"12年前も、彼が犯人だった" 第6話
私がもっと注していれば、防げた事故でした」
当40歳だった佐々には妻と学の娘がいた。宅ローンも残っており、簡単に仕事を失える状況ではなかった。
事故の、佐々は朝6から配送をしていた。本来は午4頃に戻る予定だったが、別のドライバーが急に休み、宮本から追加ルートを頼まれた。
「断ればよかったんです。でも、あの頃は断れる雰囲気ではありませんでした」
当のフーズは現より労務管理が緩く、急な欠勤がれば、ほかの社員が休憩を削って埋めることが当たりだった。
夕方になり、集力の落ちた佐々は、を渡ろうとした齢女性へ気づくのが遅れた。
事故、会社は過労働の事実が表にることを恐れた。の配事業や保険、取引先からの信用に響する能性があったからだ。
「宮本さんから、類をき直してほしいと言われました」
会社から無理な追加配送を命じられたのではなく、自分から仕事を引き受けた。休憩も取れる状況だった。それでも事故を起こしたのは、自分の注だった。
その形で署名すれば、被害女性へ分な見を支払い、退職もし乗せすると言われた。
「受け入れたんですか?」
「受け入れました。だから私も悪いんです」
佐々は、自分だけが被害者だったとは言わなかった。
広告
事故を起こした責任と、を受け取って沈黙した責任の両方を背負っていた。
退職は別の配送会社へ入ったが、事故歴と期での転職がかせとなり、く続かなかった。庭でも妻との衝突が増え、数に婚した。
娘とは今も疎になっているという。
「では、なぜ清掃員としてフーズへ戻ってきたんですか?」
「本当に偶然です。清掃会社から現の所を渡され、初めてフーズだとりました」
度は断ろうとった。しかし12も経っているうえ、当の社員もほとんど入れ替わっていたため、そのまま引き受けた。
そして配利用者の覧を偶然見た、ある名に気づいた。
「事故の相は森川キヨさんです」
直は息を止めた。
現84歳で、毎週曜に1万円を現で支払っている、あの森川キヨだった。
佐々は清掃員としてフーズへ戻った、勤務に度だけ森川宅を訪ねていた。
謝れなかったことを、もう度自分の言葉で伝えたかったという。
森川は最初、佐々の顔を覚えていなかった。しかし事故の話をされると、しずついした。
「られましたか?」
直が尋ねると、佐々はかすかに笑った。
「逆でした」
森川は佐々の顔を見て、こう言ったという。
《あんたも、ずっと気にしていたの》
《私の腕はもう治っているよ》
広告
責める言葉はなかった。その優しさがかえってつらく、佐々は玄関先で涙を流した。
「森川さんと宮本部のに、何か関係があることをっていますか?」
「宮本さんは事故、毎度くらい様子を見にっていたはずです。ただ、詳しいことまではりません」
翌、直は再び森川宅を訪ねた。今度は配代ではなく、12の事故について話を聞くためだった。
森川は古い話を掘り返すことを面倒がったが、直が会社の銭紛失について説すると、居へ通してくれた。
事故、会社は治療費と見を支払い、佐々も何度か謝罪へ来た。その、佐々が姿を見せなくなると、代わりに宮本がに度、果物や菓子を持って訪ねるようになった。
「最も宮本部は来ていますか?」
「最はに度くらい来るね」
「何のために?」
森川はし議そうな顔をした。
「おを受け取るためだよ」
直はが分からなかった。
森川は引きしから、さな封筒を取りした。には数万円の現と、《フーズ 返分》とかれたメモが入っている。
12、森川は正式な治療費や見とは別に、「特別補償」として30万円を受け取っていた。領収ももなく、宮本が現で直接持ってきたという。
森川はい、会社からの補償だとっていた。しかし数、の活相談員と話した際、会社の正式な支ではない能性に気づいた。
宮本へ確認すると、彼は最初、何も答えようとしなかった。
広告
おすすめ作品
-
完結第20話
四十九日の絶縁
夫を突然亡くした三十七歳の裕子。悲しみに暮れる間もなく迎えた四十九日法要の日、帰宅した彼女を待っていたのは、ゴミ捨て場に放り出された自分の荷物だった。「息子が死んだら嫁は赤の他人よ!」そう言い放つ姑は、さらに幼い二人の子供まで裕子から引き離そうとする。だが、姑が三歳の息子だけを異常に可愛がる裏には、恐ろしい計画が隠されていた。子供たちを守るため、裕子は静かに反撃の準備を始める。そして数か月後、助けを求めて電話してきた姑に、裕子が告げた言葉とは――。人生逆転|裡切られた|嫁姑|夫婦|相続|裡の顔|介護2.3万字5 33 -
完結第13話
俺を睨む「氷の女」が、双子の前で笑った日
