"果樹園の奥の家" 第5話
「父の顧問弁護士が保管していたものよ。あなたの物ではないわ」
健太郎のこめかみがいた。私が会社座を調べたと察したのだろう。彼は歩づき、周囲に聞こえない声で言った。
「夫婦のをどう使おうが犯罪じゃない。騒げば、おが経営を妨害したことにして会社から追いす」
私は反論せず、その言葉まで携帯に拾わせた。
初枝は茶い封筒から類をし、座卓へ並べた。婚届、退同、そして自宅の鍵を3以内にけ渡すという誓約だった。慰謝料の欄は空で、代わりに「今、および梨果へ切の請求をしない」と記されている。
「美代子さんたちは、来にはこのへ移すから」と初枝は続けた。「孫は庭のあるで育てるべきだし、奈緒も2階を仕事部に使いたいと言っている。あなたの荷物は軽トラック1台でりるでしょう」
奈緒は止めるどころか、向きの部がいいとにした。族会議は私のいないところですでに終わり、引っ越しの程まで決められていたのだ。
「印を押して、今週にていきなさい。京都のこのは広すぎるし、子どものいる美代子さんたちがむほうが効に使える」
「このは、父から私が相続したです」
「結婚したら夫婦の物でしょう。健太郎が果園をきくしたから、このの価値だって守られたんだよ」
広告
初枝の理屈に奈緒までうなずき、蔵庫や具は置いていけと付け加えた。私が3選び、入れしてきた活が、すでに彼らの分配表へ載っている。そのかましさにりは湧いたが、議とは震えなかった。
私は婚届だけをに取り、署名欄を確認した。健太郎の字は本物だ。提する価値のある類は、これだけだった。
健太郎は、私が傷ついて婚を拒むとっていたのだろう。だが署名を確かめる私を見て、かえって落ち着きを失った。差ししたが、自分を自由にするものではなく、私が彼を切りす具になるとは考えていない。
「最に確認します。健太郎さんは、梨果もこのも、自分の資産だとお義母さんに説しているんですね」
「当然だろ。会社では俺が社だ」
健太郎が吐き捨てると、初枝は勝ち誇ったように座卓を指で叩いた。
「このも果園も、全部うちの健太郎のものだよ」
第6話 所者欄の名
「では、所者欄の名を緒に確認しましょう」
私がそう告げた直、玄関の呼び鈴が鳴った。扉の向こうにっていたのは、先と司法士の女性だった。初枝は骨に眉をひそめたが、私は2を居へ通し、座卓のの婚届を端へ寄せた。
先が最初に広げたのは、自宅と果園の建物に関する登記事項証だった。
広告
京都の町の所者は梨栞。野の果園22ヘクタール、選果、蔵倉庫も梨栞。いずれも父から相続した私の固財産で、健太郎の名は抵当権にも共者欄にもしない。
「そんな、どうにでも作れる」
初枝が声をげると、司法士は登記報提供サービスの画面をき、当取得した記録であることを示した。
「法務局に登録されている内容です。健太郎さんに所権はありません」
次に先が置いたのは、農業法「梨果」の株主名簿と定款だった。発済み株式の100%を保しているのは私であり、健太郎は経営を委任された代表取締役にすぎない。
法を作ったのは父が体調を崩す2だった。農の所と会社の運営を曖昧にしないため、株式の移には株主総会の承認をすると定款へ記し、私がを継げる形をえていた。健太郎を代表にしたあとも、株主名簿の原本は先の事務所で管理されている。偽の議事録を1枚作っただけで、100%の株式が移るはずはなかった。
「代表取締役なんだから、会社は俺のものだ」
「会社を代表する権限と、会社を所する権利は別です」
先の説に、健太郎は言葉を詰まらせた。それでも鞄から例の株式譲渡契約を取りし、私のへ突きつけた。
「栞は株を0円で俺に譲った。
署名も実印もある」
私はに触れず、署名欄だけを見た。昨夜見つけたPDFと同じ偽造類だ。
広告
おすすめ作品
-
完結第14話
デブでダサいと捨てられた妻
