"映画の夜に消える少女" 第2話
昭30代のさなでは、誰かのをにられずに済ませることは難しかった。
朝、誰がどの畑へ向かったのか。昼過ぎに誰が町きのバスへ乗ったのか。夕方、どこのへ誰が訪ねてきたのか。
そんなことまで、いつのにかへ伝わっていた。
まして、17歳の娘が夜に1で歩くとなれば、々が気にしないはずはない。
「美代ちゃん、また昨いなかったな」
井戸端で女たちが話し始めた。
「映画が好きだ好きだって言ってるのに、始まるになると帰るんだよ」
「帰ってるんじゃないらしいよ」
「じゃあ、どこへ?」
そこで誰かが声をし落とした。
「男でもいるんじゃないかね」
その言がると、噂は急にもっともらしい形を持ち始めた。
「隣の青と会ってるらしい」
「誰が見たんだい?」
「さあ。でも映画の夜なら、が講堂へくから都がいいんじゃないか」
確かなことをっている者は誰もいなかった。
しかし誰もらないからこそ、話だけは広がった。
美代は普段、目つ娘ではなかった。
母親をくにくし、父と兄と3で暮らしている。では炊事や洗濯も伝い、畑仕事が忙しければ黙って働いた。
だからこそ、映画の夜だけ見せる解なが々の興を引いた。
「普段おとなしい子ほど分からんもんだ」
そんな言葉まで始めた。
美代自も、周囲の線が変わりつつあることには気づいていた。
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映画のがづくと、友が冗談めかして尋ねる。
「今も用事?」
「何の用事なの?」
美代は笑ってごまかした。
「ちょっとね」
「教えてよ」
「したことじゃないよ」
したことではないのなら、なぜ言えないのか。
そうわれるのは当然だった。
けれど美代は、理由を説しようとはしなかった。
その噂が父・源蔵のへ入ったのは、の終わり頃だった。
源蔵は昔気質の男だった。
朝から田畑へて、仕事が終わればへ戻る。必のないことをあれこれ話す性格ではなく、子どもたちにも「言わなくても分かるだろう」という態度を取ることがかった。
妻のをくにくしてからは、男1つで2の子どもを育ててきた。
器用ではあったが、族を切にしていないわけではない。
ただ、それを言葉や態度で示すことが苦だった。
ある夕方、所の女が源蔵へ声をかけた。
「源蔵さん、美代ちゃんのこと、聞いてるかい?」
「何をだ」
「映画の夜になると、どこかへってるって」
源蔵のが止まった。
「どこへ」
「それが分からないから、みんな言ってるんだよ。隣の若い男と会ってるんじゃないかって」
女は悪気なく言ったつもりだった。
しかし源蔵の顔はみるみる険しくなった。
その夜。
美代が夕の片づけを終えた頃、源蔵がい声で呼んだ。
「美代」
女は振り向いた。
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「何?」
「そこにて」
声の調子で、何かあったと分かった。
美代は濡れたを掛けで拭き、へりた。兄の正夫も、囲炉裏のそばから顔をげた。
源蔵はしばらく娘を見つめていた。
そして突然、声を荒らげた。
「毎どこへってる!」
美代の肩がさく揺れた。
「何のこと?」
「とぼけるな。映画の夜だ!」
のが静かになった。
「男に会っとるのか」
「違うよ」
「じゃあどこへってる!」
「……何もしてない」
「何もしてないなら言えるだろう!」
源蔵の鳴り声が、狭いのに響いた。
美代は唇をかんだ。
言おうとえば、言えた。
けれど、なぜか言いたくなかった。
あのは、自分と弥平だけのもののような気がしていた。
誰かに褒めてもらうために始めたことではない。
の噂を否定するために説するのも、何か違うようにえた。
だから黙っていた。
その沈黙が、源蔵をさらに苛たせた。
「今度また映画の夜にていったら、からさんぞ」
美代は何も答えなかった。
「聞いてるのか!」
「……聞いてる」
それだけ言うと、美代は台所へ戻った。
正夫は父と妹のを見ながら、声を挟むことができなかった。
母がいれば、もうし違う話し方ができたのかもしれない。
そんなことをった。
それから数、美代はいつも通りに過ごした。
朝になればの仕事をし、昼は畑を伝い、夕方には事を作った。
映画の話もしなかった。
源蔵は娘が懲りたのだとった。
しかし翌。
役の掲示板に、しい巡回映画のらせが貼られた。
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