"20億追放妻の封筒逆転" 第5話
「健也先輩に?」
「今は言わない」
「でも父親だよ」
「分かってる。でも今言ったら、私がこの子を使って戻ろうとしてるみたいになる」
それだけではなかった。
義母がれば、違いなく態度を変える。
昨まで「子どもを産めない嫁」として追いそうとしていたたちが、転して私のお腹の子に価値を見いだす。
私はそれが怖かった。
「まず、自分で決めたいの」
希はく私を見たあと、頷いた。
「分かった。でもで決めないで。野寺先にも相談しよう」
そのの午、私は野寺弁護士の事務所へった。
妊娠のことを話すと、彼女は驚いたものの、すぐに静な表へ戻った。
「今回の妊娠は、婚姻にわれた胚移植によるものですね」
「はい」
「胚はご夫婦おのもの?」
「そうです」
私たちは治療の初期に、健也の精子と私の卵子でいくつか受精卵を作り、凍結していた。最のつを移植したのが週だった。
野寺はし考えた。
「つ、医療記録を全部取り寄せてください」
「全部?」
「あなた自の記録だけではなく、夫婦として受けた妊治療に関する記録です。あとで必になる能性があります」
「何のために?」
「今は説しにくいですが、子どもの父親を巡る争いが起きる能性があるからです」
私は背筋がえた。
義実がこの子を奪おうとする。
その景がに浮かんだ。
広告
「婚には署名してもいいですか」
野寺は私を見た。
「本当に婚したいですか?」
私はし考えた。
そして頷いた。
「はい」
初めて、迷いなく答えられた。
「もう、夫婦として戻りたいとはいません」
「分かりました。ただし、子どものは今はかさず、あなた自についての条件だけを精査しましょう」
私たちはにいくつか修正を求めた。
居先を義実に通する義務を削除。
現で仕事をする権利を制限しない。
20億円は私個名義の資産として支払い、斎藤側がから返還を請求できない。
そして、秘密保持条項は私自の名誉を守るために必なまで発言を禁じるものではないと記させた。
目。
私は本へ向かった。
義父母は、私が抵抗すると考えていたらしい。
修正されたを見た義父はし嫌そうだったが、20億円と引き換えに私が消えるなら問題ないと判断したのだろう。
「署名します」
私は言った。
義母の表がわずかに緩んだ。
「賢な判断ね」
私は返事をしなかった。
ペンを取り、自分の名をいた。
斎藤結菜。
最にその姓をくつもりで、文字ずつ丁寧に。
類を押し返した、議なくらい気持ちは静かだった。
義母が言った。
「健也と美奈さんのことについて、で余計なことは言わないでくださいね」
広告
「言いません」
「それから、約束通り週以内に国を」
「分かっています」
義父が頷いた。
「20億円は、指定座へ振り込む」
「ありがとうございます」
にしてから、自分でしおかしくなった。
夫を奪われる代わりにをもらう。
その取引に、礼まで言っている。
それでも私はをげた。
ちがるに、でそっと自分の腹部へ触れた。
まだ誰にも分からない。
義父も義母も、目のにいる私のに、彼らが5欲しがっていた血がすでに宿っていることをらない。
その事実をうと、復讐よりもいものが胸にまれた。
この子だけは、誰かの都で値段をつけさせない。
翌朝、私は本をれる航空券を取った。
私が選んだのは、オーストラリアのメルボルンだった。
学代に半だけ留学したことがあり、全くらないではなかった。の向こうへけば過まで消えるわけではないが、なくとも京のニュースや斎藤の線から距を置ける。
空港には希だけが来た。
「本当にくんだね」
「うん」
「体、丈夫?」
「先にも診てもらう病院を紹介してもらった」
希は私のを握った。
「何かあったら絶対連絡して」
「分かってる」
「で全部やろうとしないで」
私は笑った。
「それ、最みんなに言われる」
が陸した、京のがさくなっていった。
私は窓から目をし、お腹へを置いた。
「こうね」
まだ胎もないさな命に話しかけた。
「ママも、どこへくか分からないけど」
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
一杯の鍋が変えた人生
柏優太は、職場でのパワハラが原因で心を壊し、半年間ほとんど誰とも話さず部屋に閉じこもっていた。 そんなある日、隣に引っ越してきた母子3人の姿を見かける。 「何も買えなくてごめんね」と泣く母親と、空腹を我慢する子供たち。 過去に大切な友人を救えなかった後悔を抱えていた優太は、思わず声をかける。 「よかったら……うちで鍋しませんか」 一杯の鍋をきっかけに、孤独だった男と傷ついた母子の人生が少しずつ変わり始める。 しかし、温かな時間の裏には、母親が隠していた過去と、子供たちを取り戻そうとする元夫の存在があった。 誰かを救おうとした優太が、実は自分自身も救われていた――。 小さな優しさから始まった、再生と家族の物語。人生逆転|第二の人生|親子関係2.2萬字5 149 -
完結第11話
一つの証拠が暴いた8年間の嘘
八年前、誰にも期待されず、孤独な海外勤務へ送られた男――朝倉洋一。 灼熱のインドで技術を磨き、ただひたすら努力を重ねた彼は、八年ぶりに日本へ帰還する。 しかし、待っていたのは栄光ではなく、同僚からの侮辱と冷たい視線だった。 そんな彼の前に現れたのは、かつて突然姿を消した初恋の女性・七瀬美咲。 「契約の鬼」と恐れられる彼女が、なぜ一介の技術者である朝倉だけを選んだのか――。 やがて社内で発生した機密情報流出事件。 犯人に仕立てられ、すべてを失いかけた朝倉を救ったのは、遠い異国で築いた一つの友情だった。 裏切り、嫉妬、そして八年越しの想い。 忘れられた男の本当の価値が、今、世界を変える。因果応報|人生逆転1.7萬字5 123 -
完結第13話
余命半年からの再出発
余命を告げられた日、夫は離婚届を置き、息子も「必要なことがあったら連絡して」と距離を置いた。 58歳の桐谷佳代子は、病気だけでなく、33年間築いてきた家族まで同時に失った。 誰もいない台所で一人分の味噌汁を作りながら、絶望の中にいた佳代子だったが、病院で出会った人々との縁をきっかけに、少しずつ自分の人生を取り戻していく。 治療、離婚、家を失う危機。 それでも彼女は、針と糸を手に取り、病気と向き合う人のための帽子作りを始める。 家族に必要とされることでしか自分の価値を感じられなかった女性が、人生のどん底から見つけた本当の生き方とは――。人生逆転|夫婦|第二の人生2.0萬字5 254 -
完結第14話
返されなかった合鍵
25年間、誰にも知られず借り続けられていた203号室。 夫の葬儀の日、見知らぬ女性から渡された一本の合鍵が、妻・千鶴の人生を大きく揺さぶる。 亡き夫はなぜ、家族に隠れて古い部屋を借りていたのか。 そこに残されていたのは、31本のカセットテープと、一人の少女の思い出だった。 最初は裏切りだと思った秘密。 しかし調べるほどに明らかになる、夫が25年前に背負った約束と、誰にも話せなかった苦悩。 守ることと、信じること。 家族を思う気持ちと、誰かを救おうとする気持ちは、時にすれ違ってしまう。 一つの合鍵から始まった真実の先で、千鶴が見つけたものとは――。人生逆転|相続|修羅場2.0萬字5 69 -
完結第12話
泥まみれの客と黒塗り5台
土砂降りの夜、タクシー運転手の佐藤美咲は、泥だらけで道端に立ち尽くす1人の老人を見つけた。 他のタクシーは、車が汚れることを嫌って次々と通り過ぎていく。中には、老人をあざ笑い、泥水まで浴びせて走り去る運転手もいた。 月末までにノルマを達成できなければクビ。幼い娘の手術を控え、仕事を失うわけにはいかない美咲も、一瞬だけ迷った。 それでも彼女は車を止める。 「シートなんて洗えばいいんです」 そう言って老人を乗せ、傘を差し、温かい缶コーヒーを手渡した。 しかし翌朝、美咲を待っていたのは、汚された車両と突然の解雇通告だった。 泣き崩れる彼女の前に、5台の黒塗りの車が営業所へ現れる。 昨日の泥だらけの老人は、いったい何者だったのか。 たった1本の缶コーヒーが、彼女の人生を大きく変えていく――。因果応報|人生逆転1.8萬字5 24 -
完結第12話
200円の家族
23歳の大学生・高橋翔太は、感情を捨てたように生きていた。 友人の誘いも断り、食事も会話もすべてを「合理的かどうか」で判断する日々。そんな彼が、ある日ファミレスで会計できずに困っている母子と出会う。 所持金は300円。小さな娘を連れた母親は、夫に貯金を持ち逃げされ、住む場所さえ失っていた。 翔太は不足分の200円を支払い、さらに母子を自分の部屋へ連れて帰る。最初はただの合理的な判断。そのはずだった。 しかし、温かい手料理、少女の「ありがとう」、そして夜中に聞こえた小さな泣き声が、5年間閉ざしていた翔太の心を少しずつ揺らしていく。 なぜ彼は笑わなくなったのか。 なぜ「感情は判断を誤らせる」と言い続けるのか。 助けたはずの母子との出会いは、やがて翔太自身が封じ込めてきた過去を呼び覚ましていく――。因果応報|人生逆転1.9萬字5 5 -
完結第12話
一万八千円の飯
自分の家族が経営する5つ星ホテルで、何気なく注文した一品の炊き込みご飯。 メニューでは1,800円に見えたはずなのに、会計明細には「18,000円」と記されていた。 帰国したばかりの後継者・小川優馬は、単なる表示ミスだと思い責任者を呼ぶ。だが、レストラン責任者は「社長が承認した価格です」と言い切った。 父が守ってきたホテルで、なぜ一杯のご飯が10倍の値段になっているのか。 優馬が調べ始めると、異常な価格変更、不可解な仕入れ、法人客への不自然な請求、そして継母・里見の影が浮かび上がっていく。 やがてその小さな違和感は、20年前に亡くなった実母・秋子の死、奪われた母方の財産、腹違いの弟の秘密、そして恋人だと思っていた女性の正体へとつながっていく。 始まりは、たった一杯の炊き込みご飯だった。 だが、その18,000円の明細は、運海ホテルに隠された20年越しの闇を開く鍵だった――。因果応報|修羅場1.7萬字5 11