"姉の代わりに嫁いだ私" 第9話
「おが、千代の代わりに嫁げ」
あの言葉。
り。
悔しさ。
父を睨んだ自分。
すべてを昨のことのように覚えている。
父はしばらく黙っていた。
「は、何とか持ち直したな」
「はい」
「宗郎はよくやっている」
「そうですね」
父は志津を見た。
「おも」
志津はし驚いた。
父からそんな言葉を聞くとはわなかった。
「私も?」
「仕入れも、客の相もしているそうだな」
「毎見ているでしょう」
「そうだな」
父はし苦い顔で笑った。
それだけだった。
謝罪はなかった。
あの結婚を無理に決めたことについて、父が「悪かった」と言うこともなかった。
志津も求めなかった。
許したわけではない。
忘れたわけでもない。
ただ、父もまた「」を守ることしからなかったなのだと、今はしだけ理解できた。
父の代には、を続けることがそのまま族を守ることだと考えられていた。
娘が何を望むかより、名を残すことの方がだった。
だからといって、志津のを決めてよかったことにはならない。
理解することと、正しいと認めることは別だった。
父が座敷をようとした、志津は呼び止めた。
「お父さん」
「何だ」
「あののこと、覚えていますか」
父のが止まった。
「姉さんがくなって12目」
父は振り返らなかった。
志津は続けた。
「私に宗郎さんと結婚しろと言ったです」
い沈黙があった。
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「覚えている」
「私は、あののことを今でも嫌だったとっています」
父の肩がわずかにいた。
「そうか」
「でも」
志津は息をえた。
「今の暮らしまで嫌だと言っているわけではありません」
父はゆっくり振り返った。
志津は笑わなかった。
「それだけです」
父は何も言わず、さく頷いた。
その夜、志津は宗郎にその話をした。
「父は何と?」
「何も」
「そうですか」
「でも、あのにはあれで分なのかもしれません」
宗郎はしばらく考えた。
「あなたは分なんですか」
志津はし笑った。
「分じゃないです」
宗郎も笑った。
「でしょうね」
「でも、もう父に何か言ってもらわないとへめないわけじゃありません」
その言葉をにした、志津は自分自が番驚いた。
昔の自分なら、父に認めてほしかった。
姉より劣っていないと言ってほしかった。
この結婚が違いではなかったといたかった。
今は違う。
誰かが認めるかどうかで、自分ののを決める必はなかった。
宗郎が湯呑みを置いた。
「千代さんの、まだ持っていますか」
「もちろん」
「々読みますか」
志津は頷いた。
「とは違うところが気になります」
「どこです」
「『嫌なら断りなさい』の方です」
宗郎は黙って聞いていた。
「昔は、結婚を断れというだけだとっていました」
「今は?」
志津はし考えた。
「嫌なものを、嫌だと言ってもいいってことだったのかもしれません」
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結婚。
父の命令。
古い商売。
女は奥へ引っ込めという考え。
度決められたら、黙って従うしかない。
そのすべてに対して。
「断るって、逃げることだけじゃないんですね」
志津は言った。
「変えることも、断ることなのかもしれない」
宗郎は微笑んだ。
「千代さんが聞いたら、何と言うでしょう」
「分かりません」
志津も笑った。
「姉さんだって、答えは分からなかったんですから」
正という代は、きく変わりながらも、古いものをく残していた。
にはしい建物が増え、装の々も以より目つようになった。
百貨にはしい商品が並び、聞や雑誌からい世界の来事が入ってくる。
その方で、のには昔からの決まりが残っていた。
誰が督を継ぐのか。
娘はどこへ嫁ぐのか。
婿を取るのか。
名をどう残すのか。
結婚は、2の気持ちだけで決められるものではなかった。
と。
商売と商売。
親の向。
先祖から続く名。
それらが1の若者の希望よりく扱われることも、珍しくなかった。
志津も、そのでを決められた1だった。
18歳。
姉をくして12。
父に言われた。
「おが、千代の代わりに嫁げ」
あの、志津には未来が真っ暗に見えた。
姉の代用品としてきるしかないとった。
姉が着るはずだった装を着て。
姉が妻になるはずだった男と結婚し。
姉が継ぐはずだったを守る。
自分のには、最初から自分の名がかれていないようにじた。
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