"消えた妻と13本のテープ" 第3話
最初の数か、町の々は千鶴についてさまざまな噂をした。
昔の恋と逃げた。
都会へ働きにた。
姑や夫との暮らしに耐えられなくなった。
には、娘を置いていくなんてひどい母親だとにする者もいた。
栞は、何を信じればいいのか分からなかった。ただ、母親が自分へ何も言わずにいなくなるとはえなかった。
千鶴はをる、栞のをなでて「そんなに遅くならない」と言った。帰らないつもりのの声には聞こえなかった。
母親の写真を写真てへ入れ、自分の机のに置いたことがある。入学式の、の指輪をはめた千鶴が、ので栞の肩へを置いている写真だった。
数、その写真ては机から消えた。
栞が探すと、箪笥の引きしの奥へ伏せて入れられていた。
「どうして隠したの?」
武夫へ尋ねても、父親は聞を読んだまま答えなかった。
「お母さんの写真、置いちゃ駄目なの?」
「見たくない」
「どうして?」
「俺たちを捨てただからだ」
その言葉に、栞は何も言えなくなった。
母親がいなくなって4の2001、武夫は再婚した。相は町で美容を営む40歳の女性だった。
しい妻は栞へ優しく接しようとしたが、栞は母親の代わりとして受け入れることができなかった。をるまで、必以の会話をしなかった。
武夫は再婚も物を続けた。
広告
町では、妻に逃げられながら娘を育てた苦労として同されていた。
2005、期方者の報を理するため、警察から武夫へ現状確認の連絡があった。
「妻から連絡はありません。今も方は分かりません」
武夫は淡々と答えた。記録が更されただけで、本格な再捜査にはつながらなかった。
千鶴に似た女性を見たという報は、何度か寄せられていた。港町、県の旅館、都部の駅。しかし、どれも別だった。
報がれるたび、捜査のはめていった。
やがて10以のが流れ、千鶴の失踪は町の古い噂になった。
しかし、そのも決して彼女を忘れなかった男がいた。
千鶴の実から国をへ15分ほどった、さな集落。そこに、川井茂雄という元学教師が1で暮らしていた。
川井は30く教壇にち、千鶴が学4と6のに担任を務めていた。1997にはすでに退職し、63歳になっていた。
千鶴の庭は、彼女が幼い頃から複雑だった。父親は酒をむと暴れ、母親はを空けることがかった。
川井は内向な千鶴を気にかけ、卒業も相談に乗っていた。
千鶴が結婚するまで、2はのやり取りを続けていたという。
1997104以、川井はが変わったように暗くなった。元同僚が声をかけても集まりへ参加せず、夕方になると自宅の裏にあるを歩いた。
広告
そのの麓には、農業用のため池があった。
川井は元ラジオ局の夜番組を好んで聞いていた。そして毎104になると、番組へ1通のリクエストはがきを送った。
希望する曲は、いつも同じだった。
戻ってきてほしいとう、1970代の古い謡曲。
送り主の名は毎違っていた。あるは若い女性、別のは男性。しかし文字の癖は、すべて同じだった。
はがきにかれた所は、13通すべて実しなかった。
2009104、13通目のはがきがラジオ局へ届いた。
そして翌2、川井茂雄は自宅で孤独にくなった。
遺品を理した役職員は、押し入れの奥から13本のカセットテープを見つけた。ケースにはボールペンで、1997から2009までのがかれていた。
役の担当者は、古いラジオ番組の録音だろうと考えた。テープはほかの遺品とともに箱へ詰められ、役の保管庫へ運ばれた。
誰もらなかった。
その13本のに、千鶴が消えた夜をる男の告が、しずつ録音されていたことを。
2010、元ラジオ局は建物の移転を控えていた。
資料の理を任されたのは、勤続12の放送作・佐々由佳だった。棚には過の番組台本、リクエストはがき、古い録音テープが量に残されていた。
由佳は、紐で束ねられた13枚のはがきを見つけた。
束のには、任者がいたらしいメモが貼られていた。
《毎104・同じ跡》
送り主の名はすべて違っていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第11話
病院へ行かない黒い車
「健一が事故に遭ったの。危篤よ。すぐ病院へ向かいなさい!」 義母からの電話を受けた由美子は、夫の安否を案じ、家の前に用意されていた黒いハイヤーへ飛び乗った。 しかし車は、病院とはまったく違う方向へ走り出す。やがて連れて行かれたのは、電波も届かない山奥の古びた宿だった。 問い詰める由美子に、運転手は申し訳なさそうに告げる。 「すみません……指示どおりです」 夫の事故、義母の悲鳴、そして病院へ向かうはずだった車。すべては、由美子を家から遠ざけるために仕組まれた罠だった。 その裏で、夫と義母は何を終わらせようとしていたのか。 25年間、黙って耐えてきた妻が、たった一言から家族の嘘を暴き始める――。因果応報|夫婦|真相1.7万字5 191 -
完結第13話
離婚後に生まれた息子
