"重箱を閉じた日" 第3話
数の子も黒豆も昆布巻きも、子供には馴染みのないものばかりです。
嫁が静かにをきました。
「子供にはしいといます」
夫の目が鋭くなりました。
嫁は目を逸らしません。
その空気に息子が気づきましたが、何も言いませんでした。
私は自分の皿を見つめました。
私だって本当はべたいものがあります。
温かい雑煮。
焼きたての卵焼き。
みんなで笑いながらべる唐揚げ。
でも、それを言ったことは度もありませんでした。
分が過ぎました。
孫の皿はほとんど減っていません。
夫だけがなますをべ続けています。
「やっぱり正はこれだな」
満そうな声。
しかし誰も反応しません。
息子は黙っています。
嫁は笑っていません。
孫は困っています。
夫だけがで正をしていました。
やがて孫がさな声で言いました。
「ママ、帰りたい」
嫁はそっと孫のを握りました。
私はその様子を見ながらいました。
このままでは来、誰も来なくなる。
孫は正を楽しいだとえなくなる。
嫁は私と同じ所につ。
そしていつか孫も――。
その未来が見えた気がしました。
そのでした。
孫が急に顔をげました。
「ねえ、みんなでゲームしようよ!」
の空気を変えようとしているのが分かりました。
息子が笑います。
「いいな。何やる?」
「料理のゲーム!」
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孫は嬉しそうにゲームを持ってきました。
画面にはさな台所が映っています。
お客さんの注文にわせて料理を作る協力ゲームでした。
「親父もやろうぜ」
息子が言いました。
夫は嫌そうな顔をしました。
「くだらん」
しかし孫は諦めません。
「お願い! でやらないとクリアできないの!」
その言に夫も負けました。
渋々コントローラーを持ちます。
それが、いもよらない転になるとは、まだ誰もりませんでした。
ゲームが始まりました。
画面のの台所は混乱でした。
鍋が沸騰する。
フライパンが焦げる。
皿がりない。
注文がどんどん溜まる。
「材料切って!」
「皿洗って!」
「鍋が焦げる!」
「注文にわない!」
族全員が慌ただしく声をげます。
孫は笑っています。
嫁も笑っています。
息子も久しぶりに楽しそうです。
そして夫も――。
「なんだこれは!」
夫が叫びました。
「忙しすぎる!」
さらに画面ので料理が焦げます。
「誰か取れ!」
「皿がりん!」
「こんなの無理だ!」
夫は完全に振り回されていました。
そして次の瞬。
夫がわず叫びました。
「でできるか!」
その言葉を聞いた瞬でした。
私ので何かが止まりました。
笑い声がざかります。
テレビの音もくなります。
聞こえるのは自分の呼吸だけでした。
私はさく呟きました。
本当にさな声でした。
けれど確かに言いました。
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「私が……」
誰もきません。
私は続けました。
「私が、それをやってきたのよ」
静かな言葉でした。
鳴ったわけではありません。
責めたわけでもありません。
ただ事実を言っただけでした。
しかしその言葉はかった。
夫のが止まりました。
息子も止まりました。
嫁も止まりました。
孫も画面から目をしました。
ゲーム画面にはきく「ゲームオーバー」の文字。
そして部には沈黙が落ちました。
夫はその文字を見つめています。
自分が吐いた言葉。
「でできるか」
その言葉が自分自に返ってきたのです。
私は胸の奥で何かが切れる音を聞きました。
りではありません。
諦めでもありません。
、自分を縛っていた縄が静かに切れた音でした。
私はいました。
もうみ込まない。
もうだけできない。
私にも正があっていい。
私にもがあっていい。
そうえたのです。
ゲームが終わったも、誰もすぐには話しませんでした。
静かな空気ので、私はゆっくりをきました。
「来の正、どうするか決めましょう」
夫が顔をげます。
何か言おうとしました。
しかし言葉がません。
その代わりに嫁がちがりました。
そして私の隣に並びます。
「約束通り、お母さんの正を返しましょう」
その言葉は優しく、そして力く響きました。
夫は黙ったまま俯きます。
しばらくしてから、さな声で言いました。
「なますだけは……あってほしい」
私は夫を見ました。
またその言葉。
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