"家族写真の左端" 第10話
「そうだ」
源蔵が答えた。
「どうして会ったことがないの?」
源蔵は瞬黙った。
以なら、「子どもが聞くことではない」と終わらせていただろう。
だが、このは違った。
「くへっていたからだ」
「どこへ?」
「横浜だ」
「今もいるの?」
源蔵は写真へ目を落とした。
「もうくなっている」
妹はししそうな顔をした。
「会ってみたかったな」
その言に、部が静かになった。
きぬは目を伏せた。
源蔵も返事をしなかった。
しかし清郎には分かった。
子どもの何気ない言が、父の胸にく届いたことを。
その夜、清郎はアルバムをいた。
いの台がねられ、瀬の古い写真が貼られている。
曾祖父母。
若い頃の祖父母。
源蔵がだった頃の写真。
の奉公たちと撮った枚。
そこへ、しい写真が2枚加えられた。
枚には、瀬の族だけ。
もう枚には、端に宗吉。
源蔵は2枚をさず、並べるように貼った。
清郎が尋ねた。
「どうして隣にするんですか」
源蔵はを止めずに答えた。
「同じに来た写真だからだ」
それだけだった。
だが清郎には、その言葉以のがあるようにえた。
失敗写真だから残すのではない。
正しい写真と違った写真。
どちらも、このに必な枚になったのだ。
源蔵は最に、古い乾板も写真館から引き取った。
割らずに、さな箱へしまった。
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包みには、8の文字がそのまま残っていた。
「治34 瀬」
源蔵はその文字を消さなかった。
写真の件があってから、瀬ので宗吉の名をにすることは禁じられなくなった。
だからといって、毎のように昔話がるわけではない。
源蔵は相変わらず無だったし、商売のに兄のいを々と語るようなでもなかった。
それでも、折何かの拍子に宗吉の名がるようになった。
帳で清郎が計算を違えた。
源蔵はそろばんを指で弾きながら言った。
「兄貴も最初からできたわけじゃない」
清郎は驚いた。
「伯父も違えたんですか」
「当たりだ」
「おばあさまは、何でもできたと言っていました」
「母親は都の悪いことを忘れる」
たまたまくを通ったきぬが聞きつけた。
「何を言ってるんだい。宗吉はおよりずっと覚えがかったよ」
「ほら、これだ」
源蔵が顔をしかめる。
そのやり取りに、清郎は笑った。
宗吉の名がても、の空気が凍りつかない。
それだけできな変化だった。
きぬもしずつ、宗吉の昔話をするようになった。
幼い頃、川へ落ちそうになった源蔵の帯を宗吉がつかんだこと。
の菓子を勝にべて、兄弟そろって叱られたこと。
宗吉が初めて帳へ座った、緊張しすぎてそろばんを落としたこと。
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写真のにしかいなかった男へ、しずつ活の匂いが戻っていった。
清郎にとって、それは議な覚だった。
宗吉はすでにくなっている。
会うことはできない。
それでも話を聞くたび、そのが確かにこので育ったことが分かる。
同じ廊を歩いた。
同じ卓で事をした。
今、自分が学んでいる帳で商売を覚えた。
父と兄弟喧嘩もした。
祖母を「母さん」と呼んだ。
そしてをた。
「の記録に名を戻すんですか」
ある、清郎は父へ尋ねた。
源蔵はすぐには答えなかった。
「記録を勝にき換えるような話ではない」
「でも、今まで見えるところには何もありませんでした」
「そうだな」
源蔵は考え込んだ。
先代が宗吉の名をざけたことは、の歴史そのものだった。
今になって、何もなかったように元へ戻すこともまた違う。
宗吉がをた事実も、先代と対した事実も消せない。
「全部そのまま残すしかない」
源蔵が言った。
「どういうことですか」
「宗吉がをたことも、父が名をにするなと言ったことも、俺たちがく守ったことも、そのせいでおたちが何もらなかったこともだ」
清郎は黙って聞いた。
「都の悪いところだけ消せば、また同じことになる」
源蔵の言葉は、自分自へ言っているようにも聞こえた。
写真の件がなければ、瀬は宗吉のことを語らないままだっただろう。
きぬがくなれば、宗吉を詳しくるはさらになくなる。
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