みかん小説
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"映画の夜に消える少女" 第1話

32、初

野県のあいに、戸数80ほどのさながあった。周囲を々と杉林に囲まれ、田畑のを縫うように細いが続いていたが、舗装されている所はまだわずかだった。

町へるには、朝夕に数本しからないボンネットバスに乗らなければならない。きな買い物をするにも、病院へくにも、々はその刻にわせて1の予定を決めていた。

もちろん、に映画館はなかった。

テレビが置かれているも、かつて庄だったきなと診療所くらいだった。まだ「にいながら映画を見る」ということそのものが、ほとんどのには像もできない代だった。

だからに1度、県の巡回映画班がやって来るは、全体が朝からしだけ落ち着かなくなった。

の掲示板にらせるが貼られると、学帰りの子どもたちは何度もそのへ集まった。たちも畑仕事のき帰りにを止め、今は何を映するのかと題名を確かめていた。

映画が映されるのは、の講堂だった。

そのの夕方になると、役の青たちが16ミリ映写を運び込み、講堂の壁いっぱいにい幕を吊るした。窓にはからが入らないよう黒い布が張られ、いつもの学とはまるで違う空しずつがっていった。

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子どもたちはから座布団を抱えてってきた。

農作業を終えたたちは、首にかけた拭いで額の汗をぬぐいながら講堂へ入った。ろの方では寄りたちが壁際に座り、映画が始まるから所の来事を話している。

やがて始のづく。

講堂の灯が1つずつ消され、最かりまで落ちると、それだけで子どもたちのからさな歓声ががった。

カタカタカタ……。

ろから、映写の音が聞こえてくる。

細いの筋が々のを通り、真っだった幕に最初の映像が浮かびがる。その瞬だけは、あいのさない町やらないとつながった。

にとって、巡回映画はに1度だけ訪れる「の世界」だった。

そのを、誰より楽しみにしている女がいた。

17歳の美代である。

美代は巡回映画のらせが貼られると、誰よりく役の掲示板へ見にった。映画の題名をで何度も繰り返し、演者の名まで覚えようとした。

や役から配られる粗末な映画案内も、美代にとっては切なものだった。の端が柔らかくなるほど何度も読み返し、あらすじの文をに入れていた。

「今度はの話だって」

「汽てくるらしいよ」

映画のづくと、美代は友たちにも嬉しそうに話した。

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映当も、くから講堂へった。

子を並べるのを伝い、窓へ黒い布をかける青たちへ布を渡し、子どもたちがり回れば「転ぶよ」と声をかける。まるで自分が巡回映画班の1であるかのようにき回っていた。

誰が見ても、美代は映画が好きだった。

ところが、議なことが1つあった。

美代は、映画を最まで見たことがなかった。

それどころか、映そのものをほとんど見ない夜さえあった。

夕方までは誰より楽しそうにしている。

準備も伝う。

映画案内も何度も読んでいる。

それなのに、づき、が次々と講堂へ入ってくる頃になると、美代は急に落ち着かなくなった。

そして灯が消されるになると、決まってがった。

「美代、どこへくの?」

が聞く。

美代は映画案内をさく折りたたみながら、曖昧に笑った。

「ちょっと用事があるから」

「映画、始まるよ」

「うん。分かってる」

そう言うと、講堂の裏からていく。

最初は誰も気にしなかった。

の用事でもあるのだろう。

父親に呼ばれたのかもしれない。

そうわれていた。

しかし翌の映画のも、美代は消えた。

その次も同じだった。

も。

も。

づいても。

巡回映画がへ来る夜になると、美代は必ずに講堂から姿を消した。

誰より映画を楽しみにしている女が、なぜか映画の夜だけいなくなる。

それがたちの目につかないはずはなかった。

やがてさなで、美代についての噂がしずつ広がり始めた。

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