みかん小説
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"不在着信93件の朝" 第9話

限の着替えと貴品、通帳を詰め込んだスーツケースをつ、のトランクへと積み込む。暮らしたの鍵を静かに回し、施錠した。玄関のポストには、弁護士の連絡先のみを記した簡潔な置き通だけ残されていた。

がアクセルを踏み込む。輪がアスファルトを滑らかに転がり、朝に包まれたを抜け、箱根のへと向かって軽した。

内には穏やかなクラシック音楽が流れ、みつ子は窓を流れる美しい並みを眺めていた。このの胸の奥を締め付けていた鉛のような圧が、嘘のように消えっていた。

正午に箱根の名旅館に到着したは、入れのき届いた本庭園を眺めながら、旬の材をふんだんに使った懐料理を堪能した。午濁した名湯に肩まで浸かり、の苦労で凝り固まったをゆっくりと伸ばした。

そして翌――の朝が訪れた。

。 箱根の澄んだ空気の、旅館の個事処で、ばしく焼かれた鮎の干物と湯気噌汁をわっていたそのだった。

テーブルのに置かれたみつ子のスマートフォンが、けたたましいバイブレーションとともに激しく震え始めた。

画面に浮かびがった文字は――

里】

刻は、午分。

郵便配達が息子夫婦の豪邸に内容証を届け、関からの督促通封したまさにその瞬だった。

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みつ子は箸を止めることもなく、画面を瞥しただけで、穏やかに正へ目を向けた。

「始まったわね」

「ああ。ついに現実をったか」

みつ子はスマートフォンを裏返しにして画面を伏せ、いほうじ茶をゆっくりと啜った。

度途切れた呼びし音は、数秒の空を挟んですぐに再び激しく鳴り響いた。

分:

分:

分:

分:

分:

画面を伏せていても、テーブルを通じて伝わる振が止まる気配はない。

分を過ぎると、今度は息子の【志】からの着信へと切り替わった。

が静かに笑みを漏らす。

「ものすごい勢いだな。普段は用事があるしか連絡してこない連が」

「ええ。でも、今の私たちには何の関係もない『』の来事ですから」

を終え、部に戻ってスマートフォンの画面を確認すると、着信はすでに件を超えていた。画面には留守番話の録音通がびっしりと並んでいる。

「留守を聞いてみるかい?」

が促し、みつ子はスピーカーホンにして再ボタンを押した。

ピッと無質な子音が鳴り、里の切り声が内に響き渡った。

『――ッ! お母さん!! ちょっと、なんでないんですか!? 今、から信じられないが届いたんですけど!! 連帯保証解除って何ですか!? 支払止ってどういうことですか!? が分からないんですけど!! 今すぐ話してきてください!!』

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最初のメッセージは、りと苛ちに満ちていた。まだ事態の逆性を理解しておらず、親を従わせられると過信している声だった。

しかし、件目、件目とむにつれて、その声から傲さが削ぎ落とされ、々しい狼狽と焦燥が混ざり始めた。

『お母さん……お願い、てよ……! 話したら、「ご両親からの正式な続きにより、今は主債務者ご本様への括請求となります」って言われたの! 嘘でしょ!? 毎万なんて払えるわけないじゃない! く冗談だって言ってよ!!』

そして件目には、息子の志の半狂乱の号が吹き込まれていた。

『母さん!! ふざけんなよ!! 勝に何してんだよ!! を差し押さえるって予告通が入ってんだぞ!! 俺たちのをめちゃくちゃにする気か!! 払えよ!! 親だろ!! 俺は息子だぞ!! 話にろよクソッ!!』

さらに昼を過ぎ、夕方に差し掛かると、メッセージの声は完全な絶望と恐怖に歪んだ泣き叫びへと変貌していった。

『お母さん……っ、ごめんなさい……! 私が悪かったです、調子に乗ってました……! だからお願い……話にて……! 私たち、このままじゃ所もなくなっちゃう……! お願いだから助けてください、お母様……!!』

りから焦燥へ、恫から願へ、そして完全な絶望の阿叫喚へ。

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