「家で鏡くらい見ろよ」「太ってるし、服もダサい」。長年連れ添った夫から外見を馬鹿にされ、最後には別の女性を選ばれた妻は、何も言い返さず離婚届に判を押した。夫は、自分に捨てられた妻がこれからも地味で冴えない人生を送ると思っていた。しかし1年後、同窓会の会場で偶然再会した元妻を見た瞬間、その余裕は消える。髪型も服装も、立ち居振る舞いも以前とはまるで違う。だが、本当に夫を青ざめさせたのは“痩せて綺麗になったこと”ではなかった。離婚後の1年間で、彼女が取り戻していたものを知った時、元夫は初めて、自分が何を捨てたのか思い知らされる夫婦|熟年離婚2.0万字5 0 -
完結第15話
3日だけ帰るはずだった妻
「お盆は3日だけ実家に帰るね」。そう告げた恵子に、夫は「せいせいする」、20歳の息子まで「そのまま帰ってこなくていい」と笑った。だが2人は知らなかった。恵子は半年かけて必要な荷物を実家へ移し、離婚届にもすでに署名していたことを。翌朝8時30分、28年間の結婚生活を終わらせた恵子は、そのまま実家へ向かう。一方、妻がいなくなった家には夫の愛人が大きなキャリーケースを持って現れ、3人で新生活を始めようとしていた。ところが翌朝、ガス、電気、水道が次々と止まり、さらにリフォーム会社から告げられた一言で夫の顔色が変わる。「この土地と建物の所有者は、佐藤恵子様です」――。夫婦|熟年離婚2.3万字5 0 -
完結第10話
「洗剤を入れた嫁」にされた私
45歳の私は、助産師として夜勤をこなしながら、夫と2人で静かに暮らしていた。 そんなある日、夫から義父の認知症を理由に、義両親との同居を頼まれる。家族のためならと受け入れた私だったが、同居が始まってから、義母の態度は少しずつ変わっていった。 夜勤明けに責められ、家事を押しつけられ、身に覚えのない悪口まで夫に吹き込まれる日々。それでも夫は、いつも義母の言葉だけを信じた。 やがて私は、義父の“認知症”にある違和感を覚える。 そしてある夜、義母はついに言い放った。 「食事に洗剤を入れたでしょう!」 その嘘を信じた夫は、私に「出ていけ」と告げる。 1か月後、私は離婚届を持って、もう一度あの家の玄関に立った。 その時、義家族が本当に恐れていたものが、ようやく明らかになる――。嫁姑|夫婦|裡の顔|真相1.5万字5 62 -
完結第23話
山に捨てられた妻は立ち上がる
建築会社の社長・鈴木佳奈は、工事現場から転落し、体を動かせないまま入院生活を送っていた。献身的に支える夫・健二は、周囲から理想の夫と称賛されている。だが夜になると、彼は佳奈の実印を持ち出し、署名を偽造し、愛人と会社や不動産を奪う計画を進めていた。さらに佳奈は、真夏の山中へ自分を置き去りにする相談まで耳にする。誰にも意思を伝えられないと思われていた彼女は、密かに回復しながら証拠を集め始める。夫婦22年の信頼を利用した計画の奥には、最初の転落事故へつながる秘密も隠されていた。因果応報|人生逆転|夫婦3.4万字5 261 -
完結第10話
仕送り10万円の行方
父が毎日お茶漬けばかり食べていると知り、美幸は胸がざわついた。 毎月10万円、父のために仕送りしているはずだった。けれど父は、不思議そうな顔でこう言う。 「仕送り? 俺は一円ももらってないぞ」 慌てて銀行へ確認しようとしたその瞬間、そばにいた夫・武志が青ざめ、ガタガタと震え出した。 消えていた毎月10万円。 父の口座ではない振込先。 そして、夫と姉が密かに会っていた理由。 ただの仕送りトラブルだと思っていた出来事は、やがて夫の失職、姉の借金、義母の裏切り、そして家族ぐるみの嘘へとつながっていく。 信じていた家族の本当の顔を知った時、美幸が選んだ答えとは――。夫婦|親不孝|孤獨|金銭問題1.5万字5 994 -
完結第13話
夫の赴任先にいた「妻」
