"12年前も、彼が犯人だった" 第1話
「また1万円りません」
曜の朝740分、経理担当の浦理恵がそう告げた瞬、フーズ配送センターの事務所から音が消えた。パソコンのキーボードを打っていた事務員も、配送伝票を仕分けていたドライバーも、斉にを止めた。
44歳の配送主任・瀬直は、朝の配表から顔をげた。理恵のろには、現回収用の型庫がかれたまま置かれている。
「先週も曜だったよな」
直が確認すると、理恵はい表でうなずいた。
最初に現がしたのは3週だった。曜の業務終には帳簿と庫内の現が致していたのに、週けの曜になると1万円だけりなくなっていた。
翌週も同じことが起きた。そして今が3回目だった。
被害総額は3万円。会社の経営を揺るがす額ではない。しかし問題は、週末を挟むたび、同じ1万円が正確に消えていることだった。
フーズは、埼玉県内の病院や齢者施設、個宅へ弁当や材を届ける従業員50ほどの会社である。特にから委託された独居齢者向けの配事業では、現払いを希望する利用者もく、ドライバーが回収した代を会社の庫へ入れる決まりになっていた。
「もう警察に相談した方がいいんじゃないですか」
そう言ったのは、27歳の若ドライバー・岸本翔太だった。
広告
「3回目ですからね。誰かが図にやっているのは違いないでしょう」
岸本の言葉に、事務所にいた者たちが互いの顔を見た。曜の午までは配送があるが、午から曜にかけて事務所は原則として無になる。
ただし、曜の夜だけは別だった。部の清掃会社から派遣された作業員が、やトイレ、休憩の清掃に入る。
その清掃員の名は佐々誠。52歳。
半から夜清掃を担当しているが、社員と親しく話すことはほとんどなかった。いつも黒い作業着を着て、黙々と仕事を終えると、必最限の挨拶だけを残して帰っていく。
「曜の夜に会社へいるのって、佐々さんだけですよね」
岸本が独り言のように呟いた。その瞬、事務所の空気が目に見えて変わった。
直は配表を机へ置いた。
「決めつけるな」
「決めつけてませんよ。でも、ほかに誰がいるんですか。裏の鍵を持っているのは清掃会社のでしょう?」
「庫の鍵も番号も持っていない。佐々さんが庫をけられる根拠はないだろ」
理恵も困ったように庫を振り返った。
「庫の番号をっているのは、社と瀬さんと私だけです」
「社内の誰かが教えた能性だってあるじゃないですか」
岸本の言い方には、すでに佐々が犯だと決めつけている響きがあった。
広告
直が反論しようとした、社の川康夫が事務所へ入ってきた。
61歳の川は、創業者である父親から会社を継いで20になる。事を聞くと、庫のでしばらく考え込み、やがてをいた。
「佐々さんには、今し話を聞こう」
「まだ佐々さんがやったと決まったわけではありません」
直が言うと、川は落ち着いた声で答えた。
「犯だと決めつけるつもりはない。ただ、週末に入りしているのは事実だろう。疑われている本のためにも、度確認しておいた方がいい」
理屈としては違っていなかった。それでも直の胸には、さな引っかかりが残った。
庫は事務所の最も奥にあり、清掃員が触る必はない。を掃除する際も、庫のを通る程度である。
それなのに、全員があまりにもく佐々の名へたどり着いた。
そのの午7、佐々がいつもの作業着姿で勤した。直は事を聞くため、あえて仕事を終えずに残っていた。
「お疲れさまです」
事務所にがいることへし驚いた様子を見せたものの、佐々の挨拶はいつもと変わらなかった。
「佐々さん、申し訳ありませんが、しおをいただけますか」
応接スペースには川、理恵、直が座った。佐々は3の向かいへ腰をろし、膝ので両を組んだ。
川が事を説すると、佐々は最初、自分が何を疑われているのか理解できないような顔をした。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 33 -
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 0 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 20 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 7 -
完結第18話
「片親の貧乏人」と息子を叩いた社長、母の正体を知って絶句
結婚の挨拶から帰宅した息子・祥太の頬には、くっきりと平手打ちの跡が残っていた。婚約者の父親から「片親の貧乏人」と罵られ、結婚まで白紙にされたという。二十五年間、女手一つで息子を育ててきた桃江は、静かに電話をかけた。実は彼女は、父の急逝を受けて大企業の社長に就任したばかり。しかも相手の食品会社は、長年その企業との取引に支えられていた。桃江の正体を知り、突然態度を変える婚約者一家。しかし、亡き父が残した調査記録には、結婚騒動をはるかに超える重大な秘密が隠されていた。因果応報|親子関係|修羅場2.6万字5 21 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 14 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 28 -
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 27 -
完結第21話
赤ペンで消した夫
四十一歳の黒沢洋子は、出版社で腕を認められるベテラン校正者。編集長として出世した夫・和也を支え、七年間、穏やかな結婚生活を送ってきた。ところがある夜、夫から頼まれた若い女性作家の原稿に、見覚えのある文章を発見する。それは、かつて夫が洋子だけに囁いた愛の言葉だった。疑念を抱いた洋子が調べ始めると、原稿の裏には夫の不倫だけでは済まない重大な秘密が隠されていた。やがて和也は、女性作家との十日間の執筆合宿へ出発する。何も知らず帰宅を楽しみにする夫に、洋子は静かに最後の準備を進めていた。夫婦|真実|修羅場|不倫2.3万字5 116