"午前2時、義母に追いやられた離れ" 第9話
帳を奪いに来た男
「その帳を渡せ」
達也はのままれへ入ると、崎が持つ証拠袋へを伸ばした。誠司がすぐへち、弟の腕を押し戻す。
「触るな。これは父さんが残した会社の記録だ」
「親父のりきだろ。そんなものを真に受けて、俺を棒扱いする気か」
達也は気に言い返したが、線は帳かられなかった。額には汗が浮き、握ったスマートフォンの画面には、発信履歴が何件も並んでいる。
れのには、昨夜割られたガラスがまだ残っていた。達也が歩踏みすたび、靴底ので細かな破片が鳴る。その音を聞きながら、由は議なほど落ち着いていた。午2には3の男から逃げるしかなかったが、今は正の帳も、崎も誠司もここにいる。
由は崎から帳を受け取り、達也に見える位置で最初の見積をいた。
「昨612の請求では、10トントラック13便分として780万円を受け取っていますね」
「燃料費も件費もがってるんだ。普通の額だ」
「でも、同じ両番号のトラックは528に売却されています。正さんが陸運関係の類を確認し、ここに付を残しています」
達也のが止まった。
「別の両を使ったんだよ」
「それなら、なぜ売却済みの両番号で13便分を請求したんですか。配記録にあるのは8便だけです」
広告
由は責めるような調を使わなかった。ただ数字と付を順に並べた。それだけで、達也の説は崩れていく。
「族の会社同士なんだから、の融通は当然だろ。兄貴だって最初は納得していた」
達也が誠司へ助けを求めるように顔を向けた。
2、誠司は父の入院、弟の会社を支えたいといういから、達也運送との継続契約に賛成していた。度枠組みを承認すれば、個々の請求は経理処理に回る。誠司が細部を確かめなかったことも、正を広げた原因だった。
当、達也は「半だけて直すが欲しい」とをげていた。誠司は父と弟の関係を修復できるかもしれないとい、通常より緩い払い条件まで認めた。しかし半の約束は22か続き、援助は架空の便数を請求する仕組みに変わっていた。
「契約に賛成した責任は俺にある。だからこそ、全部調べる」
誠司の答えに、達也の顔が歪んだ。
「俺の会社が潰れてもいいのか。従業員も族もいるんだぞ」
「野物流にも86の従業員と、その族がいる」
由が静かに返すと、達也は初めて言葉を失った。
次の瞬、達也は証拠袋へびかかった。崎が体を引き、誠司が弟の肩をつかんで壁際へ押し戻す。昨夜の警察による封印が残る内で暴れれば、達也自のをさらに悪くするだけだった。
広告
「やめろ。帳を奪えば数字まで消えるとっているのか」
誠司に腕を放されると、達也は乱れた襟を直した。兄に力で止められた屈辱より、帳へ触れられなかった焦りの方が顔にく表れていた。
崎の話から、経理責任者の声がまだ聞こえていた。今15、達也運送へ860万円が送される。達也がこのに帳を奪いに来た理由はだった。
「達也さん。今から会社へって、860万円の支払いを止めます」
由が告げると、達也は証拠袋ではなく、自分のスマートフォンへびついた。誰かへ発信しながられをていく。
「止められるものなら止めてみろ。振込はもう承認済みだ」
吐き捨てる声の裏に、隠し切れない焦りがあった。
誠司が腕計を見た。午1127分。15まで、残り333分。
由は黒い帳を胸元へ引き寄せた。
次に守らなければならないのは、自分の実印ではない。正が35かけて築いた会社の860万円だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第17話
共通テストで950点を取った私より、880点だった妹だけを家族は祝った
共通テストで1000点満点中950点を取った美空。しかし家族が祝ったのは、880点だった双子の妹・梨奈だけだった。「今夜の主役は梨奈だ」。父は美空の採点表を床へ落とし、家族3人で妹の東京進学を祝う。模試で上位に入っても、参考書代を自分で稼いでも、美空の努力が認められることはなかった。その夜、美空は踏まれた採点表を拾い、自室に隠していた1通の封筒を取り出す。そこには、すでに合格していた防衛大学校からの通知が入っていた。美空は家族に何も告げず、入校を決める。そして4月1日、父の会社へ一本の電話が入った瞬間、家族が当然だと思っていた“美空の将来”が、すでに自分たちの手を離れていたことが明らかになる。親子関係2.4万字5 1074 -
完結第21話
離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫
父の葬儀が終わった直後、由美は夫・浩司から離婚届を突きつけられた。「介護にかまけて、社長の妻として何もしてこなかった」。さらに夫のそばには、会社の広報を担当する若い女性の姿。28年間の結婚生活を否定されても、由美は泣かなかった。父が亡くなる3日前、病室で託された銀色の鍵と、「浩司君が何を選ぶか黙って見ていなさい」という言葉があったからだ。由美が迷わず離婚届に判を押すと、夫は勝ち誇ったように去っていく。その直後、父の顧問弁護士が現れ、銀色の鍵で小さな金属箱を開こうとする。そこには、父が娘にだけ残した“最後の意思”が隠されていた――。夫婦|金銭問題2.7万字5 1570 -
完結第15話
博士になった息子を「返せ」と言われた夜
