"消えた神童、10年後の手紙" 第3話
は自分で運転してきたように見える。
財布も免許証も残されている。
そして何より、内には陸のスパイクがある。
父親が息子を連れてへ入った。
そう考えるのが最も自然だとされた。
しかしには、2つだけ腑に落ちない点があった。
1つはスパイクだった。
なぜ片方だけなのか。
履いていたのなら、両方ともなくなるはずだった。
で脱いだなら、両方ともに残る方が自然だ。
助席の元へ片方だけ置かれている状態を、はどうしてもので再現できなかった。
先輩刑事は言った。
「子供が嫌がって暴れたんやろ。片方脱げたんや」
は頷いた。
だが、内に暴れた形跡はなかった。
部座席には洗濯したばかりの毛布が、きちんと畳んで置かれていた。
が気にしていたもう1つの点は、とは正反対の所にあった。
10旬、聞き込みのため町の側を回っていただった。
稲刈りを終えた田んぼの脇で、72歳の松尾という農の老に会った。
老はを束ねながら、何気ない調で話した。
「13の晩やったかな。の造成にかりが見えたわ」
はを止めた。
「かり?」
「懐灯やろな。いとった」
「何頃です?」
「11頃やったとう。しばらくしてが1台ていった」
「どんなでした?」
老はしばらく考えた。
「暗くては分からん。ただ普通の乗用より、もっと箱みたいなやつやった」
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は、その証言を報告へいた。
の造成は、町ののれにある。
バブルの頃に宅発する予定でを削ったものの、計画が断され、そのまま放置されていただった。
問題は方向だった。
沿いの岸壁とは、全く逆だった。
会議で司は報告のその部分を指で押さえた。
「方向が逆や。寄りの見違いやろ」
確かにそう考えることもできた。
刻も「11頃」というだけで正確ではない。
付も老自が「13だったとう」と話している程度だった。
捜査では、筋きにう証言はくなり、わない証言は次第に軽くなる。
松尾老の話は報告のろへ回され、そのまま棚のへ埋もれた。
翌、平成14の。
捜査本部は事実解散した。
事件性を完全に否定するわけではない。
だが、これ以捜査をめる材料がなかった。
類、剛と陸は方のままだった。
はそのの暮れ、県本部へ異になった。
異の、彼は1でいバンが発見された岸壁へった。
のは黒く、くにい波の線だけが見えた。
はそこでをわせた。
剛と陸へ向けたものなのか。
自分たちが見落としている何かへ向けたものなのか。
本にも分からなかった。
残されたゆみ子の10は、そこから始まった。
最初に変わったのは話だった。
夜、呼びし音が鳴る。
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受話器を取る。
誰も何も言わない。
微かな呼吸だけが聞こえ、数秒に切れる。
そんなことが何度もあった。
ゆみ子は次第に話へなくなり、やがて線を抜いた。
次にの壁が変わった。
朝起きてへると、い文字がかれていた。
ゆみ子は洗剤とたわしを持ちし、1以かけて落とした。
所のはてこなかった。
カーテンの向こうから見ていた者もいたかもしれない。
だが誰も声をかけなかった。
スーパーへくと、通で会話が止まった。
以なら笑顔で声をかけてきたが、さく会釈だけして通り過ぎる。
ゆみ子には、その会釈が番つらかった。
学では、陸の机がしばらく残された。
になると担任が「みんなの気持ちの理のために」と説して片づけた。
靴箱の名札だけは、卒業するはずだったまで残された。
団の子供たちも、次第に陸の名をさなくなった。
ただ、気の野だけは々ゆみ子を呼び止めた。
「陸はええ選やった。それは何があっても変わらんよ」
ゆみ子はそのたびにをげ、でそのをれた。
泣きそうになるところをに見られたくなかった。
平成15の。
ゆみ子は桂町のをた。
隣町の県営宅へ移ることにした。
2だけのさな部だった。
荷物の半を処分したが、陸の机と青い自転だけは持っていった。
引っ越しを伝ったのは浦誠だった。
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