"消えた神童、10年後の手紙" 第4話
軽トラックで荷物を運び、陸の机を1で4階まで担ぎげた。
途、踊りで2度休んだ。
汗を拭きながらも、ゆみ子の顔をまともに見ようとしなかった。
帰り際、浦はく言った。
「何かあったら、言うてください」
ゆみ子は礼を言った。
浦はそれだけで帰っていった。
しい町で、ゆみ子は「」という姓を変えなかった。
弁当の夜勤に入った。
午9から翌朝5まで。
仕切りのへ卵焼きを並べ、煮物を詰め、蓋を閉める。同じ作を繰り返す仕事だった。
夜勤を選んだのは、と話すがなくて済んだからだった。
部の1は、陸の部のままにした。
机のには、最にした会の記録用が置かれていた。
押し入れには団のユニフォームが洗って畳んである。
カレンダーは平成1310からかなかった。
毎13。
ゆみ子はカレーを作った。
陸が好きだった、じゃがいもをきめに切るカレーだった。
2分よそい、片方には箸をつけずに置いた。
翌朝、それを流しへ捨てる。
それが毎1度の習慣になった。
そしてに2度ほど、郵便受けに奇妙な封筒が入るようになった。
宛名も差もないい封筒。
には3万円。
しい1万円札が3枚入っていた。
ゆみ子は1度も使わなかった。
菓子箱の底へ入れ、そのまましまい続けた。
誰が入れているのか。
考えないようにした。
広告
同なら、いらなかった。
平成17。
平成20。
平成22。
だけが過ぎていった。
そして失踪から10目の。
ゆみ子のところへ、とは全く別の国からが届いた。
平成23414、曜。
午2をし過ぎた頃だった。
夜勤けの浅い眠りから起きたゆみ子は、県営宅の4階から階段をりた。
47歳になっていた。
郵便受けのに、普段とは違う封筒があった。
青と赤の縁取りがある航空便だった。
表には見慣れない文字が並び、そのにたどたどしい本語で所がかれていた。
桂町の古い所。
ゆみ子様。
10までんでいたの所だった。
転送期限など、とっくに切れている。
それでも届いたのは、桂町の郵便局に昔の事件を覚えている職員がいたからだった。
宛先のはもう使われていない。
だが「ゆみ子」という名に見覚えがある。
職員は役へ問いわせ、現の所を調べてもらった。
そのため封筒には何度も転送された印が残っていた。
ゆみ子は階段ので、しばらくそれを見ていた。
の階からりてきた子供が横をすり抜けてもかなかった。
部へ戻り、台所の子に座った。
封を切った。
に入っていたのは、便箋1枚と、さな写真の切れ端だった。
便箋の文字は器用だった。
1文字ずつきくかれ、線が震えている。所々にローマ字が混じっていた。
広告
本語を習い始めた国が、辞を引きながらいたような文章だった。
ゆみ子は読み始めた。
「私の名は陸です。ドイツで暮らしています」
そこでが止まった。
もう度最初から読んだ。
「私は本でまれました。さい、サッカーをしていました」
ゆみ子の呼吸が浅くなった。
続きには、こうかれていた。
「はは、きていますか。もしきていたら、謝りたいことがあります。私はずっとりませんでした。ごめんなさい」
ゆみ子はそのを3度読んだ。
3度目でもがに入らなかった。
それから写真の切れ端をに取った。
団の集写真だった。
ただし写真全体ではなく、側だけが鋏で切り取られている。
は褪せ、赤みが抜けていた。
のグラウンドに並ぶ子供たち。
列のから3目。
膝に両を置き、を文字に結んだ柄なが写っていた。
陸だった。
ゆみ子は写真を裏返した。
丸みのある字で、こうかれていた。
「陸 8歳」
自分の字だった。
平成11の、団の写真が来がった、アルバムへ貼りながら自分でいたものだった。
ゆみ子は子からちがろうとして、そのままへ座り込んだ。
写真を胸に押し当てた。
声はなかった。
肩だけがした。
そのの夕方、ゆみ子は隣町の交番へを持っていった。
対応したのは20代の若い巡査だった。
10の事件をらなかった。
ゆみ子から通り事を聞くと、を何度も確認し、へ報告すると約束した。
広告
おすすめ作品
-
完結第21話
車いすの恋人に請求された三万三千円の「迷惑料」
交通事故で車いす生活となった恋人・明菜と、もう一度穏やかな日常を取り戻そうとしていた聡。明菜の誕生日、二人は思い出のフレンチレストランを訪れる。しかし待っていたのは、食事時間の一方的な短縮と、三万三千円もの「迷惑料」だった。因果応報|人生逆転|真相|修羅場2.8万字5 760 -
完結第23話
白線の先の女たち
昭和三十九年、女子競輪が終わりを迎えようとしていた。三十四歳の佐伯久美子は、最後の地元決勝で優勝する。しかし彼女が真っ先に求めたのは、花束でも拍手でもなく、次の出走表だった。返ってきたのは、もう走る場所はないという答え。そんな久美子の前で、十九歳の新人・夏子は「私は来年も勝ちたい」と訴える。仕事、家族、怪我、そして失われた競走の舞台。走ることを諦められない女たちは、それぞれの暮らしを背負いながら、新しい一歩を探し始める。時代|歴史|昭和|ミステリー3.0万字5 109 -