春樹が博士号を取得した夜、母・ひよりは二十三年間の苦労が報われたように感じていた。 赤ん坊の頃から育て、病気の夜も、受験の日も、留学の朝も、ずっとそばで支えてきた大切な息子。けれど祝賀会の席で、夫は一人の女性を連れて現れ、残酷な真実を告げる。 「春樹は、俺と愛人との子だ」 さらに夫は離婚届を突きつけ、ひよりを家から追い出そうとする。だがその場で、春樹が静かに口を開いた。 そして明かされたのは、夫と愛人だけが隠していたはずの過去ではなかった。 二十三年前、赤ん坊だった春樹に何が起きたのか。血のつながりを超えて、最後に息子が選んだ“本当の母親”とは――。夫婦|親不孝|絶縁|親子関係2.3万字5 426 -
完結第11話
質屋で知った夫の嘘
離婚の日、元夫・慎介は私の手に結婚指輪を握らせ、冷たく言い放った。 「売って生活しろ」 その一言を憎みながら、私は3年間、貧しい暮らしの中でも指輪だけは手放せずにいた。けれど貯金が尽き、ついに古い質屋へ持ち込んだ日、店主は指輪の内側を見て顔色を変える。 「奥様、お待ちしておりました」 そこには、私の知らない小さな印が刻まれていた。 なぜ元夫は、離婚前にこの質屋を訪れていたのか。なぜ私を突き放しながら、指輪だけを持たせたのか。 憎しみ続けた別れの言葉の裏に、3年間隠されていた真実が少しずつ明らかになっていく――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題1.7万字5 170 -
完結第10話
鍵をかけられた妊婦
妊娠七か月の美緒は、漏水工事のため、夫の実家で三週間だけ暮らすことになった。 最初は親切だった義母。けれど数日後から、漬物店の手伝いは少しずつ増え、母子手帳や保険証まで勝手に管理されるようになる。 医師から無理な立ち仕事を避けるよう言われても、義母は「妊婦は病人じゃない」と聞き入れない。夫に訴えても返ってきたのは、「母さんは心配しているだけ」という言葉だった。 そしてある朝、美緒が家を出ようとすると、靴は消え、玄関には外から鍵が掛けられていた。 閉じ込められた家の中で、突然お腹に強い張りが走る。 その時、美緒はようやく気づく。守らなければならないのは、家族の顔色ではなく、自分とお腹の子の命だった――。嫁姑|真実|親子関係1.6万字5 968 -
完結第13話
旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された
72歳の母は、息子夫婦に誘われ、2泊3日の箱根旅行へ出かけた。「たまには3人でゆっくりしよう。親孝行もしたい」。その言葉を信じ、宿泊費も食事代も送迎代も、68万円すべて母が支払った。ところが翌朝、嫁は「年寄りはすぐ疲れて足手まといになる」と言い、母だけをホテルに残して息子と観光へ出かけてしまう。息子も止めなかった。静かなロビーで1人になった母のスマートフォンに、家族LINEの通知が届く。そこには嫁から、「お金だけ出してくれれば、それでいいのよ。年寄りはホテルで留守番させておけばいいから」という、送る相手を間違えた一文が残されていた嫁姑|親子関係1.7万字5 708 -
完結第10話
20年後、坊ちゃんは帰ってきた
財閥家の御曹司・優人は、母を亡くした直後、新しく屋敷に入ってきた女によって濡れ衣を着せられ、わずか8歳でアメリカ留学へ追いやられる。 実の父にまで見捨てられた優人のそばに残ったのは、亡き母から「この子を守って」と託された家政婦・白石千鶴子だけだった。 行き先も学校も用意されないまま、異国の地へ捨てられた二人。千鶴子は皿洗いをしながら優人を育て、優人もまた、悔しさを胸に必死で学び続ける。 そして11年後、母が残した一冊の日記から、隠されていた資産と最後の願いが見つかる。 それからさらに時が流れ、20年後。 日本の大和グループが経営危機に陥った時、正体不明の投資家「黒札」に救いを求めることになる。 しかし彼らはまだ知らなかった。 その「黒札」こそ、かつて屋敷から追い出した少年だったことを――。人生逆転|裡切られた|真相|親子関係1.4万字5 277 -
完結第11話
夫から届いた23年分の請求書
23年ぶりに働き始めた51歳の晴美は、初めての給料日を少し誇らしい気持ちで迎えていた。 しかし夫の隆司が食卓に並べたのは、祝福の言葉ではなく、12枚の「生活費精算案」だった。結婚してから自分が支払ってきた生活費の半額、合計1140万円を、これから返してほしいというのだ。 家事も育児も、義母の通院も、家族の予定管理も、すべて「養われていた時間」として扱われるのか。 納得できない晴美は、自分がこの家でしてきたことを記録し始める。すると押し入れの奥から、夫が密かに動かしていた800万円の明細が見つかった。 夫が本当に隠していたものは何だったのか。 そして、23年間の夫婦生活は「借金」だったのか。 一枚の請求書をきっかけに、家族の中で見えないまま積み重なっていた不公平が、静かに崩れ始める――。夫婦|第二の人生|金銭問題1.6万字5 358 -
完結第17話
果樹園の奥の家
夫・健太郎は、妻の栞が父から相続した長野の果樹園を任され、週5日を山で過ごしていた。ある日、「東京へ出荷に行く」と聞いていた栞は、昼食を届けようと果樹園へ向かう。ところが山の奥で見つけたのは、知らない平屋と2人の幼い子ども、そして健太郎を「パパ」と呼ぶ声だった。そこには、健太郎と6年間家族として暮らしてきたという女性までいた。さらに調べると、秘密の家や東京のマンションに使われた金は、栞自身が果樹園へ補填した1300万円と会社資金4700万円、合計6000万円と一致する。そして夫が栞と結婚した本当の理由まで明らかになる。「あなたは、健太郎の借金を返すために選ばれた人でしょう」――。夫婦2.5万字5 375