"席次表から消された母" 第1話
「奈津子、亮の結婚式なんだけど、おには親族席の端へ移ってもらおうとってる」
夫の雅がそう言ったのは、息子の結婚式まであと12となった曜の夜だった。56歳の奈津子は、テーブルに広げた席次表から顔をげ、何を言われたのか分からないまま夫の顔を見た。
「端って、どういうこと?」
「真理子が来ることになった」
雅は線をわせないまま、席次表のか所を指で押さえた。郎父の隣、本来なら奈津子の名が入っていた所には、見覚えのない名が印刷されていた。
《真理子》
正確には、もうではないはずだった。
25に雅と婚した、亮の実母である。
奈津子はしばらく何も言えなかった。をらなかったわけではないが、写真すらほとんど見たことのない女性であり、亮自も幼い頃の記憶をほぼ持っていなかった。
「どうして今になって?」
「亮が結婚するんだから、度くらい母親としててもらってもいいだろう。向こうも、それを望んでる」
母親として。
奈津子の胸の奥で、その言葉だけが鈍く残った。
雅と結婚した、亮は5歳だった。
夜にをせば奈津子が病院へ連れてき、学で友達と喧嘩したには担任からの話を受けた。学2で学へけなくなった3ヶは、毎朝何も聞かずに朝を置き、部からてきたに緒にコンビニまで歩いた。
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受験。
学学。
初めての就職。
失恋した夜。
30歳になった今まで、亮は奈津子を「母さん」と呼んできた。
血はつながっていない。
それでも奈津子にとって、亮は息子だった。
「それなら、真理子さんも親族席に座ればいいじゃない。どうして私が移るの?」
「母親が並ぶのは変だろ」
雅は当然のように答えた。
「向こうのご両親だっているんだ。結ちゃんのに余計な説をさせるのも申し訳ない」
奈津子は席次表を見た。
自分のしい席は、夫から3席れた所だった。雅の従妹夫婦と、ほとんど会ったことのない親戚のに名が移されている。
「私は何としてるの?」
「何って、俺の妻だろ」
「亮の母親じゃなくて?」
雅が困った顔をした。
「そういう言い方するなよ。25も育てたことは、誰も否定してない」
25も。
その言い方が議だった。
く働いた従業員に功労賞でも渡すような響きだった。
「ただ、本当のお母さんは真理子なんだから」
雅が続けた。
奈津子は何も答えなかった。
その夜、寝へ入ってからも、夫の言葉がかられなかった。
《本当のお母さん》
それでは自分は、何だったのだろう。
25。
本物になることは、度もなかったのだろうか。
翌。
亮から話が来た。
「母さん、父さんから聞いた?」
「席のこと?」
「うん」
亮の声はらかに気まずそうだった。
「俺も急だったから驚いたんだけどさ。
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真理子さん……度会ったんだ」
奈津子は初めて聞いた。
「いつ?」
「先。父さんが連絡取ってくれて」
雅は何も話していなかった。
亮によれば、実母の真理子は現58歳で、千葉県で暮らしをしているという。再婚歴はあるが7に夫を病気でくし、今はさな美容で働いていた。
「どんなだった?」
「普通だったよ」
亮はし笑った。
「もっと何かすごいことになるかとったけど、会ったら普通のおばさんだった」
その言い方に奈津子もし笑いそうになった。
「それで、結婚式にたいって?」
「うん。父さんが、に度なんだから母親らしいことをさせてやりたいって」
奈津子は眉を寄せた。
「真理子さん本がそう言ったの?」
話の向こうで、亮がし黙った。
「たぶん」
その曖昧さが気になった。
「母さん、嫌?」
亮が聞いた。
奈津子はすぐには答えられなかった。
嫌かと言われれば。
嫌だった。
25、自分が座るのだとっていた席だった。
でも。
亮の結婚式で争いたくはなかった。
「結婚するのは亮なんだから、亮がそうしたいならいいよ」
「ごめん」
「謝ることじゃないでしょう」
そう言って話を切った。
自分でも驚くほど、落ち着いた声をせたとう。
ところが3。
奈津子のスマートフォンに、らない番号から話が入った。
「奈津子さんでしょうか」
女性の声だった。
「はい」
「突然すみません。私、森川真理子と申します」
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