設の運営費か、利用者の方々のために使ってください。 母さんに許してもらおうとはっていません。 いつか、自分のでちゃんとてるのになれたと胸を張れるが来たら、そのはくからでも、母さんの作った施設を見にかせてください。 どうか、お体を切に。 翔太』
恵子はを静かに胸元へ引き寄せ、そっと目を閉じた。
の文字の隙から、かつて傲さに溺れていた息子の魂が、を舐めながらようやく自分のを踏みしめ始めた確かな息遣いが伝わってきた。
恵子の瞳から、筋の温かい涙が頬を伝って零れ落ちた。
それはしみの涙ではなく、の母親として、息子が真のにまれ変わろうとしていることへの、静かな祈りの涙だった。
恵子はを丁寧に折りたたみ、オフィスのデスクの番切な引きしへと仕った。
「部、このご寄付は、子ども堂のしい絵本を購入する費用に充ててください」
「かしこまりました」
部がくをげて部をていくと、恵子は再び庭へと続くテラスの扉をけた。
初の爽やかな太陽のが、庭いっぱいにり注ぎ、緑の々を黄に輝かせている。
見げた青空の彼方に、義母・静の優しく誇らしげな笑顔がなって見えた。
『もう君の役目は終わった』
夫がかつて言い放った酷な宣告。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
風呂を禁じた義母と、家を出た嫁の反撃
由香は出版社で働きながら、無職になった夫・正斗を支え、家計も家庭も一人で背負っていた。 しかし、義母・松恵が突然同居を始めると状況は一変する。家事や生活費を押し付けられ、深夜帰宅した由香に対して「文句があるなら稼いでから言え」と言い放つ義母。 限界を迎えた由香は、静かに決断する。 「では今後は、すべて夫に払わせますね」 その一言を境に、崩れかけていた家族の関係が動き始める。 さらに、義母が持ち込んだ大量の段ボールの中から発見された怪しい情報商材。そして隠されていた家族の秘密。 由香が離れたことで、夫は初めて自分が逃げ続けていた現実と向き合うことになる。 奪われた時間、壊された信頼、そして明らかになる義母の本当の目的――。 一人で耐え続けた妻が、自分の人生を取り戻すために選んだ静かな反撃が始まる。怒り|嫁姑|夫婦|修羅場2.2万字5 614 -
完結第12話
寝室のベッドの下に隠されていたもの
寝室のベッドの汚れが気になり、清掃業者を呼んだ高島怜奈。 ところが、六年間動かしていなかったベッドの裏から見つかったのは、枕元へ向けられた小型カメラとマイク、そして謎の装置だった。 さらに奥には、叔母から相続した一億八千万円の財産資料と、怜奈の日常を細かく記した〈生活能力観察記録〉が隠されていた。 頭痛、物忘れ、薬を飲んだ時間、夜中に起きた回数――。 半年間、自分でも「最近おかしい」と感じていた症状まで、なぜかすべて記録されている。 そして最後に残されていたのは、夫の筆跡による一文だった。 〈本人が自己管理不能と認めた段階で、委任状へ署名させる〉 十二年間信じてきた夫の優しさは、本当に愛情だったのか。 ベッドの下から始まった小さな違和感は、やがて怜奈の財産、仕事、そして「自分の記憶」さえ奪おうとする長年の計画へとつながっていく。夫婦|裡の顔2.2万字5 156 -
完結第20話
50歳の再婚、披露宴で知った夫の嘘
「玲子さん、仕事は辞めて、明日から私の介護をよろしくね。息子がそう約束してくれたの」 五十歳で迎えた再婚披露宴。 姑が満面の笑みでそう告げると、親族から拍手が起きた。 隣の夫は否定せず、青ざめた顔で目をそらした。 私は何も問い詰めず、マイクを握り、夫から届いたメッセージを読み上げた。 《仕事は絶対に辞めなくていい。母との同居も介護の押しつけもしない》 その夜、私は新居へ行かず、自分のマンションへ戻った。 翌朝、勤務先から連絡が入る。 夫の会社が、私の退職証明と「親族介護専従手当」を勝手に申請していたのだ。 さらに区役所で確認すると、私の住民票は偽造委任状によって新居へ移され、書類上、私はすでに“無職の被扶養者”にされていた。 その直後、姑から電話がかかってきた。 『玲子さん、助けて……正人が、私の五百万円を全部持っていったの』嫁姑|夫婦|介護2.1万字5 353 -
