"消された母の名前" 第3話
「度と、そんなこと言わないで」
里美は頬を押さえた。
「否定しないの?」
「私はあなたを育てた」
「聞いているのは、誰が育てたかじゃない。誰が産んだかよ」
清子は何も言わず、へ入った。
その夜、卓に母は来なかった。
里美はで夕をべた。
噌汁のがしなかった。
53、母親だとってきたが、母親ではないかもしれない。
それなのに、すぐに直子へ会いたいとはわなかった。
もし本当に実の母親だったら、何を聞けばいいのか。
なぜ捨てたのか。
会いたいとわなかったのか。
毎を受け取りながら、どうして度も姿を見せなかったのか。
りより、恐怖の方がきかった。
今までのが嘘になるわけではない。
そう自分へ言い聞かせても、元のがしずつなくなるような覚がした。
夜、清子の部から物音が聞こえた。
里美が様子を見にくと、母は箪笥のをへしていた。、タオル、古い、通帳。何かを探している。
「何してるの?」
清子は里美を見げた。
「直子が来る」
「ここには来ないよ」
「昨、駅で見た」
「昨はからてないでしょう」
「嘘をつかないで」
清子は部の隅へがった。
「また、あの子を連れていくつもりでしょう」
「あの子って誰?」
清子の線が、里美のろへ向いた。
誰もいない廊を見つめている。
「里美よ」
母は震える声で言った。
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「里美を返せって、直子が来る」
里美はけなかった。
清子は目のにいる娘を、里美だと分かっていない。
それとも、過のある点へ戻っているのか。
翌朝、里美は域包括支援センターへ話した。
母の物忘れ、付の混乱、しないを見たことを説する。数、専の病院を受診することになった。
検査の結果、清子には認症の初期症状が見られた。
記憶の部が抜け、現と過が混ざることがある。慣れた所では活できるが、今はの管理や薬、に注が必だという。
診察、医師は里美だけを別へ呼んだ。
「お母さまは、何かく抱えているがありますか」
「どうしてですか」
「認症では、昔のいが現の来事として現れることがあります。事実と違う話でも、ご本にとっては本当に起きているようにじられます」
直子が来る。
里美を連れていく。
母が恐れているのは、病気が作っただけではない。
里美はそうった。
若葉の郷へくことを決めた。
清子には言わなかった。
母の記憶が完全に失われるに、自分のについて確かめなければならない。
そうしなければ、里美はこれから母を介護するたび、自分が誰のを守っているのか分からなくなる気がした。
若葉の郷は、を背にしたさな福祉施設だった。
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齢者施設ではなく、体や精神の事で暮らしが難しいたちが活する支援施設だった。平の建物のにはさな畑があり、数の利用者が職員と緒に野菜を収穫していた。
里美は受付で事を説し、戸籍謄本を見せた。
施設の田切という女性は、すぐには直子へ会わせなかった。
「川島さんは、現こちらで活されています。ただ、ご本が面会を望まれるか確認させてください」
「私のことをっているんですか」
「私からは、お答えできません」
待で30分ほど待った。
壁には利用者が作った折りや彩画が飾られていた。計の秒針の音だけがきく聞こえた。
やがて田切が戻ってきた。
「川島さんがお会いになるそうです」
直子は、談話の窓際に座っていた。
76歳。
清子より7歳若いはずだが、実際には10歳以に見えた。髪はほとんどく、体は細い。がし震えていた。
里美が部へ入ると、直子はちがろうとした。
「そのままで丈夫です」
里美は向かいの子へ座った。
2はしばらく互いの顔を見た。
直子の目元は、里美によく似ていた。
鏡を見るには気づかなかった特徴が、別のの顔にある。
里美はそれだけで答えをった気がした。
「里美です」
名乗ると、直子は目を閉じた。
「っています」
声は細かった。
「写真を見せてもらっていましたから」
「誰に?」
「孝雄さんに」
父の名だった。
父は、直子と会っていた。
毎の送だけではない。
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