完結第15話
姉の身代わりで嫁いだら、冷酷当主の本命でした
家族に冷遇され、姉の身代わりとして“冷酷な当主”のもとへ嫁がされた澄乃。しかし初対面で、偽りの花嫁だと見抜かれてしまう。 追い返される覚悟をした澄乃に、静は「お前で構わない」と告げる。さらに帳簿を読む彼女の才能と、恐れながらも嘘をつかなかった誠実さを認めていく。歴史|昭和|ミステリー|夫婦|第二の人生2.0万字5 543 -
完結第10話
泥の作業着と誇り
高校卒業から十七年ぶりの同窓会。咲は、夫が農家だと話した途端、華やかな暮らしを自慢する同級生のレナから大勢の前で笑いものにされてしまう。「泥だらけの旦那なんて恥ずかしくないの?」心ない言葉に傷つきながらも、咲は「世界一自慢の夫よ」と言い返した。やがて、仕事帰りの夫・大地が泥のついた作業着で迎えに現れると、再び嘲笑が巻き起こる。しかし次の瞬間、幹事の西村が顔色を変え、夫に向かって深々と頭を下げた。誰も知らなかった大地の本当の姿が、少しずつ明らかになっていく。人生逆転|夫婦|真相|第二の人生|修羅場1.7万字5 14 -
完結第20話
昭和19年、三十二人が夕飯を拒んだ理由
昭和十九年、信州の寺に集団疎開した子どもたちが、ある晩、いっせいに箸を置いた。「一人だけ、まだ食べていません」。病に伏せる少女・妙子の食事を案じた十二歳の正雄は、食卓に並ぶ膳の数に奇妙な違和感を覚える。やがて納屋の柱に刻まれた米俵の数、届かない食糧、教師の印が押された受領書が浮かび上がる。さらに役場の名簿には、寺で暮らす八人の子どもが翌月から消されることになっていた。誰が、何のために食糧と子どもたちの名前を動かしているのか。時代|歴史|昭和|真実|真相2.8万字5 113 -
完結第10話
亡霊の専属運転手
かつて海外の特殊部隊で「ファントム」と恐れられた神代美央は、戦場を離れ、平穏な人生を求めて大企業の会長専属運転手に応募した。しかし最終面接で待っていたのは、「女に会長を守れるわけがない」と嘲笑する副社長と、十一人の屈強な男たち。美央だけが、彼らのスーツの下に隠された拳銃に気づいていた。やがて現れた鷹司会長は、美央の履歴書を見た途端、激しく震え始める。職場逆転|真実|真相|第二の人生1.5万字5 173 -
完結第13話
濁流の中のSOS
夫と十三歳の娘・凛と買い物へ出かけた私。ところが夫は突然、増水した川へ車を走らせ、帰ろうとした私たちを激流へ突き落とした。必死にもがく私の手をつかみ、「お母さん、もがかないで!」と叫んだ凛。その言葉に従い、二人は奇跡的に生き延びる。だが、夫は救助もせず姿を消していた。裡切られた|夫婦|裡の顔|真相|親子関係1.9万字5 166 -
完結第16話
四万円を断った朝
同僚に裏切られ、二千万円近い借金を背負った大橋拓人。再就職の面接へ向かう朝、雨の道路でパンクした車を見つけ、遅刻を覚悟でタイヤを交換する。女性から差し出された四万円を断り、代わりに面接先まで乗せてもらった拓人。しかし会社に到着すると、受付の社員たちが彼女に深々と頭を下げた。職場逆転|人生逆転|真相|修羅場2.5万字5 1009 -
完結第10話
出張先で娘が「物置で寝てる」と泣いた夜
札幌へ出張中の宮崎亮平に、深夜十一時、八歳の娘・美和から一本の電話がかかってきた。 「パパ、ママと物置で寝かされてるの。寒いよ……」 半年前から同居を始めた母の貴子は、妻の早苗と娘を冷遇していた。しかし亮平は、妻の訴えを「母さんに悪気はない」と聞き流し続けていた。 翌朝、急いで帰宅した亮平が見つけたのは、外から扉を固定された物置で震える妻と娘。そして早苗が隠し持っていた一枚の契約書だった。 そこには、妻の不動産持分を妹へ無償譲渡するという信じがたい内容が記されていた。 家族を守るはずの家で、母と妹はいったい何を企んでいたのか――。祖父母と孫|真実|裡の顔|真相|親子関係1.5万字5 1473 -
完結第20話
妻の事故と、五歳の娘が見抜いた嘘
事故で下半身不随になった妻を前に、夫・大介は「僕が君の足になる」と誓う。ところが五歳の娘・春だけは冷たく「帰る」と言い、父に病室の毛布の下を見るよう促した。 そこに隠れていたのは、事故当時に妻と一緒にいた浮気相手。家族を置いて密会していた妻は、事故の賠償や介護まで夫に押しつけようとする。 幼い娘の一言で裏切りを知った父が、離婚と親権確保を決断し、娘と二人で新しい生活を始める物語。夫婦|真実|真相|親子関係2.0万字5 1840