完結第18話
夫は私を最低な妻として配信していた
夜勤明け、同僚から見せられた動画には、家族へ暴言を吐く“私”が映っていた。 《看護師の妻、夜勤後に家族へ八つ当たり》 再生回数は百二十万回。投稿者は夫だった。 私の言葉は前後を切り取られ、十四歳の娘まで台本を読まされていた。 帰宅して問い詰めると、夫は悪びれずに言った。 「動画を公開されたくなければ、娘の親権を争わないと約束してくれ」 家を調べると、台所や廊下から四台の隠しカメラが見つかった。 さらに夫は、虐げられた父親を演じ、広告や寄付で一年に一千三百万円以上を得ていた。 そして次回予告には、私が娘へ暴力を振るった“決定的証拠”を公開すると書かれていた。 しかし、削除されたメモリーカードを復元すると、映っていたのは泣く娘へ台本を渡す夫の姿だった。 「もう一度。今度は『お母さんに叩かれた』と言って」夫婦|裡の顔2.4万字5 336 -
完結第18話
ただの経理パート
「君の仕事は誰にでもできる。今日で辞めてもらう」 結婚二十八年。夫は社員全員の前で、私を“週三日の経理パート”として解雇した。 代わりに経理責任者となったのは、夫が連れてきた三十四歳の女性顧問。 私は退職届に署名せず、会社の鍵だけを置いて帰った。 ところが翌朝、売上の六割を占める主力取引先三社が、一斉に新規発注を停止した。 夫は私の報復だと騒いだが、通知に書かれていた理由は―― 《安全監査資料の重大な欠落》 新しい顧問が、都合の悪い事故記録を削除していたのだ。 さらに調べると、私は会社案内だけでなく創業者名簿からも消され、二千万円を出資した記録まで書き換えられていた。 役員を外す書類に残された私の署名。 その作成日、私は手術を受け、病院から一歩も出ていなかった。職場逆転|夫婦1.8万字5 397 -
完結第13話
妊娠八か月の私に姑は四十人分のおせちを作らせた
「妊娠は病気じゃないでしょう。座るなら、四十人分のおせちを作り終えてからにして」 妊娠八か月の私は、姑に母子手帳とスマートフォンを取り上げられ、夜明け前から台所に立たされていた。 腹の痛みに耐え切れず床へ崩れた時、店の裏口から両親が入ってきた。 父は椅子のない台所と、姑が握る金庫の鍵を見て静かに尋ねた。 「娘の母子手帳を、なぜあなたが持っているんですか」 この店も住居も、夫の実家の物ではない。経営危機を救うため、私の父の会社が買い取り、相場の三分の一以下で貸していた建物だった。 入院後に調べると、私は知らないうちに店の取締役にされ、毎月二十八万円の報酬を受け取ったことになっていた。 けれど私が渡されていたのは、生活費の五万円だけ。 さらに辞めた板前から届いた花には、一枚のカードが添えられていた。 《金庫の中に、あなた名義の通帳が三冊あります》嫁姑|裡の顔1.1万字5 347 -
完結第12話
娘の就職祝いで夫は私を泥棒と呼んだ
「会社から二千万円を移しました。見つかる前に、帳簿も処分します」 娘の入社祝いの席で、夫は“私の声”が入った録音を再生した。 義母にはワインを浴びせられ、夫からは離婚届を突きつけられた。 「今日署名すれば、警察には届けない」 録音日時は三月十四日、午後八時十二分。 けれどその時、私は病院の手術室で全身麻酔を受けていた。 さらに翌朝、娘の携帯には、私のアカウントから送られた覚えのないメッセージが残っていた。 調べると、消えた二千万円の送金先には義母名義の会社があり、入社したばかりの娘まで五千万円の補助事業の責任者にされていた。 そしてある夜、娘が突然姿を消す。 会社の経理室に残されていたのは、娘の実印が押された一通の自白書だった。 《二千万円の送金は、すべて母の指示で行いました》夫婦|金銭問題1.3万字5 316