"面接官の誤算" 第4話
どうやらこのでは、彼が最も発言力を持っているらしかった。
「何か問題あります?」
佐野は俺ではなく、隣の面接官へ言った。
「最終に採るを見極めるのが事でしょう。うちはエリートが集まる会社なんですよ。入ってから周りについていけないようなを採ったら、本のためにもならない」
俺は奥歯を噛みしめた。
学歴をする採用方針そのものなら、会社によってはあり得る。しかし、それなら最初から応募条件にけばいい。次と次を通過させておきながら、最終面接で庭環境まで持ちしてそのものを侮辱するのは、選考でも評価でもなかった。
「つ確認してもよろしいでしょうか」
俺が尋ねると、佐野は面倒そうに顎をげた。
「何?」
「佐野部は、学歴と庭環境によって、仕事の能力を判断されているということでしょうか」
「傾向はあるだろ。環境っていうのはを作るからね」
「では、学歴で裕福な庭のなら、それだけで能力がいと?」
し悪な聞き方になったかもしれない。
佐野はで笑った。
「なくとも君よりは期待できるよ」
のが完全に黙り込んだ。俺はそこで、これ以質問してもがないと判断した。相は自分の評価基準を疑っておらず、俺と話しているのではなく、自分が優位につことを楽しんでいるだけだった。
広告
「分かりました」
俺は度をげた。
すると佐野は、「分かったなら、もういいよ」とを振った。
「もったいないから。ていって」
その瞬だけは、本気で言い返したかった。
俺の学歴を馬鹿にするだけなら、まだ耐えられたかもしれない。だが、母が必に働いて学までかせてくれたことまで「貧乏」という言で踏みにじられ、兄への憧れもで笑われた。そのが面接でなければ、机を叩いていた能性すらある。
しかし、俺はちがった。
「本はありがとうございました」
最までをげた。
佐野は俺を見ようともしなかった。
廊へた瞬、胸の奥に押し込めていた悔しさが気に込みげた。歩きながら何度も拳を握り、エレベーターの鏡に映った自分の顔を見て、ようやくりで頬がくなっていることに気づいた。
階へりる途、次面接で会った採用担当者と偶然すれ違った。
「館さん、もう終わったんですか?」
「はい」
「ずいぶんいですね」
俺は何と答えるべきか迷った。
「最終面接ですから、そういうこともあるんじゃないでしょうか」
それだけ言うと、担当者はらかに審そうな表をした。
会社をてからも、しばらく歩くことができなかった。ビルの脇にあるベンチへ腰をろし、自販売で買ったをんだが、喉に引っかかるようなじがした。
広告
兄に話した。
3回目の呼びし音でた。
「どうだった?」
俺は数秒黙ってから言った。
「兄貴。報告したいことがある」
声の調子で何かを察したのだろう。兄は冗談を言わず、「聞く」とだけ答えた。
俺は面接で起きたことを、できるだけを入れずに説した。佐野という事部の態度、庭環境についての発言、学を理由にした侮辱、採用だと言って面接を制に打ち切ったこと。の面接官が止められなかったことも含め、覚えている限り話した。
最まで聞いた兄は、しばらく黙っていた。
「達郎」
「うん」
「よく言い返さず帰ってきたな」
その言葉を聞いた途端、しだけ肩の力が抜けた。
「本当は殴りたいくらい腹ったけどな」
「それはやめて正解だ」
兄はく笑ったあと、再び真剣な声になった。
「ここからはこっちで確認する。おは普段通り仕事してろ」
「俺の話だけで決めないでくれよ」
「もちろん。だから調べるんだ」
俺は話を切った。
この点ではまだ、俺自も佐野だけがおかしかった能性を考えていた。
会社全体が腐っているなどとはっていなかった。
しかし、それから1か。
兄たちが調べたものは、俺の像をはるかに超えていた。
最終面接から1かが過ぎても、都アドバンスから否通は届かなかった。佐野にそので「採用」
