"尋ね人が呼んだ母の旧姓" 第8話
恵子はし笑った。
「昔、お母さんって呼んでたんでしょう?」
文子の目から涙がこぼれた。
「呼んでたよ」
「じゃあ、今もそう呼ばせてください」
その言葉を聞いた文子は、顔を伏せた。
泣き声を抑えようとしていたが、肩がさく震えていた。
夫はその様子を見ながら、自分のにあったが変わっているのをじていた。
最初にラジオを聞いた夜。
夫は恵子を「母が隠していた娘」だとった。
父と結婚するに母が産んだ、自分たちのらない姉。
そう考えた、怖かった。
母に裏切られたような気もした。
自分たちがらない別の族がどこかにしていたようにえた。
だが今、目のの恵子を見れば、全く違って見えた。
昭20。
まだ幼かった恵子は、自分で何かを選んだわけではない。
母親とれたくてれたわけでもない。
文子についていくと決めたわけでもない。
ただ混乱ので、誰かのを握らなければきていけなかった。
そのを文子がさなかった。
もし文子が、
「この子は私の子ではありません」
と答えていたら。
もし途で、
「自分だけでも変だから」
と恵子を置いていたら。
そのの恵子のがどうなったか、誰にも分からない。
夫は恵子へしずつ話しかけるようになった。
「京では、どんな仕事をしてるんですか」
最初はそんな簡単な話だった。
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恵子も答えた。
やがて弟たちも恵子のに慣れた。
「お姉さんなの?」
幼い弟が無邪気に尋ねた、茶のにしだけ困ったような笑いが広がった。
戸籍は姉ではない。
血もつながっていない。
だが「らない」でもない。
岡田ので、恵子をどう呼ぶべきか、誰にも正確な答えはなかった。
それでも、そんなことはしずつではなくなっていった。
恵子は々岡田を訪れるようになった。
文子と2で台所につこともあった。
昔のことを話すもあれば、全く関係のない常の話だけで終わるもあった。
清は最初、恵子が来るとし緊張していた。
だが何度か会ううちに、普通に茶を勧めるようになった。
ある、恵子が帰った。
清は文子に言った。
「お、あの子のことを忘れたことはなかったんだろ」
文子はし考えて頷いた。
「忘れようとしたことはあるけどね」
「忘れられなかったか」
「うん」
清はそれ以何も言わなかった。
ただ、そのから恵子が来るには、茶菓子をし余分に買うようになった。
それからしばらくして、恵子の結婚が決まった。
そのらせを受けた、文子は自分の娘のことのようにんだ。
同に、どこか慮するような気持ちもあった。
恵子にとって自分は、戸籍の母親ではない。
結婚式という正式なで、どこに座るべきなのか。
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自分がへることで、恵子を困らせるのではないか。
文子は何度もそのことを気にした。
「私はくだけでいいからね」
恵子が岡田へ来た、文子は言った。
「親族みたいな顔をしてに座らなくてもいいのよ」
恵子は笑った。
「何言ってるんですか」
「だって、あなたにはあなたの族がいるでしょう」
恵子を育てたの々。
これまで支えてきたたち。
そこへ突然、自分が「母」のようなで入ることは違うのではないか。
文子はそう考えていた。
だが恵子は、はっきり言った。
「文子さんたちは親族席に座ってください」
「でも……」
「私がそうしてほしいんです」
結局、結婚式の。
親族席には文子と清、そして夫たちが座っていた。
文子は朝から落ち着かなかった。
恵子のれ姿を見るたび、満州でを握って歩いていた幼い子どもの姿がなった。
あのは、この子がになる姿を見ることなど像できなかった。
本へ帰れるかさえ分からなかった。
今べるものをどうするか。
今夜どこで眠るか。
それだけで精いっぱいだった。
そのさな恵子が、今は自分のを歩き、結婚するを迎えている。
文子は式の途、何度も目を押さえた。
隣の清がさな声で言った。
「泣きすぎだぞ」
「だって……」
文子は言葉を続けられなかった。
清はしばらく黙っていた。
そして、周囲には聞こえないほどの声で言った。
「最初から話してくれればよかったのに」
文子はし驚いて夫を見た。
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