"帰れなかった15歳" 第10話
その問いに、美津子は答えられなかった。
翌、文枝を訪ねた。
文枝は「佐藤子」という名を聞くと、すぐに反応した。
「ああ、ちゃん」
「覚えているんですか」
「もちろん」
文枝は押し入れから古いアルバムをした。
昭30代から40代にかけて、施設で暮らした女性たちの写真が貼られている。
1枚の集写真を指差した。
「この子でしょう」
列の端。
髪をく切った細の女がっていた。
23よりしびている。
けれど美津子には分かった。
「佐ちゃん……」
声がなかった。
顔を指でなぞる。
違いない。
佐子だった。
写真の裏には昭365とかれていた。
つまり佐子は、失踪から1以もきていた。
「この子、自分のことをほとんど覚えてなかったのよ」
文枝は話した。
事故の遺症なのか、最初は自分の齢さえ曖昧だった。
覚えていることが断片だった。
「母ちゃん」
「弟が2」
「」
「」
そして何度もにした言葉があった。
「握り飯」
「握り飯?」
「の皮に包んだ、梅干し入りの握り飯。お母さんが作ってくれたって」
美津子は顔を覆った。
野駅に置かれた柳李。
そのに残っていた最の1つ。
母の握り飯。
佐子の記憶のでは、それだけが故郷とつながっていたのだ。
「所はいさなかったんですか」
「名らしい言葉を何度か言ったけど、はっきりしなかった」
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文枝は当の記録をいしながら説した。
訛りがく、事故は発音も瞭だった。
「かみさわ」
「かみさと」
「かみざわ」
聞くによって違って記録された。
佐子の故郷は、町のからさらにへ入ったさな集落だった。
正式な所と、元のが呼ぶ字名が違っていた。
そこへ、記憶障害がなった。
「聞に尋ねをしたこともあるのよ」
文枝が言った。
「でも見つからなかった」
数が過ぎ、佐子は施設で裁を覚えた。
奇妙なことに、ミシンを見るとが勝にいたという。
島縫製所で過ごしたわずかな期に覚えた技術が、ではなく体に残っていた。
昭41。
21歳になった頃、佐子は施設をた。
「どこへ?」
文枝は古い所録をいた。
「埼玉の縫製所よ。さなところだけど、み込みで雇ってくれるがいたの」
所は残っていた。
美津子はを受け取った。
そして最に尋ねた。
「今もそこに?」
文枝は首を振った。
「それは分からない。でも、数に賀状が来たわ」
美津子は顔をげた。
「数?」
文枝は引きしから葉の束をした。
そのに、昭55の賀状があった。
《先へ。私は元気で働いています。最、昔のことをしずついすようになりました》
最にかれた名。
《佐藤子》
美津子の指が震えた。
佐子はきている。
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なくとも3まで。
しかし、その葉に所はかれていなかった。
消印は埼玉県部だった。
美津子が荒川区へ戻ったのは、それから2だった。
最初の匿名の消印が、どうしても気になっていた。
佐子の所をっている物なら、なぜ直接そうかなかったのか。
《佐子は、京まで来ています》
《野駅で消えたのではありません》
まるで、そこから先を自分で調べてほしいと言っているような文章だった。
美津子は島縫製所の周辺をもう度歩いた。
酒の主。
。
古くからの。
しずつ話を聞く。
そして、1の女性の名へたどり着いた。
野寺千代子。
美津子はしばらく、その名をので見つめた。
23、列ので佐子の袖を握っていた女。
すべての始まりになった女だった。
千代子は結婚し、姓を変えていた。
荒川区の古い宅にんでいる。
を訪ねると、てきたのは38歳の柄な女性だった。
美津子は目で分かった。
齢をねていても、あのの幼い顔ちが残っている。
「野寺千代子さんですね」
女性の顔が張った。
「今は違います」
「亜精密業の美津子といいます」
その名を聞いた瞬、千代子の唇が震えた。
「佐ちゃんと緒の……」
美津子は鞄から匿名のを取りした。
「これをいたのは、あなたですか」
千代子はい、何も言わなかった。
やがてさく頷いた。
「どうして名をかなかったんですか」
「怖かったから」
「23経っているんですよ」
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