みかん小説
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"4時20分で止まった遺品" 第17話

はリビングの真んまで入ってきたが、座ることを勧められることもなく、所なさにち尽くした。美咲が両を差しし、額縁を浩司へと差しした。

「これ……返しに来ました」

恵が問題集から顔をげた。 浩司は額縁を見つめ、それから美咲のを見た。のひらがを向いてかれていた。 父の敷ので「鍵をよこしなさい」と突きされた。倉庫ので「鍵を渡しなさい」と求した。 今、そのは写真てを差ししていたが、浩司の目には、相変わらず何かを乞い、受け取ろうとする浅ましいにしか見えなかった。

浩司は無言で額縁を受け取り、卓の隅に置いた。 しかし、は帰ろうとしなかった。裕は落ち着きのない線で、恵のしい机、台所に置かれた最蔵庫を品定めするように見回していた。浩司がいくら使い、あとどれだけのが残っているのかを必に計算している目だった。

やがて、裕が絞りすようない声でいた。

「浩司……頼む。千万円、貸してくれないか」

台所のコンロのを、苗が静かにめた。煮物の煮えるコトコトという音がさくなる。

だけでも守りたいんだ……残りのローンを返して、の借理しないと、俺たち本当に所がなくなるんだよ。訴訟も全部取りげるから……頼む」

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歩、浩司へと詰め寄った。

「百億円以あるんだろう!? 千万円なんて、おにとっちゃ端したじゃないか! 兄弟だろ!」

美咲も涙ぐみながらを挟んだ。

「私たちだって、お義父様の子どもですよ! あなたたちだけが全部独占するなんて、お義父様だって国で望んでいないはずです!」

浩司はをじっと見つめた。 彼らは、父がなぜあのを遺したのかを度も尋ねなかった。、父がどんないでを守り、どんないで孤独にを買いし続けたのかも、息を引き取る寸にどんな言葉を遺したのかも、何ひとつろうとはしなかった。 彼らがにしたのは、自分たちの保に必額――「千万円」という数字だけだった。

が膝を折った。 バタン、と両膝がリビングのフローリングに打ち付けられた。

「兄さんが悪かった! この通りだ、度だけでいい、助けてくれ!!」

に額を擦り付ける兄。 浩司は見ろし、やがてゆっくりと腰をかがめると、裕の痩せ細った腕を掴んで引きげた。

「……つんだ」

「じゃあ……貸してくれるのか!?」裕が顔を輝かせた。

たいからってくれと言っただけだ」

浩司は兄をたせると、寝へと入っていった。 数分、浩司が通の分い茶封筒を持ってリビングに戻ってきた。裕と美咲の線が、同にその封筒へと吸い寄せられた。

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浩司はそれを、裕の両に差しした。 裕は貪るように封筒を受け取り、震えるで封をけ、を覗き込んだ。

しかし、そこに入っていたのは札束ではなかった。

――投薬記録だった。

『朝、血圧の薬。、糖尿病。夕方、インスリン注射』

付ごとに、浩司の几帳面な文字がびっしりとき込まれた学ノート。そのには、病院の領収、何枚もの入院同、救急来の受付票の束。かつて美咲がゴミ袋に押し込み、浩司が拾いげてしわを伸ばした、あの分の介護記録だった。

「兄さん、そこに自分の名があるか探してみてくれ」

が凍りついた。

術同にも、救急来の受付票にも、夜の付き添い記録にも、全部保護者の署名欄がある。私も探したけれど、兄さんの名度も見つからなかったよ」

浩司の声は、静かだった。 裕は震える指先で、をめくった。枚、また枚。 どの類の保護者欄にも、同じ名だけが械のように繰り返されていた。

『武田浩司』『武田浩司』『武田浩司』……。

封筒を持つ裕の両が、力に負けたように、だらりとへと垂れがっていった。

「兄さんが欲しいと言っているおはね、ただの遺産じゃないんだよ」浩司は言った。「父さんが袖の破れたジャンパーを何も着て、壊れたトラックを自分で直しながら、命を削って貯めたおなんだ。

そしてここにあるのは、兄さんにはしないの記録だ」

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