みかん小説
本棚

"4時20分で止まった遺品" 第10話

計の裏蓋に刻まれた『松原精密』の文字と、庫のプレートの文字。線のさ、最の払いの角度に至るまで、完全に同物のによるものだった。

浩司は計を裏返し、側面のわせ目を指先で丹に探っていった。 防のガラスにはヒビが入っていたが、裏蓋のステンレスの縁は滑らかだった。 『松原精密』という刻印のを親指の腹でく擦っていた、指先にわずかな引っかかりをじた。

劣化でできた隙ではなかった。 最初から、精密な具を使わずに爪をかけてけられるように設計された、わずかミリに満たない極の溝だった。

浩司は息を呑み、その溝に親指の爪をく差し込んで押しげた。

パチン。

さな属音とともに、けられることのなかった計の裏蓋がれた。 浩司はスマートフォンのライトを極限までづけた。

精密に組みげられたさな歯の隙、裏蓋の内側の属面に、先の細い具で直接彫り込まれた文字が浮かびがった。

4、20』

械による印字ではない。属加の職だった父が、老鏡をかけ、自らの画ずつ刻み込んだ跡だった。

浩司はその文字を読んだ計を表に返した。 止まったままの針は「4」を指し、分針は「20分」で固定されていた。

――トントン。トントン。

で父が計を叩き、を指差したあの仕

広告

父はを尋ねていたのではなかった。この隠し部庫をけるための、最の暗号を浩司に託そうとしていたのだ。

浩司はがり、庫のダイヤルにをかけた。 へゆっくりと回し、「4」の位置で止める。 カチリ。 今度はへと慎に回し、「20」の目盛りにわせた。

ゴトン。

庫のな内部で、巨なロックバーがれる属音が部に響き渡った。

浩司は真鍮のレバーハンドルを握った。 のひらには、父が遺したあの腕計が握られていた。兄がガラクタだと投げ捨て、父が命を削って遺してくれた計。 浩司はその計を庫のにそっと置き、再びハンドルに力を込めて押しげた。

ガチャリ……。

の沈黙を破り、庫の扉が自らのみでゆっくりと側へいていった。 閉じ込められていた気が、浩司のの甲を撫でるように吹き抜けた。

浩司がスマートフォンの庫の内部に向けた瞬、その息が完全に止まった。 あまりの景に、浩司はずさりし、を当てたが震えて線がへと落ちた。再び顔をげるまでに、数分ものした。

庫の段の段に、のひらほどのきさの方形の属塊が、隙なくぎっしりと敷き詰められていた。 暗い空で、それらは鈍く、しかし圧倒な輝きを放っていた。

広告

浩司はにあった属の塊を、両で慎に持ちげた。 ずしり、と像を絶する質量が両首にかかり、属の角がのひらの肉にい込んだ。 表面に、刻印が打たれていた。

量 1000g 純度 99.99% 本マテリアル製造』

――純の延べ棒だった。

インゴットが、何本、何百本と然と並べられていた。 浩司はそれを元の位置に静かに戻した。塊が目の積みになっていたが、浩司のはそれ以奥へ伸びることはなかった。

庫の段の棚には、分いファイルが何冊も並んでいた。 古い取引台帳、過の納税証の敷売却の契約、そして貴属の正規購入証の束。すべての類の背表に『松原精密』の文字が几帳面な跡で並んでいた。

その類の束の最段に、経で黄く変した通の分い封筒が置かれていた。

『浩司へ』

父の文字だった。 あの遺言の末尾に、力を込めてき残されていた、あのきの跡だった。

浩司は庫のに正座し、震える両でその封筒をに取った。 封筒はずっしりとく、便箋が枚や枚ではないことが触りで分かった。 を吹き抜けるがスレート根をかすかに揺らす音を聞きながら、浩司はゆっくりと封筒の糊付けを剥がした。

枚目の便箋の冒に、万の凛とした文字でこう記されていた。

『裕は、目に見えるものを欲しがるだろう。だから、すべてくれてやった』

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: