みかん小説
本棚

"三度目の金色の玉" 第9話

客が来て、を払い、商品を持って帰る。

それが商売だとっていた。

その、父親が昔にしていた言葉がに浮かんだ。

「商っていうのは、物だけ売ってるんじゃないんだ」

若い頃、俊夫はそのが分からなかった。

何を格好つけているのだとったことさえある。

は物を売る所に決まっている。

商品を売らなければ商売にならない。

だが今は、父親が言おうとしていたことがしだけ分かる気がした。

同じで毎ける。

向かいのの主が病気なら気づく。

隣のの子どもが学すればる。

誰かの夫がくなれば、そのの暮らしがどうなったかも目に入る。

狭い所で何も商売を続けていれば、客と主だけではいられなくなる。

それはに面倒でもあった。

噂もすぐ広がる。

余計なお世話もある。

福引を操作するような、き過ぎたことまで起こる。

それでも、困っているを見て見ぬふりができないもいた。

俊夫は写真の信夫を見た。

信夫は、自分が助けた商から何かを返してもらうつもりなどなかったのだろう。

千代も、夫のへ換えたくないと言った。

だから森田たちは正面から渡せなかった。

渡す側にも恵が必だった。

受け取る側にはがあった。

その両方を壊さないために考えた答えが、の玉だった。

広告

俊夫は自分が森田を見張り、の玉を見つけたのことをい返した。

あの瞬、「正を見つけた」とった。

確かに福引としては正だった。

だが、それだけを見ていたら分からないものもあった。

俊夫は部かりを消すに、もう度写真を見た。

信夫の隣には、若い頃の森田がいた。

さらにその端には俊夫の父親がっていた。

皆、今よりずっと若かった。

写真のの彼らがまで残そうとしたものを、俊夫はようやくし理解し始めていた。

53

は朝からであふれていた。

用の魚を求める客が魚へ並び、では根や菜、みかんが次々と売れていった。乾物では昆布や苔を包む音が途切れず、どのでも主や族が休む暇なくいていた。

俊夫も朝からっていた。

客へ釣り銭を渡しながら、々通りの向こうへ目をやった。

福引所からは、ガラガラという抽選器の音が絶えず聞こえている。

その音を聞くたび、までならの玉のことを考えた。

は誰かに等がるのか。

本当に公平に入っているのか。

そんなことばかり気にしていただろう。

だが今は違った。

母親にを引かれたさな子どもが、福引所へづいていくのが見えた。

子どもは両で取っを握った。

広告

母親がろから支える。

ガラガラ、ガラガラ。

抽選器を回す音が響いた。

コロン。

い玉だった。

子どもはしだけ残そうな顔をした。

係の者が参加賞のポケットティッシュを渡すと、それでも嬉しそうに笑った。

母親がを撫でる。

2をつないで歩いていった。

俊夫はその姿を見ながら、菜をで包んだ。

「俊夫さん、これいくら?」

客に呼ばれ、すぐ仕事へ戻る。

そのにも、商にはいろいろなが通った。

も毎ここへ買い物に来る老

帰省した子どもを連れて歩く夫婦。

主同士で品物を融通しう姿。

忙しくて昼飯をべる暇のない隣のへ、誰かが握り飯を持っていく姿。

どれも特別なことではなかった。

聞に載ることもない。

が残ることもない。

けれど、そういうさなやり取りの積みねで、この商は続いてきたのだろう。

俊夫は再び父親の言葉をした。

「商っていうのは、物だけ売ってるんじゃないんだ」

なら聞き流していた。

今は、その先を自分なりに考えられた。

物を買ってもらうだけなら、と客の関係で終わる。

しかし何も同じ所で顔をわせていれば、の暮らしまで見えてしまう。

誰のに子どもがまれたか。

誰が病気をしたか。

誰のが苦しいのか。

誰の族がいなくなったのか。

助けたいとうこともある。

だが、助け方を違えれば相を傷つける。

「かわいそうだから」とを渡せば、受け取る側の誇りを傷つけることもある。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: