"給食を食べなかった少女" 第9話
「覚えてるよ」
「今うと、馬鹿ですよね」
林は首を振った。
「歳なりに、族を守ろうとしてたんだろ」
「でも、誰にも言わなかった」
「それはよくなかった」
「はい」
「先にも嘘ついた」
「はい」
「腹痛まで」
「もういいじゃないですか」
は笑った。
子は。
茶封筒を。
机へ置いた。
「これはもう使わないことにします」
「捨てるのか」
「いいえ」
女は。
封筒を。
鞄へ戻した。
「取っておきます」
「どうして」
「自分が先になった、忘れないように」
林は。
返事をしなかった。
胸の奥が。
しくなった。
歳の女が。
舎裏で。
をんでいた。
自分は。
ただ。
かわいそうだとった。
けれど。
子が。
本当に欲しかったのは。
かわいそうだから。
べ物を与えられることだけではなかった。
自分の誇りも。
も。
緒に。
守ってもらうことだった。
それから何も経った。
子はを卒業し、さらに勉を続けた。
は。
決して平坦ではなかった。
父の収入だけではりず。
働きながら学んだ期もある。
の内職を。
夜まで伝った。
栄治のは。
最まで。
完全には戻らなかった。
けれど。
父は。
娘が「もう働こうか」と言うたび。
昔とは逆のことを言った。
「今しかできないことを先にやれ」
歳で。
学をた男が。
娘には。
学へけと。
言うようになった。
子は。
やがて。
教師になった。
初めて教壇へった。
広告
緊張した。
自分が。
林先のように。
子どもの顔だけで。
何かを見抜けるとは。
わなかった。
実際。
見逃したことも。
たくさんあった。
るく笑う子が。
では。
苦しんでいたこと。
忘れ物がい子が。
怠けているのではなく。
に。
文具そのものが。
なかったこと。
を。
いつも。
誰かへ分ける子が。
優しいだけではなく。
自分がべることへ。
慮していたこと。
教師になって。
初めて。
林も。
全部分かっていたわけではないと。
気づいた。
ただ。
見つけたに。
見なかったふりを。
しなかった。
それが。
切だったのだとう。
あるの昼休み。
子は。
廊を歩いていた。
の。
教から。
子どもたちの声が聞こえる。
ふと。
の女が。
廊の端で。
っているのが見えた。
「どうしたの」
女は。
お腹を押さえた。
「先、お腹が痛いです」
その言葉を聞いた瞬。
子は。
を止めた。
何も。
自分も。
同じことを言った。
本当に。
腹が痛いのかもしれない。
もちろん。
最初から疑うべきではない。
子は。
保健へ。
連れていった。
診てもらう。
はない。
し休むと。
女は。
「もう丈夫です」
と言った。
ただ。
のが。
終わるまで。
教へ戻ろうとしなかった。
子は。
問い詰めなかった。
隣へ座った。
「先もね」
女が。
議そうに見る。
「子どもの頃、のになるとお腹が痛くなってた」
広告
「先も?」
「うん」
「病気だったんですか」
子は笑った。
「違う」
し考え。
続けた。
「言いたくなったら、理由を聞くよ。今は言いたくなければ言わなくていい」
女は。
しばらく黙っていた。
やがて。
さな声で。
「お父さん、仕事なくなった」
と言った。
子は。
何も驚いた顔をしなかった。
「そう」
「のお、まだ払ってない」
「そう」
「べていいの?」
その言で。
子の胸に。
昔の舎裏が。
よみがえった。
たい。
濡れた。
林先。
《ただでもらってるみたいだから》
歳の自分。
子は。
女へ言った。
「べていいよ」
「でも」
「おのことはとで考える」
「先、られない?」
「られたら先が考える」
女は。
まだそうだった。
子は。
しだけ笑った。
「それから、特別にしてほしくなかったら、そう言っていい」
女が顔をげた。
「みんなに言わない?」
「言わない」
「かわいそうって言わない?」
その言葉を聞いた。
子は。
瞬だけ。
目を閉じた。
「言わない」
はっきり答えた。
「ただ、困ったはで決めないで」
女は黙った。
「先も緒に考えるから」
その言葉を言ってから。
子は。
わず。
笑った。
何も。
