"映画の夜に消える少女" 第8話
美代は瞬きすることすら惜しかった。
「母ちゃん……」
何度もので呼んだ。
がこちらを見るはずはない。
これは20の映像だ。
それでも画面から目をせなかった。
ほんの数秒。
の姿は別の面へ切り替わり、度とてこなかった。
それでも美代にとって、その数秒はこれまで見たどんな映画よりくじられた。
隣に座る正夫は、黙っていた。
彼は美代より3歳だったから、母の記憶もしく残っていた。
それでも映像のの若い母を見るのは初めてだった。
源蔵はさらにくをっていた。
妻になるの姿も。
祭りのの笑顔も。
その頃のことをいしたのだろう。
映画が終わって講堂の灯がついた、源蔵はしばらくちがらなかった。
周囲ではまだ々が興奮していた。
「あそこに映ってたの、誰々だろ」
「いや、あれは違う」
「20はあんなだったんだな」
美代は父の方を見た。
源蔵はスクリーンを見たままだった。
「父ちゃん」
呼びかけると、ようやく顔を向けた。
美代は何を言えばいいのか分からなかった。
「母ちゃん、笑ってたね」
源蔵は度だけ頷いた。
「昔から、よく笑うだった」
それだけだった。
けれど美代にとっては初めて聞くような言葉だった。
仏壇の写真からは分からなかった。
「よく笑う」。
その言だけで、母親がしくなった気がした。
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講堂をると、夜の空気がたかった。
正夫が言った。
「美代、に帰るか?」
美代は首を横に振った。
「弥平じいのところへく」
「今から?」
「今だからきたい」
源蔵も止めなかった。
玄関へ戻るも惜しく、美代はそのまま裾へ向かった。
正夫はしれてを歩いた。
今夜は懐灯を持っていない。
それでもかりがを照らしていた。
美代はいつもより速く歩いた。
田んぼのを抜け、杉林へ入る。
胸のには、さっき見た母の姿が何度も浮かんでいた。
笑った顔。
首をかす仕。
段をる。
あの全部を忘れないうちに誰かへ話したかった。
そして、その相は弥平しかいないとった。
古いの戸をけた。
「おじいちゃん!」
しきな声になった。
奥から弥平が顔をげた。
「美代ちゃんか。遅かったな」
美代は息を切らしながら老の隣へ座った。
「今ね」
声が震えた。
「今、お母さんが映ってた」
弥平の表が変わった。
「ちゃんが?」
「うん」
美代は何度も頷いた。
「すごく笑ってた」
その瞬、涙がそうになった。
「私、お母さんがあんなふうに笑うだってらなかった」
弥平はしばらく何も言わなかった。
美代は急いで続きを話した。
「い浴を着てた。友達と緒に段をりてきて、途で誰かに何か言われて、で顔を隠して笑ってたの」
「そうか」
「それから台のところにもいた」
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「うん」
「すごく若くてね、私とし似てた」
弥平は静かに聞いていた。
美代は笑いながら涙を拭った。
「おじいちゃんにも見せたかった」
そのだった。
弥平が、しを置いて答えた。
「ってるよ」
美代は顔をげた。
「え?」
老は穏やかに笑った。
「その映画を撮ったのは、俺だからな」
美代はしばらく言葉を失った。
「おじいちゃんが?」
「ああ」
「今の映画を?」
「全部じゃない。あの辺りを撮ったのは俺だ」
弥平は懐かしいものへを伸ばすように、ゆっくりと膝ので指をかした。
昭13頃。
まだ弥平が映写技師として働き、目も見えていた頃だった。
映画館でフィルムを回すだけでなく、域の祭りや暮らしを記録するため、撮に関わることもあった。
々を回り、祭りや学事、農作業の様子を映像へ残した。
「あのも暑かった」
弥平は言った。
「祭りで、がくてな」
美代は黙って聞いた。
「ちゃんはな、じっとしていられない娘だった」
「母ちゃんが?」
「ああ」
仏壇の写真しからなかった美代には、それだけでもだった。
「撮るからそこにいろと言っても、すぐどこかへく」
弥平は笑った。
「友達と並んでもらってな。段をりてくるところを撮ろうとしたんだ」
美代のに、さっきの映像が浮かんだ。
い浴。
若い母。
友たち。
「途で子どもが転んだ」
弥平は続けた。
「ちゃんは、それを見たら撮なんか忘れてびしていった」
「それ、映画に映ってた?」
「そこはどうだったかな。
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