"届かなかった母の手紙" 第4話
芳子は何気なく線を落とした。
そこに、自分の名があった。
「本芳子」
郵便振替の控えだった。
田のから、芳子宛てに毎額のが送られていた。
芳子はを止めた。
「これ……」
わず声がた。
寮母が振り返った。
「ああ、それね」
「誰からですか」
芳子は分かっていながら尋ねた。
差の欄には、局員が代したようなった文字で、たった3文字がかれていた。
「母より」
芳子はしばらくけなかった。
毎、母からが送られていた。
寮の活費などの関係で本の元へ直接渡されない形になっていた分もあり、芳子は送り主を細かく確認したことがなかった。
「ずっと届いてるよ」
寮母は何気なく言った。
「くはないけど、毎きちんとね。お母さん、頑張ってるんだねえ」
その言葉を聞いた瞬、芳子の胸に湧いたのはびではなかった。
りだった。
「おだけ……」
自分でも驚くほどい声がた。
は1枚もかない。
誕にも何もない。
病気で報を打っても返事をしない。
それなのにだけは送ってくる。
芳子には理解できなかった。
その夜、布団へ入ってからも、のに「母より」という文字が残った。
「おを送れば母親の役目は終わりなの?」
声にはさなかった。
けれど胸ので何度も繰り返した。
貧しいからを作って送ってくれている。
普通なら謝すべきことなのかもしれない。
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しかし芳子が欲しかったのはではなかった。
母の言葉だった。
たった言でよかった。
「元気か」
「頑張れ」
「帰っておいで」
それさえあれば、京でどれほど疲れても耐えられた気がした。
なのに母は、番欲しいものだけをくれなかった。
寂しさは、いつしかりへ変わっていった。
母のことを考えると、胸が痛む。
だから考えないようにした。
田という言葉を聞いても、反応しない。
寮の仲が帰省の話をしていても、会話に入らない。
「芳ちゃんは正帰らないの?」
「うん。仕事あるから」
それだけ答えた。
実際には休みを取れるもあった。
けれど帰らなかった。
母の顔を見るのが怖かった。
会ったら、「なぜをくれなかったの」と言ってしまいそうだった。
もし母が平然とした顔で「忙しかった」と答えたら、自分はもう度と田へ戻れなくなる気がした。
そうして2目が過ぎた。
3目も過ぎた。
芳子はしずつになった。
料もわずかにがり、仕事の責任も増えた。
故郷からてきたばかりの頃のように、夜になるたび泣くこともなくなった。
それでも毎、母からの送は途切れなかった。
額はきくない。
だが必ず同じ頃に届いた。
差はいつも、
「母より」
芳子はその3文字を見るたび、を閉ざしていった。
「どうせ私には、これしか送るものがないんでしょ」
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そううことで、自分を守っていた。
昭40。
芳子は19歳になっていた。
京へてから4。
では、しく入ってきたの女たちへ仕事を教えるになっていた。
15歳の頃、自分が何度も失敗した作業を、今度はに説する。
「最初は急がなくていいよ。順を覚えてからで丈夫」
そうな女にそう声をかけると、自分が初めてへ来たのことをいした。
あの頃は、何をするにも母へ話したかった。
今は違う。
母がいなくても活できる。
そううようになっていた。
同じで働く青、隆夫とりったのもその頃だった。
隆夫は数のいではなかったが、芳子の話を急かさず聞いてくれるだった。
堂で顔をわせるうちに会話が増え、休に緒にかけるようになった。
やがて結婚の話がた。
「俺は、芳子と庭を持ちたいとってる」
隆夫がそう言った、芳子は嬉しかった。
京へたばかりの頃には像もできなかった、自分の庭。
自分を待っていてくれる。
それは芳子がの奥でずっと求めていたものでもあった。
「田のお母さんにも挨拶しないとな」
ある、隆夫が何気なく言った。
芳子の表が変わった。
「かなくていい」
「でも結婚するなら、ちゃんと挨拶した方がいいだろ」
「いいの」
芳子はしい調で遮った。
隆夫は驚いたように見た。
「お母さん、くなってるのか?」
「違う」
「じゃあ……」
芳子は黙った。
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