"4時20分で止まった遺品" 第16話
「さらに、裕氏は今回の相続において、すでに、、預、両など、数千万円相当の資産を贈与および遺贈として受領されています。法な特別受益の持ち戻し計算、ならびに過の債務履分を精算した、裕氏が主張できる実質な遺留分額は、ゼロまたはマイナスとなる能性が極めてい」
若弁護士のボールペンが、宙でピタリと止まった。
文子はハンドバッグを抱え直すと、子を引いて音をててちがった。
「私、今は何も聞かなかったことにするわ。昔の横領の話なんて、関わりたくもないわよ」
「お、おばさん!?」美咲がすがりつこうとしたが、文子は度も振り返ることなく、に会議のドアをけててった。遺産の分けを期待して番乗りで駆けつけていた親族が、都が悪くなった瞬に真っ先に逃げしたのだ。
美咲は震える声で浩司を指差した。
「じゃあ何よ……! お義父様は男の私たちにはガラクタ同然のとだけを押し付けて、次男のあなたにだけ百億円を隠して渡したっていうの!? そんな公平が許されるわけないじゃない!」
浩司は、テーブルのの借用を見つめながら、静かにをいた。
「美咲さん。正の席で、あなたが親戚全員ので言った言葉を覚えていますか?」
美咲の唇が止まった。
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「『親孝は貧乏がするものだ』とおっしゃいましたね」
浩司は顔をげ、をまっすぐに見据えた。
「その貧乏が、父さんのそばを守り続けました。そして父さんは、その貧乏に、最の扉をける鍵を残してくれたのです」
「……っ!」
浩司は静かにちがった。
「遺留分の訴訟を起こしたければ、どうぞご自由に。私たちは逃げも隠れもしません」
苗も浩司に続いて礼し、は会議をにした。 廊の突き当たりの窓から、夕方の柔らかい差しが差し込んでいた。浩司はポケットのの腕計にを触れた。分。父が守り抜いた刻が、そこにあった。
会議をたも、裕と美咲は諦めきれず、弁護士を唆して遺留分減殺請求の訴訟をした。 しかし、その裁判の類がやり取りされている数ヶのに、裕が抱え込んでいた破滅の種が気に爆発した。
担保に入れていた広な農が、によって差し押さえられたのだ。 太陽発の資詐欺によって消えた千万円の穴埋めはできず、を競売にかけても千万円以の残債が残った。裕は額な弁護士費用と々の活費を面するため、父から相続した戸建ての敷まで追加の担保に入れた。
しかし、無職同然の放漫な暮らしので返済が滞り、ついにその敷までもが競売にかけられることになった。
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数ヶ、父の敷の頑丈な扉に、裁判所の執官によって『競売始決定』をらせる赤い通が貼りされた。 、浩司が父の背を拭き、毎晩を測り、濡れた寝巻きを着替えさせ続けたあの。 その寝のドア枠に赤いが貼られた、美咲は玄関のにち尽くし、に揺れる片をただ呆然と見つめていた。
その頃、浩司の族は、あの暗いアパートをて、倉庫からほどい静かな宅にあるさな軒へと引っ越していた。 豪邸ではない。しかし、恵の部には真しい頑丈な勉机が置かれ、台所の窓からは午のるい差しが差し込む、温かいだった。
穏やかな曜の夕暮れ。 台所では苗が夕の汁物を温めており、卓のでは恵が学受験のためのしい問題集を広げていた。コンビニエンスストアの夜アルバイトを辞めてから、週が経っていた。
トントン、と玄関のドアを慮がちに叩く音が響いた。
浩司がドアをけると、そこには武田裕と美咲がっていた。 裕はこの数ヶのに骨と皮ばかりに痩せこけ、着ているスーツの肩は落ちていた。美咲はすっぴんの青い顔をしており、その両には、埃をかぶった古い製の額縁がつ、抱えられていた。
歳の恵が、祖父の膝ので笑っている、あの写真だった。
「……入っても、いいか」
浩司は無言でドアを引いた。
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