みかん小説
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"60代からの第二の人生" 第1話

の夜。底えのする厳しい寒気が、根瓦やアスファルトをく染めげていた。の葉はすっかり落ち、え切った枯らしが線をかすかに震わせている。

私は私病院の裏て、分いダウンコートのを固く閉め、取りでバスへと向かった。自宅の玄関をけたのは、午きく回った頃だった。

「ただいま……」

吐きした息が、玄関の暗い灯りのくにじむ。病院の調理員として働き始めてから、今でちょうどの歳が流れていた。に起し、凍えるような厨で何百分もの入院の仕込みに追われる毎きな回転釜から気と湯気、量の野菜を刻み続ける包丁の振を流す靴のたさ。今歳を迎えた私の腰や両膝には、分の労働の疲労が鉛のようにずっしりとのしかかっていた。

え切った廊を通り、居かりを灯す。のスイッチを入れ、コートを脱ぎ捨てていため息をつきながら、私は吸い寄せられるように柔らかなソファーへとを沈めた。

凝り固まった首筋を揉みほぐし、エプロンのポケットから取りしたスマートフォンを何気なくタップする。画面のロックを解除したその、メッセージアプリの通界にび込んできた。

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送り主は、息子の直哉だった。

画面に表示された最初のを網膜が捉えた瞬、私の全から急速に血の気が引いていくのが分かった。指先が氷のようにたくなり、臓がきりきりと締め付けられる。

『正に私たちハワイくんです。なので子供預かってください。』

質な黒いフォントが、たい液晶画面ので残酷にっていた。私はわず息を呑み、瞬きも忘れてそのい文面を何度も見つめ返した。読み違いではないか。冗談の類ではないか。しかし、スクロールした画面には、さらに淡々とした続きがあった。

からまでハワイってきます。よろしく。』

「よろしく」——たったそれだけの言葉。 そこには、母親の都を尋ねる気遣いも、始の予定を伺う配慮も、ましてやの幼子を引き受けてくれるかという最限の懇願のニュアンスすらしなかった。まるで職で部に定例の雑務を押し付けるかのような、あるいは請け業者に決定事項をに通告するかのような、あまりにも淡で尊な文面だった。

「ちょっと待ってよ……。これって相談じゃなくて、もうで勝に決めたことじゃない……」

声にして呟いた私の独り言は、静まり返ったリビングに震えながら落ちて消えた。すると、隣のの引き戸が静かにき、夫の浩司が鏡の奥の目を丸くしながら配そうに顔を覗かせた。

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「京子、どうしたんだ? そんな青い顔をして。また厨で腰でも痛めたのか?」

浩司は元の老鏡をテーブルに置き、にソファーのそばへと歩み寄ってきた。私は震える両でスマートフォンを持ち直し、掠れた声で画面を浩司の目のへと差しした。

「あなた、これ……直哉からのメッセージを見てちょうだい」

浩司は訝しげに眉をひそめながら画面を覗き込んだ。次の瞬、定を迎えて穏やかになったはずの夫の表変した。眉りの皺が刻まれ、唇がわなわなと震え始める。

「なんだこれは……『子供預かってください』だと? 正に、何の相談もなくか?」

浩司のく呻くような声が響く、私は震える親指でさらに画面をへとスクロールさせた。そこには、私たち夫婦を完全に凍りつかせる決定な追伸が連なっていたのである。

『ハワイ旅、母さんがに援助してくれた万円でけることになりました。謝してます。子供たちのこと、任せましたよ。』

文字を追った浩司の息が完全に止まった。リビングの空気が瞬にして氷点にまで急したかのようだった。私は力なくスマートフォンの画面を見つめたまま、言葉を失って唇をく噛み締めた。

「俺たちので旅って……その、俺たちにの子供を押し付けるっていうのか……」

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