10年間の不妊治療の末、「子供もできなかった」と姑に責められ、夫・健一から離婚を告げられた38歳の由美。ところが離婚から2週間後、最後に受けた治療が実っていたことが判明する。由美は悩んだ末、元夫には知らせず、実家で1人の男の子を出産した。それから1か月。離婚から10か月後のある日、玄関に現れたのは健一と、彼が再婚する28歳の美香だった。「来月、結婚式をするんだ」と招待状を差し出そうとした健一。しかし、由美の腕に抱かれた赤ん坊を見た瞬間、その笑顔が消える。「その子……まさか俺の?」。10年間「子供を産めない妻」と責められ続けた由美の人生が、そこから大きく動き始める。夫婦|真相|修羅場2.0万字5 4198 -
完結第10話
清掃員が書いた設計図
倒産寸前の小さな町工場に、1人の若い清掃員がいた。 佐藤ゆい、21歳。学歴は中卒。従業員たちからは名前で呼ばれることもなく、ただ雑用係として扱われていた。 そんなある日、大企業から依頼された精密部品がすべて不良品となり、工場は2000万円の違約金を突きつけられる。誰もが技術不足だと責められ、工場長の竹夫も廃業を覚悟しかけていた。 その時、ずっと黙っていたゆいが静かに口を開く。 「設計が間違っています」 中卒の清掃員が、大企業の研究所の図面に誤りがあると言い出した――。 誰も信じなかったその言葉が、やがて町工場の運命を大きく変えていく。履歴書には書けなかった彼女の本当の力とは。人生逆転|真相1.4万字5 345 -
完結第12話
ただいまの裏にあった10年
1985年8月15日、新潟県長岡市で、23歳の佐藤健一はいつものように工場を出たまま姿を消した。 自転車も、持ち物も、行き先も分からない。両親の誠とかず子は必死に息子を捜し続けたが、手掛かりは何ひとつ見つからなかった。 それから2年後、痩せ細った1人の男が佐藤家の玄関に立つ。 「ただいま」 失われた息子が帰ってきた――そう信じた両親は、彼を再び家族として迎え入れる。記憶を失っていても、生きて戻ってくれたならそれでいい。そう思いながら、佐藤家は少しずつ穏やかな日々を取り戻していった。 しかし10年後、差出人不明の小包が届く。 中に入っていたのは、小さな遺骨と、父が本物の健一に贈ったはずの腕時計。そして一枚の紙には、こう書かれていた。 「本物の息子さんをお返しします」 8年間、家族として暮らしてきた男は誰だったのか。 そして本物の健一は、あの日どこで何を奪われたのか。 失踪、偽りの帰還、そして名前を越えて残った家族の形を描く物語。ミステリー|行方不明1.7万字5 276 -
完結第11話
消えた神童、10年後の手紙
2001年秋、北陸の小さな町で、サッカーの才能を持つ10歳の少年・立花陸が、父・剛とともに突然姿を消した。 数日後、海辺の岸壁で見つかった白いバン。車内には父の作業服と、陸のスパイクが片方だけ残されていた。やがて町では、「父が息子を連れて海へ入ったのではないか」という噂が広がり、母のゆみ子は長い孤独と偏見の中で10年を過ごすことになる。 しかし、失踪から10年後。 ゆみ子のもとへ、ドイツから一通の手紙が届く。 そこに書かれていたのは、信じられない一文だった。 「私の名前は陸です。ドイツで暮らしています」 海に消えたはずの息子は、なぜ異国で生きていたのか。車に残された片方のスパイクは、本当に陸のものだったのか。そして、父・剛が最後に守ろうとしたものとは何だったのか。 10年前に見落とされた小さな違和感が、封じられていた事件の真相を少しずつ暴き出していく――。ミステリー|真相1.7万字5 5 -
完結第10話
消えた嫁と浅すぎる墓
1993年正月、青森の山あいの村で、武田家の嫁・すみ子が墓参りの後に姿を消した。 夫は「家出した」と届け出たが、財布も行き先もはっきりせず、すみ子の消息はそのまま途絶えた。嫁姑の不仲、夫の無関心、そして雪深い村に残された小さな違和感――しかし当時、誰もそれを深く追おうとはしなかった。 それから7年後。 道路拡張工事で古い共同墓地を移すことになり、すでに亡くなっていた姑・松子の墓が掘り返される。ところが、棺のさらに下から見つかったのは、そこにあるはずのないもう一人の骨だった。 花柄の着物、頭に残された不自然な傷、そして7年前に「墓を深く掘らないで」と叫んだ娘の記憶。 正月の雪山で、武田家の女たちに何が起きたのか。 家族という名の密室に封じられていた真実が、7年越しに土の中から姿を現す――。ミステリー|真相1.5万字5 130 -
完結第8話
サービスエリアで消えた三人
大型サービスエリアで、36歳の母親と9歳の息子、6歳の娘が突然姿を消した。残された夫・修一はテレビに出演し続け、「妻と子供たちを見かけた人は連絡してください」と14年間訴え続けた。世間は彼を、家族の帰りを信じて待つ父親として記憶していた。ところが事件から14年後、100キロ近く離れた古い貸倉庫の床下から黒い旅行鞄が発見される。中に入っていたのは、失踪した妻の財布と、息子が旅行当日に履いていた片方のスニーカー。そして、その倉庫の過去を調べると、夫がかつて関係を持っていた女性の名前が浮かび上がる。14年間誰も疑わなかった「3人はサービスエリアで消えた」という前提が、そこから静かに崩れ始める。ミステリー|真相|遺體発見|行方不明1.1万字5 200