夫の単身赴任先を訪ねた美玲を迎えたのは、見知らぬ若い女性だった。 「うちの主人のお友達ですか?」 その一言で、2年間信じてきた結婚生活は音を立てて崩れ始める。夫・隼人は、赴任先で別の女性と暮らし、彼女には「妻とはもう終わっている」と話していた。 しかし、美玲が知ることになる夫の秘密は、不倫だけではなかった。 義母の介護を理由に仕事を辞めさせられ、義実家で“嫁”として家事と介護を背負わされていた美玲。そんな中、義母の部屋に設置されていた見守りカメラが、夫の人生を揺るがす決定的な会話を記録していた。 妻として、嫁として、都合よく扱われ続けた美玲が、最後に取り戻したものとは――。夫婦|修羅場|不倫2.0万字5 659 -
完結第11話
病院へ行かない黒い車
「健一が事故に遭ったの。危篤よ。すぐ病院へ向かいなさい!」 義母からの電話を受けた由美子は、夫の安否を案じ、家の前に用意されていた黒いハイヤーへ飛び乗った。 しかし車は、病院とはまったく違う方向へ走り出す。やがて連れて行かれたのは、電波も届かない山奥の古びた宿だった。 問い詰める由美子に、運転手は申し訳なさそうに告げる。 「すみません……指示どおりです」 夫の事故、義母の悲鳴、そして病院へ向かうはずだった車。すべては、由美子を家から遠ざけるために仕組まれた罠だった。 その裏で、夫と義母は何を終わらせようとしていたのか。 25年間、黙って耐えてきた妻が、たった一言から家族の嘘を暴き始める――。因果応報|夫婦|真相1.7万字5 308 -
完結第7話
山奥に捨てられた下半身不随の妻妻は立ち上がる
建築会社の社長・鈴木佳奈は、工事現場から転落し、体を動かせないまま入院生活を送っていた。献身的に支える夫・健二は、周囲から理想の夫と称賛されている。だが夜になると、彼は佳奈の実印を持ち出し、署名を偽造し、愛人と会社や不動産を奪う計画を進めていた。さらに佳奈は、真夏の山中へ自分を置き去りにする相談まで耳にする。誰にも意思を伝えられないと思われていた彼女は、密かに回復しながら証拠を集め始める。夫婦22年の信頼を利用した計画の奥には、最初の転落事故へつながる秘密も隠されていた。人生逆転|夫婦1.1万字5 15 -
完結第10話
「無職の父」と呼ばれた6年間
「無職のあなたに、病気のある子どもを育てられると思う?」 妻・美咲からそう言われた佐伯公平は、言葉を失った。10歳の息子・悠人は、4歳の頃から1型糖尿病と向き合っている。血糖値の確認、食事管理、通院、学校との連絡――そのすべてを6年間支えてきたのは、公平だった。 しかし妻は、安定した収入を理由に息子を連れて出ていこうとしていた。さらに、悠人にはすでに新しい部屋や転校の話まで伝えられていた。 父親として過ごしてきた時間は、「無職」という一言で消されてしまうのか。 公平は、6年間の連絡帳と医療記録を手に取る。そこには、誰にも見えなかった父と息子の日々が残されていた。 親権をめぐる争いの中で明らかになる、夫婦のすれ違い、息子の本当の気持ち、そして“家族”の形。 これは、父親として生きてきた時間を取り戻すための、静かな戦いの物語。人生逆転|夫婦|親子関係1.5万字5 331 -
完結第11話
荷造りの日に消えた夫の行き先
7年間、脳梗塞で倒れた夫・修一を支え続けてきた香織。 仕事を辞め、食事も薬も通院もすべて管理し、夫が再び歩けるようになるまで寄り添ってきた。ところが回復した修一が最初に告げたのは、感謝ではなく「離婚してほしい」という言葉だった。 理由は、妹のいる新潟で暮らしたいから。 香織は、自分の7年間がすべて否定されたように感じる。だが荷物を整理する中で、夫が密かにつけていた一冊のノートを見つける。そこには、香織への感謝と罪悪感、そして誰にも言えなかった本音が記されていた。 さらに引っ越し当日、迎えに来たはずの義妹が突然言い放つ。 「兄は引き取りません」 夫は本当に妻から逃げたかったのか。義妹はなぜ直前で拒んだのか。そして香織が7年間守り続けていたものは、夫だったのか、それとも自分自身の恐怖だったのか。 介護、夫婦、家族の責任、そして人生の後半をどう生きるかを描く、静かな再出発の物語。夫婦|介護1.6万字5 971