みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第3話

浩司が線を向けると、兄の武田裕がドアノブを握ったまま、玄関の敷居を跨いでっていた。しかし、その線は浩司の顔に向けられることはなく、ただ宙を睨みつけていた。

「今にここからていけ」

「兄さん……」

「おたちがそのボロ倉庫で暮らそうが、野垂れのうが、そんなことは俺のったこっちゃないんだよ」

バタン、と音をてていドアが閉ざされた。 浩司はブロック塀に背を預けたまま、しばらくのくことができなかった。

脳裏に蘇ったのは、父が息を引き取る景だった。 病院の個のベッドに横たわっていた父は、点滴の針が刺さった痩せ細った腕を伸ばし、浩司の首を掴むと、自らの腕計の文字盤を指先で何度も叩いたのだ。

トントン。トントン。

そして、かすかにしかがらない腕を震わせながら、病の窓の、夕が沈みかけていたの空を指差した。唇はかすかに何かを語りかけるようにいていたが、乾いた息が漏れるだけで、ついに声にはならなかった。 浩司はその、父がを尋ねているのだとい込んだ。計を父の腕からし、ベッド脇のさな引きしのに置いて見せると、父はその計をじっとく見つめ、やがて静かに目を閉じたのだった。

あの、あの病での仕を、自分はただの譫妄か、りたいだけの図だとしか受け取れなかった。

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引っ越しの荷物と呼べるような層な財は、浩司たちの元には残っていなかった。 を過ごした階のから運びされたダンボールは、わずか箱に過ぎなかった。という歳さに対して、あまりにもなすぎる荷物だった。浩司の持ち物はほとんどなく、彼の持っていたと労力のすべては、物ではなく、ただ父の病んだ肉体を支えることだけに費やされていたからだった。

のクローゼットの奥の戸をけると、袋に入った量の類の束が、崩のようにへと崩れ落ちてきた。 それは、浩司がも欠かさずに記録し続けてきた介護誌だった。

『朝、血圧剤、錠。、糖尿病薬。夕方、インスリン注射、単位投与』

付ごとに、浩司の几帳面な文字が学ノートにびっしりとき込まれていた。その横には、薬局や通院先の領収が太い輪ゴムでごとに束ねられていた。分の記録の枚のノートをめくると、真夜、吹きすさぶで駆け込んだ救急来の待の、あのたい青いプラスチック子の触が鮮烈に蘇った。もう枚をめくると、した父が、初めて浩司の顔を見ても名せなくなった、あの絶望な夜の景がまざまざと浮かびがった。

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束のには、何枚もの入院同術承諾が混ざっていた。 その保護者署名欄、緊急連絡先欄のすべてに、ずっと同じ名かれていた。

『武田浩司』

術の同にも、夜の付き添い許証にも、救急搬送の受付票にも、男である武田裕の名度として登しなかった。 裕がこので病院に姿を現したのは、父が倒れた最初のだけだった。それも病のドアをけて父の顔を見ることすらなく、廊に浩司を呼びし、父の通帳と実印がどこに保管されているかだけを声で尋ねると、っていったのだった。

「それは何?」

の入りに、美咲が腕を組んで仁王ちしていた。その目は、浩司の元にある埃をかぶったの束をたく見ろしていた。

「……父の介護の記録です」

「そんなゴミ、何のために持っていくのよ? 気持ち悪い」

美咲はずかずかと同然の取りで部に入り込むと、浩司のから類の束を引に奪い取った。そして、元に広げていた型の黒いゴミ袋のに、無造作にそれを押し込んだ。

バリバリと音をてて、の夜の苦闘が、まるでただの屑のように袋の底でくしゃくしゃに潰された。 浩司はしばらくの、そのゴミ袋を無言で見つめていたが、やがて静かに膝をつき、袋のに両を入れた。

ぐしゃぐしゃになったノートと領収の束を枚ずつ丁寧に引っ張りし、自分の膝ののひらを使ってしわを伸ばし、ね直した。

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