"帰れなかった15歳" 第12話
記憶はしずつ戻っていた。
い。
母の名はトヨ。
弟が2。
父はでくなった。
しかし肝の故郷の正式な町名だけが戻らない。
あるは福島だとい、別のには形だと言った。
「聞の尋ね欄にも何度かしたみたい」
だが反応はなかった。
昭50代に入り、佐子は縫製所を辞めた。
その、群馬県との県境にい町のクリーニングで働いていたらしい。
そこへ話をすると、配の経営者が答えた。
「佐藤子さんなら、今もいますよ」
美津子は受話器を握ったままちがれなくなった。
「今も……?」
「ええ。今は休みですけど」
23探し続けたが、突然話の向こう側の世界にいる。
それまで何度「分かりません」と言われたか。
何度「しい報はありません」という返事を受け取ったか。
それなのに今は、たった言。
いますよ。
美津子はすぐトヨへ連絡した。
トヨは68歳になっていた。
髪はほとんどくなり、畑仕事で腰も曲がっている。
息子たちはそれぞれ庭を持ち、町をていた。
それでもトヨだけは、佐子が育ったをれなかった。
「もし帰ってきた、がなくなってたら困るから」
何度引っ越しを勧められても、その言葉で断ってきた。
美津子から話があった。
トヨは受話器をに当てたまま、い返事をしなかった。
「おばさん」
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「……うん」
「佐ちゃんだとわれるが、見つかりました」
「きてる?」
「はい」
トヨは何も言わなかった。
受話器の向こうから、さな音が聞こえた。
泣いているのかとった。
しかし違った。
トヨは仏壇の横に置いていた古い箪笥をけていた。
番の引きしから、何かを取りす。
23、京から返された佐子の柳李。
そして、そのに入っていた古いの皮。
握り飯は当然もうない。
けれどトヨは、の皮だけを捨てられなかった。
何度も洗い、乾かし、ずっと保管していた。
「美津子ちゃん」
「はい」
「私もっていいかい」
「もちろんです」
「握り飯、作ってってもいいかい」
美津子は涙をこらえた。
「きっと、佐ちゃんびます」
翌朝、トヨは23と同じように夜けから台所へった。
米へし麦を混ぜる。
真んへ、自分で漬けた梅干しを入れる。
昔ほどきく握る力はなかった。
も震えた。
それでも3つ作った。
古いの皮へ包もうとして、途でが止まった。
23待ち続けた皮だった。
破れてしまったらどうしよう。
そう考えていると、男の正が言った。
「母ちゃん。使った方がいいよ」
「でも……」
「姉ちゃんにべさせるために取ってたんだろ」
トヨはしばらくの皮を見つめた。
そしてさく笑った。
「そうだったね」
23、守ることばかり考えていた。
けれどこれは、守るための物ではない。
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佐子へ渡すための物だった。
トヨは3つの握り飯を包んだ。
昭584。
トヨは再び京方面へ向かう列に乗った。
23とは違い、隣には男の正がいた。
正は38歳になっていた。
姉がをた、自分はまだ学だった。
「姉ちゃんの顔、覚えてる?」
母に聞かれ、正は窓のを見ながら答えた。
「顔より声かな」
「声?」
「俺が学きたくないって言った、姉ちゃんがった声」
トヨは笑った。
「佐子らしいね」
列がへむ。
23と同じように、の残るがしずつざかっていった。
だが今回は、見送る旅ではない。
迎えにく旅だった。
美津子と千代子は、埼玉の駅で待っていた。
千代子はトヨを見ると、くをげた。
「お母さん……」
「千代子ちゃんだね」
「ごめんなさい」
千代子はそれ以言えなくなった。
トヨはしばらく千代子を見た。
23、自分の娘が守ろうとした女。
もしこの子がいなければ、佐子は予定通りへき、毎仕送りをしていたかもしれない。
そんな考えが、トヨの胸をよぎらなかったわけではない。
けれど目のにいる千代子も、あのは15歳だった。
親に見送られることさえなかった子どもだった。
トヨは千代子の肩へを置いた。
「佐子があんたのをさなかったんなら、それでいいんだよ」
千代子が顔をげる。
「でも……」
「あの子が自分で決めたんだろう?」
トヨはそれだけ言った。
クリーニングは駅からで20分ほどの所にあった。
経営者には事を説し、そのは仕事を休んでもらっている。
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