"姉の代わりに嫁いだ私" 第1話
「おが、千代の代わりに嫁げ」
父のからその言葉がた瞬、志津は自分の聞き違いだとった。
姉・千代の葬儀から、まだ12しか経っていなかった。仏にはいが残り、線の匂いも消えていない。つい先まで姉が使っていた櫛も鏡台も、誰も触れられないまま置かれていた。
正14、京都。
志津のである「松」は、代続く呉商だった。
通りに面した先にはとりどりの反物が並び、奥には帳があり、そのさらに奥に族が暮らす座敷が続いていた。幼い頃から志津にとって、とは分けて考えることのできない所だった。
18歳になった志津は、その、父に呼ばれて奥座敷へ入った。
父の正面には、榊原宗郎が座っていた。
黒い羽織を着た宗郎は、背筋を伸ばし、畳の点を見つめている。その隣には宗郎の父もいた。
志津は座敷へ入ったから嫌な予がしていた。
だが、父の言葉は、その予よりはるかに残酷だった。
「……誰のところへ?」
聞かなくても分かっていた。
それでも、志津は尋ねずにはいられなかった。
父は宗郎へ線を向けた。
「榊原さんのところだ」
胸の奥がたくなった。
姉がきていれば、には宗郎と祝言を挙げることになっていた。
千代は志津より4歳だった。
では何をするにも慎で、母がくなってからは、志津にとって姉であると同に母親のようなでもあった。
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病に伏してからも音を吐かず、最まで族のことばかり気にしていた。
その千代がくなって、まだ12である。
「姉さんがくなったばかりですよ」
志津は父を見た。
父は表を変えなかった。
「分かっている」
「分かっていて、そんな話をしているんですか」
「これは千代だけの縁談じゃない」
その言で、志津には父が何を考えているのか分かった。
松の商いは、ここ数できく傾いていた。
第次世界戦は景気のいい期もあった。だが戦争が終わると反況が訪れ、以のように価な呉が売れなくなった。
古い得客だけでは商売が成りたなくなり、仕入れ代を払うため、父は榊原から資を借りていた。
榊原は京都でも力のある織物問だった。
両は古くから取引があり、父たちはさらに関係をめようとしていた。
そのために決まったのが、女・千代と宗郎の結婚だった。
ただし、宗郎が千代を嫁にもらうのではない。
宗郎が松へ婿として入り、将来を継ぐことになっていた。
父には息子がいなかった。
松の名を残すためにも、商売を続けるためにも、娘に婿を取る必があった。
千代がくなっても、松に跡取りが必であることは変わらない。
借が消えるわけでもない。
榊原との取引がになるわけでもない。
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だから、姉の代わりに妹を嫁がせる。
父にとっては、それだけのことなのだ。
「嫌です」
志津はきっぱりと言った。
父の眉がいた。
「志津」
「嫌です。私は姉さんの代わりにはなりません」
「代わりになれと言ってるんじゃない」
「同じでしょう!」
志津は初めて、父に向かって声を荒らげた。
幼い頃から、父はので絶対なだった。父の言うことに逆らえば、母にも姉にも迷惑がかかるとい、志津はいつも黙ってきた。
しかし、そのは耐えられなかった。
「姉さんがんで、まだ12ですよ。それなのに、もう次の娘を嫁がせる話をしてる」
「には事がある」
「私にもがあります!」
父の顔が張った。
「わがままを言うな」
志津は唇を噛んだ。
それから宗郎の方を向いた。
「宗郎さんだって嫌なはずです」
宗郎はずっと黙っていた。
姉の婚約者だった男。
志津はこれまで何度も顔をわせたことがあったが、まともに話したことはほとんどない。千代との縁談が決まったも、真面目で静かなだという程度にしかっていなかった。
「姉さんがくなったから、今度は私だなんて」
志津は宗郎を睨んだ。
「あなたは、それでいいんですか」
宗郎はゆっくりと顔をげた。
「……いいとはっていません」
座敷が静まり返った。
宗郎の父が鋭い目を向ける。
「宗郎」
だが宗郎は続けた。
「私も、この話を望んでいるわけではありません」
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