"家族写真の左端" 第12話
「僕もっていいんですか」
「いつまでも帳のだけでは商売は覚えられん」
源蔵はそう言って、帳簿を閉じた。
清郎は嬉しさを隠しながら頷いた。
「分かりました」
源蔵がちろうとした、清郎は呼び止めた。
「父」
「何だ」
「宗吉伯父も、こうやって教えてもらったんですか」
源蔵はしち止まった。
以なら、表を変えていたかもしれない。
だが今は、普通に答えた。
「兄貴は俺よりかった」
「またそれですか」
「本当のことだ」
「では、僕は伯父よりく覚えます」
源蔵が初めて声をてて笑った。
「言うようになったな」
その笑い声を、縁側にいたきぬが聞いていた。
きぬは何も言わず、ただし目を細めた。
息子が2そろっていた頃から、いが流れていた。
1はを継いだ。
1はをた。
どちらが正しかったのかを、今さら簡単に決めることはできない。
宗吉がをなければ、源蔵はにならなかったかもしれない。
源蔵がを守らなければ、宗吉が助けた瀬も続かなかったかもしれない。
を選んだ弟。
自分のを選んだ兄。
2のは分かれた。
それでも完全に切れてはいなかった。
宗吉はくから瀬を助けた。
源蔵は兄から頼まれたを守った。
ただ、その事実を族が認めるまでにいが必だった。
治という代。
というものは、今よりはるかにかった。
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名を残す。
業を継ぐ。
取引先との縁を守る。
親が決めた縁談を受け入れる。
個の望みよりも、全体の都が優先されることは珍しくなかった。
そので宗吉は、自分でを選んだ。
そしてその代わりに、瀬かられることになった。
先代にとって、それはを守るための決断だった。
だがを守るための決断が、そのにきたのまで消していい理由になるわけではない。
戸籍からざけることはできる。
写真をしまうこともできる。
名をにするなと命じることもできる。
子どもたちへ何も教えずに育てることもできる。
けれど、そのがきた事実まで消すことはできない。
横浜へ送られた2通の。
瀬を救った取引。
写真館に残されたガラス乾板。
そして弟の記憶。
宗吉がこの世にいた痕跡は、誰かが忘れようとしても残っていた。
数に写真がどう扱われたのか。
誰が次にアルバムをいたのか。
それをる者は、やがてなくなっていった。
ただ瀬では、治42に撮られた2枚の族写真がく並べて残された。
枚には族だけが写っている。
父と母。
子どもたち。
祖母。
当の瀬として、誰が見ても正しい族写真だった。
その隣には、同じ構図のもう枚。
背景の柱のそばに、族の誰よりもい姿で1の男がっている。
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らないが見れば、写真の失敗にしか見えない。
だが瀬の者は、その男の名をるようになった。
「これは誰?」
の世代の子どもが尋ねれば、もう「らない男」と答える必はなかった。
宗吉というだ。
このにまれた。
本当ならを継ぐはずだった。
でも、自分の好きなを選んでをた。
それでも瀬が困ったには、くから助けてくれた。
そう話すことができた。
森川写真館の亀吉にとって、その枚は失敗作だった。
乾板の扱いを誤ったためにまれた、客へ渡すべきではない写真だったかもしれない。
源蔵も最初は処分しようとした。
乾板まで割ってしまおうとした。
しかし、最には残した。
族だけが写った正しい写真と、族がくいなかったことにしてきた兄が写った失敗写真。
2枚を並べることで、瀬はようやく自分たちの過をそのまま残すことができたのだった。
治42、初。
信州のさな写真館で起きた、たった1つの焼き付けの違い。
それは誰かの霊を写したわけでも、議な現象を起こしたわけでもなかった。
ただ8の古い乾板が、偶然しい族写真へなっただけだった。
けれど、その偶然がなければ、1の男の名は族のから静かに消えていたかもしれない。
写真の端にくつ宗吉は、何も語らない。
表も変わらない。
ただ、治34に写真師から「かないでください」
と言われたのまま、まっすぐこちらを見ている。
そして8。
自分のらないところで、しい瀬の族と緒に枚の写真へ収まった。
をた男。
跡を継いだ弟。
息子を忘れられなかった母。
何もらずに育った次の世代。
い、それぞれ別々に抱えられていた記憶が、枚の写真によって初めてつながった。
瀬にとって本当に残すべきものは、派な商の姿だけではなかった。
を守るために隠されたこと。
言えなかった悔。
れていても切れなかった族の。
それらもまた、瀬が歩いてきた歴史だった。
治42。
写真館で撮った族写真に、だけらない男が写っていた。
その男は、らないではなかった。
族がい、らないことにしていただったのである。
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