"妻の葬儀で老犬が暴いた秘密" 第3話
ばらばらに見えた来事が、本の細い線でつながり始めていた。
しかし、私はまだ警察へ話しなかった。
元自官が、妻を失った直に内を疑っている。それだけでは、しみによる混乱と受け取られるかもしれない。
私に必なのは、疑いを信じてもらうことではない。
現状を壊さず、正しい順で確認してもらうことだった。
私は古い連絡先から、武田直という名を探した。
かつて私の部だった男である。退官に警察官となり、現は県警の捜査部に勤務していると聞いていた。
午9を待ち、話をかけた。
「ご無汰しています。田です」
『佐……いえ、田さん。奥様のことを聞きました。お悔やみ申しげます』
「ありがとう。個な頼みではない。警察官として、次に何をすべきか教えてほしい」
話の向こうで、直の息遣いが変わった。
直には、見たことだけを話した。
老犬が祭壇へびかかったこと。災を消すため祭壇をかし、自然に浮いた板を発見したこと。その隙から、属製の物と類らしいが見えること。
健への疑いはにしなかった。
『まだ板には触れていませんね』
「ああ。写真を撮っただけだ」
『そのままにしてください。部にも、必がなければ誰も入れないでください』
直は司へ報告し、幸子のに対応した警察署とも報を共すると言った。
広告
元官だから便宜を図るのではなく、つの通報として扱うこともを押された。
「それでいい。その方がいい」
話を切った、私は祭壇の部を閉めた。
正午、直と元署の捜査員、それに鑑識担当者が到着した。全員が玄関で袋と靴カバーを着け、私が撮した写真を確認してから部へ入った。
板には番号札が置かれ、傷のつつが撮された。の修繕歴も聞かれたが、なくとも私がる限り、この所の板をしたことはない。
やがて具が差し込まれた。
乾いたが擦れる音とともに、板がゆっくり持ちがる。廊の奥へ移した太郎が、再びい声で鳴いた。
暗いへが入った。
最初に現れたのは、に汚れた拭いだった。その布に半分包まれるようにして、青の瓶が横倒しになっている。
私は見た瞬に分かった。
「それは、幸子の瓶です」
「違いありませんか?」
「玄関の飾り棚に置いてありました。季節の枝物をけるだけ使っていた物です」
最に見たのは、妻がくなる2週ほどだった。庭の陽を枝切り、幸子がその瓶へけていた。
葬儀のになくなったことには気づかなかった。妻を失った直に、玄関の瓶の数を確かめるはずもない。
瓶の底に、黒褐の汚れが付着していた。細い毛髪のようなものも絡んでいる。
広告
鑑識担当者が部を採取した。簡易検査を終えると、表を変えた。
「血液の能性があります。もちろん、現点では断定できません」
私は階段の方を見た。
幸子は階段から転落した。それが因だと聞かされていた。
ところが、妻が使っていたい瓶がから見つかり、その底には血液らしい痕跡が残っている。
偶然で説するには、自然な点がすぎた。
瓶が証拠袋へ収められたあと、から2枚の類が取りされた。
のには、《産持分譲渡》と印刷されていた。
対象はこのと。
譲渡を受ける者の欄には、健の名がある。
そして譲渡する者の欄には、幸子の署名と実印らしき印が押されていた。
「この字は、妻の字ではありません」
私は類へ触れない位置から答えた。
幸子には、自分の名の最の画をへく流す癖があった。目のの署名は形がいすぎ、その特徴がない。
「比較できる資料はありますか」
「帳もも残っています。関係の類にも署名があるはずです」
さらに奇妙なのは、類がへ隠されていたことである。
幸子が自分のでを譲るなら、堂々と保管すればよい。血のついた瓶と緒に、祭壇のへ隠す理由はない。
捜査員は私を別へ呼んだ。
「奥様のについて、事故という見方だけでめることはできなくなりました。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
帰国したら、夫に双子がいた
