"最後の迷子放送" 第4話
澄も笑い返しながら、その顔を眺めていた。
遊具が止まったあと、澄は売りで渡された荷物を持ち直そうと、ほんのしだけ京子から目をした。買った靴の包みと提げをつにまとめ、振り返ったには、ついさっきまで目のにいた娘の姿が見えなくなっていた。
「京子?」
くの馬を回り、観覧所の裏側まで見てもいない。最初は別の遊具へったのだろうとったが、数分探しても見つからないうち、澄の胸の内側から急にたいものがせりがってきた。
階段を駆けり、子ども売り、玩具売り、堂を回った。員にも何度も尋ねたが、それらしい女の子を見た者はいなかった。買ったばかりの靴の包みを抱えたまま、澄は混みので何度も娘の名を叫んだ。
「京子! 京ちゃん!」
返事はなかった。幼い子どもをにした自分を責める気持ちと、もう度と会えないのではないかという恐怖が度に押し寄せ、まで震え始めた。その、売りの員が「案内所へきましょう」と澄の腕を支えた。
当の案内所は現よりずっとさかった。事を聞いた若い案内係が放送へり、しばらくすると館内のスピーカーから女性の声が流れた。
「迷子のお呼びしを申しげます。京ちゃん、京ちゃん。お母さまが1階案内所でお待ちです」
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澄は案内所ので両をわせるようにして待った。ほんの数分だったはずなのに、本には何分にもじられたという。やがて階段の向こうから、さな女の子が泣きながらってきた。
京子だった。
澄は目も忘れ、そのへ膝をつくようにして娘を抱きしめた。京子は母親の胸へ顔を押しつけ、「ごめんなさい」と何度も泣き、澄も叱ることなどできず、たださな背を抱き続けた。
落ち着いたあと、京子は妙なことを言った。
「お母ちゃんの声がしたから戻ってきた」
「お母ちゃんじゃないわよ。百貨のお姉さんが呼んでくれたの」
京子は涙の残った顔でし考え、それから笑った。
「でも、お母ちゃんが迎えに来てくれる声だった」
その何気ない言葉を、澄はずっと忘れなかった。
帰りので京子は疲れて眠り、澄の膝のには赤い靴の包みが置かれていた。窓のを流れる夕暮れの町を見ながら、澄は度とこの子のをすまいとに決めた。
けれどその誓いは、いを経て、まったく別の形で母と娘を縛ることになる。
京子が学へがってからも、母娘は毎第1曜を楽しみにしていた。澄の仕事が休みになることがかったのが第1曜で、料や内職の代を受け取ったあと、余裕のあるには2で丸百貨へかけた。
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何も買えないでもへき、馬を眺めてから堂でつのクリームソーダを分けるだけで、京子は分に嬉しそうだった。
暮らしがしずつ豊かになるにつれ、百貨も姿を変えていった。売りが増え、堂のメニューが増え、京子が学になる頃には制姿の友同士で買い物へ来る子どもも珍しくなくなった。それでも澄にとって、丸百貨は「娘を度失い、もう度見つけた所」であり続けた。
京子がになると、母娘のにはしずつ違いがまれ始めた。髪をく切りたい、友と映画を見にきたい、修学旅のためにしい鞄が欲しいという娘の希望に、澄はつい慎になった。計の事もあったが、それ以に「危なくないか」「帰りは何か」「誰と緒なのか」と確かめずにはいられなかったのである。
「お母さん、私、もう学じゃないんだよ」
京子にそう言われるたび、澄は「分かっている」と答えた。けれどでは理解していても、夕方を過ぎて娘が帰らなければ落ち着かず、玄関先へ何度もてはの向こうを見つめた。澄のでは、京子は何歳になっても、で瞬目をしただけで消えてしまった5歳の子どもと完全には切りされていなかった。
を卒業した京子は、丸百貨への就職を決めた。
裁が得だったこともあり、婦売りの補助から始め、に裁や寸法直しを担当する売りへ移った。
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