"映画の夜に消える少女" 第4話
美代は困ったように笑った。
「今見たに、今度聞いてくる」
そこで正夫はようやく分かった。
美代は映画を見に来たのではない。
映画を、この老へ届けに来ていた。
正夫はそのでしばらくけなかった。
講堂では今頃、のが映画を見ている。
美代自も、あれほどその映画を楽しみにしていた。
それなのに妹は、自分が見ることより先に裾のへ来て、目の見えない老へ映画の話をしている。
「主公は若い男のでね」
美代は映画案内を指でなぞりながら続けた。
「町からい所へくんだって。そこでいろんなと会うらしいの」
「女のはてくるか」
「るよ。名もいてある」
「どんなだ?」
「それはまだ分からない」
美代はし笑った。
「だから、全部見たに聞くの」
正夫は、その言葉にも驚いた。
美代は映にここへ来ている。
当然、そのの映画をまだ見ていない。
それでも美代は、事にに入れられる限りの報を集めていた。
役の掲示板。
映画案内。
以その作品を町の映画館で見たことがあるの話。
そうした断片を集め、1つの物語にして弥平へ話していた。
そして映画の翌になると、実際に見たから細かい面を聞く。
「最初の汽はから来た?」
「主公はどんなを着てた?」
「最はどうなった?」
周囲は、美代がただ映画好きだから聞いているのだとっていた。
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違った。
美代は自分のためだけに聞いていたのではない。
次に弥平のを訪ねた、より詳しく映画を伝えるためだった。
弥平は目を閉じたまま、美代の言葉にを傾けていた。
「はたくさんってるのか」
「うん。たぶん面真っ」
「は?」
「映画案内には吹になるっていてある」
「なら、が横に流れるんだろうな」
老のからる言葉に、美代は々驚いた。
映画を見られないはずの弥平が、映像の見え方をよくっている。
画面の端からが入ってくる。
汽がづけばきくなる。
景では物がさく、顔を見せたいにはくから映す。
美代よりもずっと映画に詳しい。
「おじいちゃん、本当に見えてないの?」
以、美代が冗談めかして聞いたことがあった。
弥平は笑った。
「見えんよ」
「でも、よく分かるね」
「昔の癖だ」
その、美代は詳しく聞かなかった。
正夫も戸でその会話を聞きながら、議にった。
なぜ弥平は、これほど映画の映し方をっているのか。
美代が話し終える頃には、はすっかり暗くなっていた。
「今はこれくらい」
「もう帰るのか」
「父ちゃんにられるから」
弥平はし配そうに顔をげた。
「またられたのか」
「ううん、丈夫」
美代はちがった。
その、戸のにいる正夫のに気づいた。
「……兄ちゃん?」
美代の顔が張った。
正夫は隠れることを諦め、戸へ姿を見せた。
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「やっぱり気づいたか」
「いつからいたの?」
「に汽がってるところから」
美代は俯いた。
弥平は事が分からないように顔を向けた。
「正夫くんか」
「はい」
「こんなところまでどうした」
正夫は妹を見た。
「こいつを追ってきました」
美代は映画案内を握ったまま黙っていた。
父にられる。
そうったのだろう。
「兄ちゃん、父ちゃんには……」
「そのに説しろ」
正夫の声はってはいなかった。
それが分かったのか、美代はしだけ顔をげた。
「何で毎ここへ来てるんだ」
しばらく沈黙した、美代は弥平の方を見た。
「おじいちゃん、映画が好きなの」
「それは聞けば分かる」
「でも、もう見えないでしょう」
美代は静かに言った。
「だから、話せばいいとったの」
正夫は何も返せなかった。
「私が見たこととか、聞いたこととか、話してあげれば、おじいちゃんもしは映画を見られるでしょう」
「でも、おだって見たいんだろ」
「見たいよ」
美代はすぐに答えた。
「すごく見たい」
その返事が、正夫には番胸に残った。
していることを隠し、美代が「別に見たくない」と言うならまだ分かる。
けれど妹は、誰より映画を見たがっている。
それでも毎、このを歩いている。
「どうしてそこまでするんだ」
正夫が尋ねると、美代はし考えた。
そして、幼い頃のことを話し始めた。
美代が7歳の頃、母のがくなった。
まだ幼かった美代には、というもののをすぐには理解できなかった。
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