1年間の海外赴任を終え、千里が帰国した日。空港で夫・修平の隣に立っていたのは、20年来の親友・春奈だった。 しかも春奈のお腹には、双子の命が宿っていた。 妻が海外で夫の会社を支えるために働いている間、夫と親友はいつの間にか深い関係になっていた。怒鳴ることも泣き崩れることもなく、千里は静かに指輪を外し、離婚の準備を始める。 だが、春奈の妊娠時期、家計口座から流れていた大金、そして義母が密かに残していた録音が、思いがけない真実へとつながっていく。 双子は本当に夫の子なのか。 親友が欲しかったのは愛だったのか、それとも高瀬家という安全な居場所だったのか。 裏切られた妻が、夫も親友も頼らず、自分の人生を取り戻していく静かな逆転劇。夫婦|第二の人生|修羅場|不倫2.2万字5 28 -
完結第14話
帰国した僕を待っていたボロ家
7年間、アメリカで必死に働き続けた木村健二。 妻と息子、そして母のために仕送りを続け、岐阜の実家も新しく建て替えた。帰国の日、健二は家族が立派な新居で自分を待っていると信じていた。 しかし、そこで彼を迎えたのは母と兄夫婦だけ。妻・早苗と息子・勇気の姿は、家のどこにもなかった。 不審に思った健二が辿り着いたのは、町外れの川沿いに建つ古びたプレハブ住宅。そこには、やつれた妻と、破れた問題集を大切に使う息子の姿があった。 自分が送った大金は、どこへ消えたのか。 なぜ妻子だけが新居から追い出されたのか。 7年間信じてきた“家族”の裏側で、健二の知らない嘘と沈黙が静かに積み重なっていた――。夫婦|真相|親子関係2.0万字5 1644 -
完結第12話
私の名前を消した夫
東京国際リハビリテーション医療センターの着工記念式典当日、神崎しおりは会場入口で足を止められた。 招待者名簿から、彼女の名前だけが消されていたのだ。 3年間かけて基幹設計を作り、祖父から受け継いだ絵画を売って5億円まで投じたプロジェクト。その晴れ舞台に立っていたのは、夫・尚弥と、しおりのVIPバッジを胸につけた若い女性だった。 「肩書きを貸すだけだ」 そう言い放つ夫を前に、しおりは静かに会場を去る。 しかしその直後、彼女が一本の電話をかけた瞬間、巨大プロジェクトは音を立てて崩れ始める。 奪われた名前、盗まれた設計、消えた5億円。 すべてを踏みにじられた女が、自分の名で立ち上がる逆転劇――。人生逆転|夫婦|不倫1.7万字5 308 -
完結第12話
愛人とタイへ行った夫の10日後
夫の浩司は「タイ出張」と言い残し、10日間家を空けた。 その間、寝たきりの義母の介護を任された由美は、いつものように暴言と呼び鈴に追われる日々を送るはずだった。だが、夫のスマートフォンに残された一通のメッセージから、出張が嘘だったことを知ってしまう。 浩司は若い愛人と海外旅行へ行き、しかも由美の父が残した遺産まで使い込んでいた。 さらに書斎の奥から見つかったのは、すでに署名された離婚届と、愛人からのピンク色の便箋。そこには、由美を介護要員として使い捨てる計画が書かれていた。 28年間、妻として嫁として耐え続けてきた由美は、その日初めて家を出る。 そして10日後。 何も知らずに帰国した浩司を待っていたのは、由美が静かに整えた反撃の場だった――。因果応報|夫婦|不倫|熟年離婚1.8万字5 107 -
完結第10話
27年後、娘は父の葬儀に帰ってきた
1995年、学校帰りの10歳の少女・美穂は、灰色の服を着た女に連れられ、そのまま姿を消した。 母・佐和子は27年間、娘の帰りを待ち続けた。だが夫の正人は、地域では「娘を捜し続ける父」として知られる一方で、どこか不自然な沈黙を守っていた。 そして27年後、正人の葬儀の日。 遺族席の佐和子の前に、見知らぬ大人の女性が現れる。彼女が差し出したのは、美穂が幼い頃になくしたはずの花形の髪留めだった。 「お母さん、迎えに来たよ」 再会のはずの言葉は、なぜか冷たかった。 娘はなぜ母を恨んでいたのか。失踪当日、母を学校から遠ざけた電話は何だったのか。そして、27年間隠され続けた手紙と書類が、家族の嘘を静かに暴き始める――。ミステリー|真相|行方不明1.5万字5 55 -
