"手書きの時刻表" 第10話
「何のために」
「田さんの仕事を飾るためではありません。私が、数字の向こうにがいることを忘れないためです」
田はの顔を見つめ、やがて頷いた。
「なら、鍵のかかる所へしまいなさい。に見せるは、かれた本の許しを得ること」
「はい」
夕方、田は最の勤務を終え、ホームへった。
午526分のり列が、のから姿を現す。乗客は7だけだった。
病院から戻る。の番を終えた。休みに入り、祖父母のへ遊びに来た子ども。
田は、そのひとりを見た。
列は、ただの体を所から所へ運んでいるのではない。それぞれの仕事、約束、配、希望を運んでいる。
扉が閉まり、列が発した。
田は最尾が見えなくなるまで敬礼した。
やがて腕をろし、ホームの計を見げる。
34、数え切れないほど確認してきた計だった。
「田さん、いお疲れさまでした」
が隣でをげた。
田は駅舎と線をゆっくり見渡した。
「から、頼んだぞ」
「はい」
そのい言葉で、川駅のが次の世代へ引き継がれた。
田が退職した翌朝、は午5に川駅へ勤した。
駅舎の扉をけ、灯りをつける。事務には、昨まで使われていた田の子も湯みもない。
静かすぎる部に戸惑いながら、は箒を持ってホームへた。
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空はまだ暗く、の端だけがくんでいる。
掃除を終えると、改札の計は午534分を指していた。は切符売りへ座り、始発の利用者を待つ。
最初に来たのは野だった。
「おはよう、さん」
「おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
野は驚いたようにを見た、し笑った。
「田さんみたいなことを聞くんだな」
「夜勤けに乗り過ごすことがあると聞いています。りるに、掌さんへ声をかけてもらいましょうか」
「今は丈夫だ。でも、ありがとう」
午542分の列が入ってくる。
はホームへち、乗客の全を確認した。発ベルを鳴らし、掌へ図を送る。
列が消えた、事務へ戻った。
机のには、本部から届いた印刷刻表と、が作った利用案内が並んでいる。その隣に、田が最に作ったきの刻表を置いた。
はしい業務誌をいた。
〈41 田さん退職、最初の朝。始発は定刻〉
そこまでき、し考えて文を加えた。
〈野さん、夜勤け。今は元気〉
鉛を置いた、窓へさな女の子が来た。
「駅員さん、お母さんが今の列で帰ってくるの」
女の子は祖母にを引かれていた。母親は隣県の病院へ入院しており、退院して昼の列で戻るという。
「何に来るの?」
は印刷刻表をいた。
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到着は午117分。
数字を伝えれば、質問への答えとしては分だった。
「午117分です」
女の子は嬉しそうに頷いたが、すぐにそうな顔をした。
「遅れない?」
は運報を確認した。
列は定刻通りにっている。だが女の子がりたいのは、刻だけではない。
母親が本当に帰ってくるのか。自分はちゃんと会えるのか。
は窓からて、女の子と同じさへしゃがんだ。
「今のところ、列は通りです。しめに来れば、ホームで緒に待てますよ」
「駅員さんも待ってくれる?」
「もちろんです」
女の子はようやく笑った。
午1、女の子は再び祖母と駅へ来た。
は改札を通し、2をホームの子へ案内する。117分、列は定刻通りに川駅へ到着した。
扉がき、鞄を持った母親がりてくる。
女の子は名を呼びながら駆けした。母親はそのへ膝をつき、さな体を抱きしめる。
はしれた所で、その姿を見守った。
かつて田が話した、戦の本の景も、このようなものだったのかもしれない。
列は発し、ホームには抱きう親子が残った。
は事務へ戻ると、誌へ記入した。
〈午117分 り列定刻。退院した母親を娘が迎えた〉
それは運記録として必な報ではない。
本部へ提する報告にもかれない。
けれどは、その文を残したかった。
代がみ、鉄の仕組みはさらに変わっていった。
やがて川駅にもしい通信器が入り、切符の発方法も変わった。
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