"尋ね人が呼んだ母の旧姓" 第3話
引き戸をける。
たい気とともに、若い女性がっていた。
「岡田文子さんのお宅でしょうか」
落ち着いた声だった。
女性は紺のコートを着て、さな鞄を両で持っていた。
「私、恵子と申します」
夫の胸がきく鳴った。
ラジオの向こう側にいた名が、突然、自分たちのの玄関にっていた。
恵子は19歳とはえないほど落ち着いて見えた。
清に促されて茶のへ入り、紺のコートを脱いで丁寧に畳んだ。緊張しているはずなのに、作は静かで、声も乱れていなかった。
文子は鉢の向こうに座っていた。
恵子が入ってきた瞬から、その顔をまともに見ることができないようだった。
夫はしれた所に座った。
弟たちには別の部へくよう言われていたが、自分だけは清に残るよう言われた。
おそらく15歳なら、もう何が起きているのか理解できると考えたのだろう。
恵子は文子をじっと見つめた。
それから、ゆっくり言った。
「やっぱり、お母さんですね」
その言で、清の表がくなった。
文子は目を伏せた。
「どういうです」
清が尋ねた。
声は静かだったが、そのにいた全員が緊張をじた。
恵子は膝のに置いていた鞄をけた。
から枚の古いを取りす。
何度も折りたたまれた跡があり、のも黄ばんでいた。
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「これを見てください」
清が受け取った。
夫も隣から覗き込んだ。
終戦翌の付がかれていた。
引き揚げの途で作られた記録の写しだった。
文字の部はくなっていたが、名だけは読めた。
「母 文子」
そのに、
「子 恵子」
と記されていた。
夫はわず母を見た。
文子はそのを見ようとしなかった。
清は何度も同じ部分を読み返した。
そして静かにをちゃぶ台へ置いた。
「文子」
妻の名を呼んだ。
「説してくれ」
文子は両を膝のでねていた。
指先が震えていた。
「このは、本当におの娘なのか」
い沈黙が続いた。
では、自転のベルの音がく聞こえた。
文子はようやく顔をげた。
「私が産んだ子ではありません」
清の眉がいた。
夫も息を呑んだ。
恵子は驚かなかった。
京で会ったに、すでにその話を聞いていたのかもしれない。
「じゃあ、この記録は何なんだ」
清がを指した。
「母、文子。子、恵子。そういてある」
文子は記録を見つめた。
その目に、今まで夫が見たことのない表が浮かんでいた。
懐かしさともしさとも違う。
もっとい所を見ているような目だった。
「戦争が終わったの話なの」
そう言って、文子はゆっくり話し始めた。
岡田の誰にも、13度も話したことのない過だった。
昭20。
戦争が終わった、文子は旧満州にいた。
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終戦をらせる言葉が々のを駆け巡った、誰も「これで全て終わる」とはえなかったという。
むしろ、そのから別の苦しさが始まった。
昨まで当たりだった秩序が崩れた。
々はんでいた所をれ、持てるだけの荷物を抱えて移した。
列はいつ来るか分からない。
来ても乗れるとは限らない。
には、同じように本へ帰ろうとする々があふれていた。
料も分ではなかった。
「私は、族ともれていたの」
文子は静かに言った。
自分自、どこへけば本へ戻れるのか正確には分からなかった。
の流れについて歩き、報があれば次の所へ移る。
ただそれだけの々だった。
そんな混乱ので、文子は1組の母娘とりった。
母親の名は子。
娘が恵子だった。
夫は目のの女性を見た。
19歳の恵子は、黙ったまま文子の話を聞いていた。
「恵子ちゃんは、まだ本当にさかった」
文子の声がし震えた。
「自分でく歩けるような歳じゃなかった」
子は娘を抱えながら移していたが、体調を崩していた。
最初は疲労だとっていた。
しかしにに顔が悪くなり、歩く速度も遅くなっていった。
文子は荷物を持つのを伝った。
には恵子のを引いた。
そうして、3で緒に本を目指すようになった。
ある夜。
を寄せて休んでいた、子が文子に言った。
「もし私に何かあったら、この子だけは本へ連れて帰って」
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