完結第10話
消えた母と2800万円
1998年12月25日、長野県の信用金庫で働く宮本佳代は、給料日の夜に突然姿を消した。 支店では2800万円が消えたと騒ぎになり、佳代は現金を持ち逃げした女性行員として扱われる。家に残された娘の奈緒は、母が用意していたクリームシチューとケーキを前に、帰らない母を待ち続けた。 3日後、千曲川の河原で見つかった母の靴と赤い囲巾。さらに東京行きの片道切符、夫の証言、不自然な借金整理――すべてが「母は家族を捨てて逃げた」と示しているように見えた。 それから23年後。 閉鎖された商店街の地下から、古い貸金庫が発見される。中に入っていたのは、佳代の印鑑、12冊の通帳、そして奈緒が生まれる前に作られたはずの“存在しない口座”だった。 母は本当に2800万円を盗んだのか。 あの夜、灰色の箱に入っていたものは何だったのか。 娘の奈緒が23年越しにたどり着いたのは、信用金庫、父、そして町全体が隠してきた、あまりにも残酷な真実だった――。ミステリー|真相1.5万字5 49 -
完結第11話
家族席から外された弟
父の還暦祝いと、実家の弁当店《味よし》創業三十周年を兼ねた宴席。 十年間、早朝から店を支えてきた次男の章平は、兄から冷たく告げられる。 「おまえは家族席じゃない。配膳が終わったら厨房に戻ってくれ」 看板商品の味を守り、配達先を増やし、病気の妻と娘のために考えた献立まで店に捧げてきた章平。だが、会場で語られる店の歴史に、彼の名前はなかった。 さらに兄が発表した新事業には、亡き妻のレシピから生まれた料理が、兄の功績として並んでいた。 悔しさをこらえて帰宅した章平は、冷蔵庫の上に置いていたはずの青いレシピノートが消えていることに気づく。 翌朝、店に現れなかった章平。 消えたのは一人の「手伝い」ではなかった。 実家の弁当店を三十年支えてきた、本当の味そのものだった――。兄弟姉妹|相続|金銭問題1.6万字5 491 -
完結第14話
3人の息子は、夫の隠し子だった
離婚届に署名した直後、夫・総一郎は私に言った。 「3人の息子の中から1人選べ」 名門・斎藤家の妻として、5年間、私は3人の息子を育ててきた。けれど彼らは、私の実子ではなかった。夫の愛人が産んだ子どもたちだったのだ。 そして、家の中でただ一人、冷たく扱われていた娘・小春だけが、私にとって守るべき存在だった。 「あなたの隠し子なんて、1人もいらない」 そう告げて娘の手を取った瞬間、斎藤家が隠してきた嘘が崩れ始める。 親子鑑定書、偽造された書類、奪われかけた親権、そして夫がどうしても小春を手放そうとしなかった本当の理由。 離婚は終わりではなかった。 娘を守るため、そして自分の人生を取り戻すための、静かな反撃がここから始まる――。夫婦|親子関係|不倫2.1万字5 264 -
完結第11話
裏口に回された仕立て屋
孫の発表会の日、68歳の佐和子は嫁から「業者は裏口から入ってください」と告げられる。 舞台に立つ47人の子どもたちが着る衣装は、すべて佐和子が三か月かけて縫い上げたものだった。材料費も立て替え、客席にも座れず、舞台裏で補修を続けた佐和子。 しかし終演後、保護者たちの会話から、嫁が衣装代として大金を集めていたことを知る。 さらに衣装箱には見知らぬ店名のシールが貼られ、ネットには佐和子の作業場が“嫁の実績”として掲載されていた。 家族のため、孫のため。そう思って飲み込んできた佐和子だったが、ある書類に自分の名前が勝手に使われていることを知った瞬間、静かに立ち上がる。 奪われたのは、お金だけではなかった。 名前も、時間も、技術も――。 佐和子は、自分の仕事を取り戻すため、初めて家族に「無償ではない」と告げる。嫁姑|親不孝|真相1.6万字5 647