四十八年間、正月のたびに手作りおせちを作り続けてきた和子。 黒豆、数の子、昆布巻き、栗きんとん、紅白なます。三日かけて仕込んだ料理を重箱に詰め、毎年「田中家の正月」を守ってきた。 けれど元旦の朝、家族の箸はほとんど重箱へ伸びなかった。夫は紅白なますだけを食べ、やがて何気なく言う。 「カップ麺ないか?」 その一言で、和子の中に積もっていた四十八年分の疲れと虚しさが静かにあふれ出す。 なぜ誰も食べないおせちを、私は作り続けてきたのか。 なぜ夫は、紅白なますだけにこだわるのか。 嫁の一言、孫との時間、そして家族で遊んだ料理ゲームをきっかけに、和子は初めて自分の本音を口にする。 「私が、それを四十八年やってきたのよ」 これは、誰かのためだけに我慢してきた女性が、“自分の正月”を取り戻すまでの物語。