"姉の代わりに嫁いだ私" 第3話
「ええ」
「姉さんの方が妻としてふさわしかったとはわないんですか」
宗郎は線を落とした。
「私は、千代さんと結婚したかったわけではありません」
志津は息を呑んだ。
次の瞬、りが込みげた。
「くなったに、よくそんなことが言えますね」
「違います」
宗郎はすぐに首を振った。
「そういうではありません」
「だったらどういうです」
宗郎は箸を置いた。
「千代さんも、私との結婚を望んでいなかったということです」
志津は何も言えなくなった。
姉が、宗郎との結婚を望んでいなかった。
そんな話は、度も聞いたことがなかった。
「姉さんが、嫌がっていたんですか」
志津は信じられない気持ちで尋ねた。
宗郎はしばらく黙ってから、静かに頷いた。
「嫌がっていた、という言い方が正しいかどうかは分かりません。ただ、望んで決めた縁談ではありませんでした」
それは宗郎も同じだった。
宗郎には、若い頃から阪へたいといういがあった。
しい商売を見てみたい。
織物問の跡取りとしてのだけで働くのではなく、商社へ入り、もっと広い世界をりたい。
「そんな話、聞いたことありません」
「誰にも言わなくなりましたから」
「どうしてです」
「言っても仕方がなかったからです」
宗郎の父は、息子がをれることを認めなかった。
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榊原の男には榊原の役目がある。
そのうえ松には男子がいない。
両をさらにく結びつけるため、宗郎を松へ婿として入れる話が持ちがった。
「父にとっては、悪い話ではなかったんでしょう。榊原と松の関係がくなる。同士も助けえる」
宗郎は淡々と話した。
「私が阪へきたいかどうかは、その話とは関係がなかったんです」
志津は姉のことを尋ねた。
「姉さんは何をしたかったんですか」
「もっと勉したいと言っていました」
志津は目を見いた。
千代は女学をていた。
卒業はすぐへ戻り、母がくなってからは松の奥を取り仕切るようになった。
志津は、それが姉の望んだ暮らしなのだとっていた。
「千代さんは、本を読むのが好きでした」
宗郎は言った。
縁談が決まってから、宗郎と千代は何度か族同席のもとで顔をわせていた。その、両の用事でいだけ2で話す会もあった。
その、千代は宗郎に打ちけたという。
「女学をたあとも学びたかったそうです。でもの事があるから諦めた、と」
志津は、姉の部をい浮かべた。
本棚には、何冊もの本が並んでいた。
病に伏してからも、本を枕元へ置いていた。
志津はただ読が好きなのだとっていた。
その先に、別のを望んでいたとはらなかった。
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「どうして姉さんは私に言ってくれなかったんでしょう」
宗郎は答えなかった。
志津自にも、答えは分かる気がした。
千代はいつも「姉」だった。
母がくなったは、ので番しっかりしなければならなかった。
妹ので迷いやさを見せることができなかったのかもしれない。
「それでも姉さんは結婚しようとしていた」
「私もです」
「のために?」
「そうです」
志津は宗郎を見た。
これまで、自分だけが犠牲になったとっていた。
姉の、のために差しされた自分。
に逆らえず、自分を姉の代わりに受け入れた宗郎。
その2だけだとっていた。
しかし違った。
んだ千代も、同じだった。
「姉さんも嫌だったんですね」
志津が呟くと、宗郎はし首を傾げた。
「嫌だったというより、諦めていたんだといます」
「諦めるのと、嫌なのは何が違うんですか」
「分かりません」
宗郎は珍しく困ったように笑った。
「私にも、まだ分からないんです」
その夜から、2の会話はし変わった。
急に仲のよい夫婦になったわけではない。
ただ、事の席で仕事以のことを話すようになった。
宗郎は阪へきたかった頃の話をした。
志津は、姉と川沿いを歩いたいを話した。
宗郎が千代についてっていることを聞くたびに、志津は自分のらない姉に会った。
千代は宗郎へ、妹のことも話していた。
「志津は気がいように見えるけれど、本当はの顔ばかり見ている、と言っていました」
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