と言われていたため結果自体は分かっていたが、正式な連絡さえ来ないことには驚いた。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
車いすの恋人に請求された三万三千円の「迷惑料」
交通事故で車いす生活となった恋人・明菜と、もう一度穏やかな日常を取り戻そうとしていた聡。明菜の誕生日、二人は思い出のフレンチレストランを訪れる。しかし待っていたのは、食事時間の一方的な短縮と、三万三千円もの「迷惑料」だった。因果応報|人生逆転|真相|修羅場2.8万字5 755 -
完結第20話
婿との温泉旅行で、仲居から渡された「逃げて」のメモ
七十歳の元大工・桐山正三は、婿の達也に誘われ、信州の温泉旅館を訪れる。亡き妻との思い出に浸るはずだった夜、仲居から渡された一枚のメモには、「その酒を飲まず、裏階段から逃げてください」と書かれていた。達也が狙っていたのは、正三が妻と築き上げた家と土地だった。必死に逃げ帰った正三を待っていたのは、娘の貯金六百八十万円の行方と、身に覚えのない不動産売買契約書。なぜ仲居は危険を冒してまで彼を助けたのか。家族の財産と娘の人生を守るため、老大工の静かな反撃が始まる。怒り|親不孝|真実|親子関係|修羅場2.8万字5 1766 -
完結第18話
父の一周忌、兄が追い出そうとした母子の契約書
父の一周忌を終えた翌朝、45歳の西村綾子は、空き家のはずの実家で見知らぬ母娘に出会う。兄の正人は「不法占拠だ」と警察を呼ぶが、12歳の少女が差し出したのは、亡き父の署名が入った三年間の賃貸借契約書だった。さらに兄は、綾子に無断で実家の売却を進めていたことが判明する。父はなぜ、家族にも知らせず母娘を住まわせたのか。そして、兄がそこまでして家を売ろうとする本当の理由とは。父の遺した一枚の契約書から、家族が隠してきた秘密が次々と明らかになっていく――。怒り|真実|絶縁|親子関係|修羅場2.2万字5 268 -
完結第20話
花嫁のいない結婚式
結婚式を翌日に控えた長谷川由衣は、胃痛を訴える婚約者・黒田瞬のために、心を込めて雑炊を作っていた。ところが彼の部屋の前で耳にしたのは、「あいつはただの身代わりだ」という残酷な本音。三年間の愛情も、婚約指輪も、純白のドレスも、すべて元婚約者の代わりだったと知った由衣は、誰にも告げず空港へ向かう。翌朝、二百人の招待客が待つ式場に花嫁は現れなかった。人生逆転|真実|裡の顔|第二の人生|修羅場2.9万字5 426 -
完結第18話
誤爆LINEの夜
結婚六年目。妻の明子に勧められ、出張前夜をホテルで過ごすことにした直人。ところがチェックイン直後、妻から「今日旦那いないから、いつもみたいにイチャイチャしよ♡」というLINEが届く。慌てて削除されたメッセージに不信感を抱いた直人は、何も知らないふりをして自宅へ戻る。夫婦|裡の顔|修羅場|不倫2.0万字5 1266 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 886 -
完結第18話
剣を捨てない花嫁
八歳の春、父から「今日からお前は息子だ」と告げられた澄は、道場の跡取りとして剣だけを教え込まれて育った。だが十九歳の秋、待望の弟が生まれると、父は突然、借金の肩代わりと引き換えに彼女を久世家へ嫁がせてしまう。女らしい振る舞いができず、屋敷の人々に笑われる澄。そんな彼女に夫の春臣だけは優しかった。ある月夜、春臣から差し出された木刀を握った瞬間、二人の間に隠されていた七年前の縁が明らかになる。そして澄は、自分の婚姻にまつわる思いがけない秘密へと近づいていく。時代|歴史|親子関係|修羅場1.8万字5 204