林に。
同じことを言われた。
より。
の方が。
考えられる。
女は。
そののへ。
戻った。
全部は。
べなかった。
でも。
パンを。
べた。
次の。
また。
数には。
皆と同じように。
べるようになった。
子は。
その姿を。
特別な目で。
見ないようにした。
教師になったから。
子どもの貧しさを。
なくせるわけではない。
庭の問題を。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
「もう来なくていい」17歳の姉が偽名で働き続けた理由
「高瀬さん、今日から工場へ来なくていい」 集団検診の翌朝、17歳の姉だけが門前で止められた。 寄宿舎へ戻ると、作業着も櫛も裁縫箱も、すべて紙箱に詰められていた。 理由を聞いても、姉は「知らん」としか答えない。 周囲では、盗みをしたのではないかという噂まで広がった。 3日後、妹は姉の前掛けから一枚の紙を見つける。 赤鉛筆で書かれていたのは、 《要精密検査》 姉は病院へ行かず、寄宿舎からも姿を消した。 一週間後、別人の名前で小さな縫製工場に勤めていることが分かる。 「病気やと決まったら、家族へ金を送れへん」 だが翌月、その名前の本当の持ち主が大阪へ来ることになった。 しかも工場では、全員の胸部検診が予定されていた。時代|歴史|昭和1.6万字5 2 -
完結第10話
昭和39年、姉の「元気です」に隠された嘘
「元気です。心配しないでください」 昭和39年、15歳で東京へ集団就職した姉は、毎月その一行だけを送ってきた。 手紙好きだった姉が、家族へ何も書かなくなった。 しかも葉書の消印は、北区、荒川区、足立区、墨田区と毎回違っていた。 「姉ちゃん、本当はどこにいるの?」 妹が尋ねても、返事はまた同じだった。 《ちゃんと同じ工場で働いています。元気です》 正月にも帰らず、工場の住所さえ知らせない姉。 やがて同じ町から東京へ出た少女が、体を壊して帰郷した。 「春ちゃん、何度か私の寮へ来たよ」 そう言って少女が差し出したのは、青森の両親へ送った一通の手紙だった。 差出人は少女の名前――しかし、そこに並んでいた文字は間違いなく姉の筆跡だった。時代|歴史|昭和1.4万字5 31 -
完結第11話
「名前を書くな」公害病の申請を止めた父と、娘の「息がしたいだけ」
「その申請書に、名前を書くな」 昭和49年、ぜん息で学校の校庭に倒れた12歳の娘へ、父はそう言った。 父が18年間働いてきたのは、町の空を煙で覆う臨海工場。 申請すれば、治療費の負担が軽くなるかもしれない。 だが同じ頃、父には念願だった班長昇進の話が出ていた。 「会社と地域の間に立つ人間として、よく考えてほしい」 係長の言葉に、父は申請書を引き出しへしまった。 数日後、食卓に置かれた書類には、娘の名前だけが書かれていた。 「私、お父さんの会社を潰したいんじゃない」 娘は咳をこらえながら、父を見上げた。 「ただ、息がしたいだけ」 その週の土曜日、父は娘と役所を訪れた。 保護者署名欄を前に、父のペンは長い間止まったままだった。時代|歴史|昭和1.6万字5 1 -
完結第11話
13歳の娘だけ、保険証にいなかった
「お母ちゃん、どうして私の名前だけないの?」 昭和36年、藤井家に届いた新しい国民健康保険証。 父、母、10歳の弟、7歳の弟――家族全員の名前が並んでいた。 けれど13歳の美津子だけが、どこにも載っていなかった。 母は保険証を取り上げ、「役場の間違いだから」と隠した。 父も黙ったまま、一度も娘の顔を見なかった。 不安になった美津子は、翌朝一人で役場へ向かった。 職員は台帳をめくると、急に表情を曇らせた。 「お母さんと一緒に来た方がいい」 「私、藤井美津子ですよね?」 返事はなかった。 そして最後に、職員は重い口調で告げた。 「あなたは、修一さんと和子さんの戸籍には入っていないんだよ」 その夜、美津子が「私は誰の子なの」と問い詰めると、母は13年間隠してきた女性の名前を口にした。歴史|昭和|ミステリー1.6万字5 441