みかん小説
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"届かなかった母の手紙" 第1話

36田のあいにあるさなには、まだの名残が残っていた。田んぼの畦には汚れたがところどころ積もり、朝の空気は袋なしでは指先が痛くなるほどたかった。

さな駅には、いつもよりずっとくのが集まっていた。ホームに並んでいるのは、を卒業したばかりの女たちで、誰もがまだ幼さの残る顔をしていた。

李を元に置く者。呂敷包みを抱える者。真しい学鞄をそのまま持ってきた者もいた。

彼らはこれから、京や阪へ働きにる。

その列のに、15歳の本芳子もいた。

芳子の荷物は、母のハルが何から用してくれた柳李1つだけだった。には着替えが数枚と、用の肌着、呂敷に包んだ裁縫具、それから古いタオルが入っていた。

裕福なではなかった。むしろでも暮らしは楽な方ではなく、父をくにくしてから、ハルが田畑を守りながら芳子を育ててきた。

を卒業したら京で働く。

それは芳子自が決めたことでもあった。

「母ちゃん1で働かせておけないもの」

そう言う娘に、ハルは最初何も答えなかった。ただ囲炉裏の向こうでさく頷き、翌から集団就職の話を聞きに学へ通うようになった。

そしてとうとう、発のが来た。

が入ってくる、ハルは芳子の襟元を何度も直した。

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京はいんだろうな。らないについてくんじゃないよ」

「子どもじゃないよ」

芳子が照れくさそうに笑うと、ハルも笑った。けれど、その笑いの奥に何かをこらえていることを、芳子は分かっていた。

「ちゃんとべるんだよ」

「うん」

邪ひくんじゃないよ」

「分かった」

「困ったらくんだよ」

ハルは同じことを何度も繰り返した。

芳子はしうるさいといながらも、嫌ではなかった。むしろ母のその言葉を聞いていると、まだていないような気がした。

やがてくから汽笛が聞こえ、ホームにいた々が斉に線の先へ顔を向けた。

づくにつれ、あちこちですすり泣く声が聞こえ始めた。

芳子も急に胸が苦しくなった。

まで、自分は京へきたいとっていた。きなで働き、料をもらい、母に仕送りをする自分を何度も像していた。

ところが列にすると、も、古いも、朝になると聞こえる鶏の声さえ、急に放したくないものにえてきた。

「母ちゃん」

芳子は荷物を抱えたまま、ハルを見た。

「何だ」

「私、ちゃんと働くから」

「分かってる」

料も送るから」

「自分で使う分はちゃんと残しな」

「それから……」

に乗り込むの流れに押されながら、芳子は振り返った。

「母ちゃんもいてね!」

ハルは瞬、驚いたような顔をした。

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それから、何度もきく頷いた。

「分かった。くよ」

その返事を聞いて、芳子はした。

座席に着き、窓をけてホームを見ると、ハルはまだ同じ所にっていた。細い体に古いもんぺ姿で、首にはの褪せた拭いを巻いていた。

がゆっくりとき始める。

「母ちゃん!」

芳子は窓からを乗りしそうになりながらを振った。

ハルもを振った。

何度も。

何度も。

ホームがざかり、母の姿がさくなっても、芳子はろさなかった。

隣に座っていた同じ女が泣いていた。向かいのも、顔を窓の方へ向けたまま黙っていた。

芳子は泣かなかった。

京へ着くまでは泣かない。

そう決めていた。

けれど、母の姿が完全に見えなくなった瞬、唇をく噛んだ。

に交わした「く」という約束だけが、胸のに残った。

芳子はその、疑いもしなかった。

数週もすれば、母の字でかれた葉が届く。

季節が変われば、来事をいたも届く。

そうっていた。

母が自分に、度もさないまま4ものが過ぎるなど、15歳の芳子には像もできなかった。

芳子が働くことになったのは、京郊にあるだった。くには方から来た女子従業員のための寮があり、州から集団就職で来た女たちが何も暮らしていた。

初めて寮へ入った夜、芳子は狭い部に並んだ布団を見て驚いた。

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