みかん小説
本棚

"「もう戻るな」と言った息子へ" 第4話

「あなた……私は嫁いびりなんて、に誓ってしていないわよ……」

誰もいない暗い空に向かって、き夫へ語りかけた。しかし、たいがカタカタとアルミサッシを揺らすだけで、返事が返ってくるはずもなかった。 その夜、私はえ切った布団ので、声を押し殺して泣き続けた。 の誠実な歩みが理尽に踏みにじられた悔しさ、信じていた息子に裏切られた絶望。あらゆるが濁流となって押し寄せ、枕を濡らした。

だが、涙が枯れ果てた夜、暗を見つめる私のの奥底で、本のたい炎が静かに灯り始めた。 (……決してこのままでは終わらせない。必ず真実をに晒してみせる。そして、私を罠に嵌めた者たちには、相応の報いを受けさせなければならない)

「今に見ていなさい……」

私は暗で、静かに、しかし固く唇を引き結んだ。この屈辱は、必ず自らのらしてみせると誓いながら。

あのから、が流れた。 古いアパートの窓から見える景は、見渡す限りの殺景なコインパーキングとのブロック塀だけであった。 朝に目覚め、さな鍋で自分のためだけに分の質素な朝を作る毎。かつての好物を考え、彩りを夫して腕を振るっていた私のは、今やただきるための作業を無質に繰り返していた。

広告

この志からの連絡は度たりともなかった。 (志は、ちゃんとご飯をべているのかしら……) ふと浮かぶ息子の配を、私は首を振って打ち消す。独り言が増えたのは、孤独が骨の髄まで染み付いてきた証拠であろう。しかし、あの玄関先で見せられた息子の酷な差しをすたび、胸が締め付けられるように痛んだ。実の母親を「性格の悪い女」と罵り、捨てった息子のたい声が、の奥かられない。

用品の買いしにかけると、町内の々の線が方から突き刺さるようにり注いだ。 スーパーマーケットの品売りでも、私を見かけるなり骨にワゴンを避けて距を取る主婦たちの姿があった。かけて築きげてきた所との信頼関係は、跡形もなく崩壊していた。

「ほら、あのよ、川島良子さん……」 「息子の嫁を毎いびり倒して、から追いされたんですってね」 「本当に酷い姑だったらしいわよ。耶さんがでならないわ」

陳列棚の向こうから聞こえてくるないに、私はく俯き、にレジへと向かうしかなかった。 反論したくても、誰も私の言葉にを傾けてはくれない。まるで自分がこの町からを消された透になったかのような、底れぬ無力に苛まれていた。

広告

そんなあるの午、私はを決して、古巣である呉へとを運ぶことにした。 、青のすべてを捧げて勤めげた職である。町の誰もが私を疑おうとも、せめて苦楽を共にしてきた仲たちだけには顔をわせたいという、縋るようないであった。

ガラガラと引き戸をけて内にを踏み入れると、着物の染料と品なりが私を包み込んだ。

「……良子さん! お久しぶりですね!」

の奥からりで駆け寄ってきたのは、の吉岡さんだった。彼女は私のを取ると、からの温もりを込めて微笑んでくれた。この、誰からも向けられなかったの優しさに触れ、私の胸はくなった。

「吉岡さん、ご無汰しております。お元気でしたか?」

「良子さんこそ、お体は丈夫なの? 町内の噂はに入っているけれど……私はね、あんな馬鹿げた噂、最初からミリも信じていませんよ」

吉岡さんの毅然とした言葉に、張り詰めていたが決壊し、わず目くなった。信じてくれるがいる――ただそれだけで、暗に閉ざされていたがどれほど救われたかれない。

「実は私も、良子さんらしくないとって首を傾げていたんです」

の奥から、員の美咲(みさき)さんも顔をして優しく微笑んだ。

、良子さんがどれほど誠実にお客様や私たち輩に接してくださっていたか、私たちが番よくっていますもの」

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: