みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第4話

「これは、私のものです」

浩司の声は決して荒らげられてはいなかった。鳴るでもなく、く、静かな声だった。 しかし、その瞳の奥に宿る揺るぎないに気圧されたのか、美咲は舌打ちをつしただけで、それ以その類にを伸ばすことはできなかった。

リビングへりると、浩司の娘である恵が、製のさな額縁をひとつ、両切そうに胸に抱きしめてっていた。 今歳。数週に、第志望の学から待ち望んでいた格通を受け取ったばかりの女だった。

額縁のガラスの奥では、歳の頃の恵が、まだ元気だった祖父の膝ので満面の笑みを浮かべていた。 父が認症の症状をめ、族の名を次々と忘れていくようになってからも、この写真てだけはベッドの枕元から決してかそうとしなかったものだった。

美咲の線が、恵の抱える額縁に留まった。

「置いていきなさい」

恵は怯えたように肩をすくめたが、額縁をさらにく自分の胸へと引き寄せた。

「これ……おじいちゃんと緒に撮った写真です。私の宝物なんです」

「だとしても、このにあったものは全部うちのものよ。写真てだって派な備品じゃないの」

美咲は恵のに詰め寄り、写真ての角を掴むと、ぐいと力任せに引っ張った。

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恵の細い指先が瞬、写真ての縁に引っかかったが、の力には敵わなかった。額縁は恵の腕から無にもすり抜けていった。

恵は泣かなかった。声をげて取り乱すこともなく、ただぽっかりと空いてしまった自分の両を見ろしていた。 さっきまで、祖父とのを確かに抱きしめていた両の温もりを確かめるように、指先をかすかに震わせていた。 母の苗が、そんな娘の震える肩にそっとを置き、自分の体の方へと引き寄せた。

借りてきた軽トラックの荷台へ、箱のダンボールを積み込む、浩司の作業着のポケットのに入った父の腕計が、歩くたびに太ももをコツコツと叩いた。 計はさく、古びて、みすぼらしかった。 裕たちが奪い取っていった広や田畑、預通帳の残に比べれば、それは文字通り端のころのように無価値に見えた。

しかしその、裕も美咲も、そして浩司自すらも気づいていなかった。 彼らが「ガラクタ」だと嘲笑って投げ捨てたそのさな械が、このの全財産を遥かに凌駕する巨な真実の扉をく唯の鍵であるということに。

、父が遺したきなには、煌々とかりが灯っていた。 綺麗に掃き清められた広い庭には、見慣れない真しい級セダンが誇らしげに駐されていた。

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父の遺産である預を元に、裕速買い換えただった。

浩司は、の法程と寺への配を相談するため、そのの玄関を訪ねた。 事話を回鳴らしたが、兄は度も受話器を取らなかったため、直接を運ぶしかなかったのだ。

玄関の引き戸のつと、ドアの隙から甘辛いすき焼きの匂いと、何かを揚げる油のばしい匂いが漂ってきた。からは複数の笑い声が漏れ聞こえ、親族を集めた祝宴がかれているようだった。 浩司はインターホンのボタンに指を伸ばしたが、押す寸で指を止めた。

から、はっきりと自分の名が聞こえてきたからだ。

「……浩司が親父の糞尿の世話をしてる、俺たちはすっかり楽させてもらったよなァ」

武田裕の声だった。完全に酒に酔った、ろれつの回らない品な笑い声が混じっていた。

「親孝なんてのはね、貧乏を使ってするものなのよ。遺産ってのは、のいい領よくいただくものなの」

美咲が甲い声で応じ、直にグラスとグラスがカチンとぶつかりう音が響いた。

「チリン、ってね! 次男坊がそばに張り付いて介護してたのも、全部計算のうちだったのさ。自分が貧乏くじを引いてることに最まで気づかないんだから、が悪いってのは本当に罪だねえ」

叔母の文子の濁った声が割って入り、座敷はどっときな笑い声に包まれた。

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