妹を事故で亡くし、遺された六歳の双子を男手一つで育てる伊吹公平。仕事と育児に追われる毎日の中、彼が最も苦手としていたのは、職場で「氷の女」と恐れられる経理主任・桐谷エリカだった。ところがある日、保育園へ迎えに行った公平は、娘たちに囲まれて優しく微笑むエリカの姿を目撃する。しかも、誰にも甘えようとしなかった内気な妹・りこが、彼女の服を握って離さない。冷たい視線の裏に隠されていた意外な素顔。そして、少しずつ変わり始める三人の暮らし。孤独を抱えた大人たちと、小さな双子が紡ぐ、温かな家族の物語。人生逆転|兄弟姉妹|裡の顔|親子関係|金銭問題1.9万字5 0 -
完結第20話
「息子が高熱なのに来い!」夫一家に185万円の請求書を押しつけられた私の正体
夫と義家族から「何もできない専業主婦」と見下され、金銭まで搾り取られてきた松岡美央。しかし彼女には、世界的なホテルグループの最高責任者という、誰にも明かしていない秘密があった。ある夜、高熱を出した息子を看病していると、義母から三十件以上の着信が届く。「緊急事態だから今すぐ来なさい!」慌ててホテルへ駆けつけた美央を待っていたのは、豪華な食事を楽しむ夫一家と、185万円もの請求書だった。裡切られた|怒り|嫁姑|夫婦|親子関係|修羅場2.6万字5 20 -
完結第10話
元夫に投げつけられたカード、残高は一億五千万円
「もう二度と、俺の前に現れるな」離婚の日、夫の大地に冷たく突き放され、ひな子は六歳の息子とともに家を追い出された。渡されたのは、養育費を振り込むという一枚のキャッシュカードだけ。ひな子はそれを封印し、工場で働きながら必死に息子を育ててきた。三年後、口座を解約するため銀行を訪れると、なぜか支店長自らが現れ、特別応接室へ案内される。通帳に記されていた残高は、なんと一億五千万円。さらに差し出されたのは、元夫の筆跡で「ひな子へ」と書かれた一通の封筒だった。あの日の冷酷な離婚には、誰も知らない秘密が隠されていた――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題|熟年離婚1.6万字5 7 -
完結第18話
「片親の貧乏人」と息子を叩いた社長、母の正体を知って絶句
結婚の挨拶から帰宅した息子・祥太の頬には、くっきりと平手打ちの跡が残っていた。婚約者の父親から「片親の貧乏人」と罵られ、結婚まで白紙にされたという。二十五年間、女手一つで息子を育ててきた桃江は、静かに電話をかけた。実は彼女は、父の急逝を受けて大企業の社長に就任したばかり。しかも相手の食品会社は、長年その企業との取引に支えられていた。桃江の正体を知り、突然態度を変える婚約者一家。しかし、亡き父が残した調査記録には、結婚騒動をはるかに超える重大な秘密が隠されていた。因果応報|親子関係|修羅場2.6万字5 21 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 14 -
完結第18話
離婚翌日、父と食事中の私を「また金持ちに寄生か」と笑った元夫の末路
結婚生活のすべてを一円単位で折半しながら、家事だけは妻に押しつけていた夫・亮介。「お前は寄生虫だ」と離婚を突きつけられた綾乃は、静かに別れを受け入れた。 その翌日、実父と高級ホテルで食事をしていると、偶然現れた亮介と不倫相手が「もう次の金持ちを捕まえたのか」と嘲笑する。因果応報|夫婦|真実|金銭問題|修羅場|不倫1.9万字5 28 -
完結第23話
昭和53年、満員の始発を止めた運転手――その後、坂道で起きた悲劇
昭和53年7月30日。沖縄の交通が右側通行から左側通行へ切り替わった朝、55歳のバス運転手・新垣清徳は、32人の乗客を前に始発の発車を拒んだ。用意された旧型バスは、乗降口が車道側に開く危険な車両だったのだ。しかし欠便を恐れる主任は、若い運転手にその車を出すよう命じてしまう。やがて坂下から届いたのは、一人の少年が負傷したという知らせ。なぜ危険だと分かっていたバスが走ったのか。清徳は息子や同僚たちとともに、事故の責任と、誰も気づかなかった道路の危険に向き合っていく。職場逆転|時代|歴史|昭和|裡の顔3.0万字5 27 -
完結第21話
赤ペンで消した夫
四十一歳の黒沢洋子は、出版社で腕を認められるベテラン校正者。編集長として出世した夫・和也を支え、七年間、穏やかな結婚生活を送ってきた。ところがある夜、夫から頼まれた若い女性作家の原稿に、見覚えのある文章を発見する。それは、かつて夫が洋子だけに囁いた愛の言葉だった。疑念を抱いた洋子が調べ始めると、原稿の裏には夫の不倫だけでは済まない重大な秘密が隠されていた。やがて和也は、女性作家との十日間の執筆合宿へ出発する。何も知らず帰宅を楽しみにする夫に、洋子は静かに最後の準備を進めていた。夫婦|真実|修羅場|不倫2.3万字5 116