1993年春、東京・杉並の古い瓦屋根の家で、東京大学出身の若い嫁・斉藤さゆりが突然姿を消した。 妊娠中だった彼女のコートも財布も靴も、家には残されたまま。夫が出張から戻ると、姑のふみは静かにこう告げた。 「昨日の夜、荷物をまとめて出て行った」 だが、さゆりが家出をする理由はどこにもなかった。実家の母は「娘は絶対に自分から消えたりしない」と訴え、友人の手元には、さゆりが失踪前に残した不穏な手紙があった。 そこに書かれていたのは、妊娠をきっかけに変わっていった姑の態度、赤ん坊への異常な執着、そして「何かあったら」という言葉。 それでも決定的な証拠は見つからず、事件は長い間、失踪として処理されてしまう。 しかし13年後、杉並警察署に差出人不明の手紙が届く。 「古い水亀の下を掘ってみてください」 すでに取り壊された家の跡地。かつて庭だった場所から掘り起こされたものが、13年間隠されてきた家族の嘘を暴き出す。 嫁は本当に家を出たのか。 姑は何を守ろうとしたのか。 そして、匿名の手紙を送った人物は誰だったのか。 春の庭に埋められていたのは、遺骨だけではなかった――。