"7年間介護した私を捨てた夫――愛人を連れて帰宅すると、寝たきりの母も介護ベッドも消えていた" 第13話
母が見たメッセージ
健の喉が、乾いた音をてた。
「タブレットって……いつ見たんだ」
「をるよ。由美さんが斎で見つけて、充してあったの。私が見せてほしいと頼みました」
由美は内容を読みげようとはしなかった。それでもが、自分の目で息子の言葉を確かめたいと言うと、ベッド脇の台へ端末を置き、画面をいてくれた。
のかないは、の差し指でゆっくり画面を送った。そこには、由美がの発で3晩ほとんど眠れなかった期のやり取りまで残っていた。
〈由美が母さんを見てくれるから、施設代もかからない。それに母さんの貯もそのまま残る〉
〈私は絶対に介護なんてしないからね〉
〈分かってる。君にさせるつもりはない〉
そして最に、健はこういていた。
〈あいつは母さんにがあるから、絶対にれられない〉
「違う。玲奈をさせるために、げさにいただけだ」
「何が違うの?」
の問いに、健はを閉じた。施設代を惜しんでいたことも、預貯が減らなければ自分に残ると考えていたことも、すでに自分のから認めている。
タブレットに表示された送信刻も覚えていた。午1148分。その頃、由美はをしたの寝を替え、氷枕を作っていた。健は隣の斎にいたのに、扉を度もけなかった。
広告
「由美さんは、私の半がかなくなったから、毎晩213分に起きて体の向きを変えてくれました。がれば朝まで額をやし、あなたが張のにはで病院へ連れていった。それをあなたは、があるから逃げないといたのね」
共スペースの窓ので、職員が洗濯物を取り込んでいた。いタオルがをはらみ、また静かにしぼむ。はそれを見ながら息をえた。
「私は、自分がこんな体になったことを何度もけないといました。由美さんの仕事を奪い、眠るまで奪ったとうと、消えてしまいたい夜もあった」
「母さんが悪いわけじゃないだろ」
「ええ。今はそうえるようになりました」
は健へ線を戻した。
「体がかなくなったことより、自分の息子がの女性の7を、施設代と相続する額に換算していたことのほうが、ずっとけなかった」
健は顔をげられなかった。仕事を理由に介護を避けながら、母を切にしているつもりでいた。だが自分が守ろうとしていたのは母の活ではなく、由美が無償で働き続ける仕組みだった。
「俺は、これからどうすればいい」
ようやくた言葉は、謝罪ではなかった。は寂しそうに息を吐いた。
「さんの説を聞いて、自分で考えなさい。私は施設を選びます。
広告
あなたは、必なに息子として連絡を受けてください」
「由美は、もう来ないのか」
「来るかどうかを決めるのは由美さんです。あなたではありません」
面会の終を告げる音楽が流れた。健がちがっても、は引き留めなかった。
廊へたところで、から期入居候補3か所の資料を渡された。額、医療体制、面会、空状況。どのにも、自分で読み、自分で連絡しなければならない項目が並んでいる。
健は分い封筒を抱えたまま、駐で玲奈へ話をかけた。
助席へ資料を置くと、封筒のみでシートの警告音が鳴った。健は慌ててそれを部座席へ移したが、い封筒は倒れず、バックミラーのにいつまでも残っていた。
『今週の曜、母さんの施設を緒に見てほしい』
数秒の沈黙のあと、玲奈はたく答えた。
『私には介護をさせないって、結婚するに約束したわよね』
広告
おすすめ作品
-
完結第18話
離婚した5日後、私が92億円の都心ビルを相続したと知った夫
父の葬儀が終わった直後、由美は夫・浩司から離婚届を突きつけられた。「介護にかまけて、社長の妻として何もしてこなかった」。さらに夫のそばには、会社の広報を担当する若い女性の姿。28年間の結婚生活を否定されても、由美は泣かなかった。父が亡くなる3日前、病室で託された銀色の鍵と、「浩司君が何を選ぶか黙って見ていなさい」という言葉があったからだ。由美が迷わず離婚届に判を押すと、夫は勝ち誇ったように去っていく。その直後、父の顧問弁護士が現れ、銀色の鍵で小さな金属箱を開こうとする。そこには、父が娘にだけ残した“最後の意思”が隠されていた――。夫婦|金銭問題2.3万字5 2652 -
完結第15話
博士になった息子を「返せ」と言われた夜
春樹が博士号を取得した夜、母・ひよりは二十三年間の苦労が報われたように感じていた。 赤ん坊の頃から育て、病気の夜も、受験の日も、留学の朝も、ずっとそばで支えてきた大切な息子。けれど祝賀会の席で、夫は一人の女性を連れて現れ、残酷な真実を告げる。 「春樹は、俺と愛人との子だ」 さらに夫は離婚届を突きつけ、ひよりを家から追い出そうとする。だがその場で、春樹が静かに口を開いた。 そして明かされたのは、夫と愛人だけが隠していたはずの過去ではなかった。 二十三年前、赤ん坊だった春樹に何が起きたのか。血のつながりを超えて、最後に息子が選んだ“本当の母親”とは――。夫婦|親不孝|絶縁|親子関係2.3万字5 557 -
完結第11話
質屋で知った夫の嘘
離婚の日、元夫・慎介は私の手に結婚指輪を握らせ、冷たく言い放った。 「売って生活しろ」 その一言を憎みながら、私は3年間、貧しい暮らしの中でも指輪だけは手放せずにいた。けれど貯金が尽き、ついに古い質屋へ持ち込んだ日、店主は指輪の内側を見て顔色を変える。 「奥様、お待ちしておりました」 そこには、私の知らない小さな印が刻まれていた。 なぜ元夫は、離婚前にこの質屋を訪れていたのか。なぜ私を突き放しながら、指輪だけを持たせたのか。 憎しみ続けた別れの言葉の裏に、3年間隠されていた真実が少しずつ明らかになっていく――。夫婦|真実|第二の人生|金銭問題1.7万字5 336 -
完結第10話
鍵をかけられた妊婦
妊娠七か月の美緒は、漏水工事のため、夫の実家で三週間だけ暮らすことになった。 最初は親切だった義母。けれど数日後から、漬物店の手伝いは少しずつ増え、母子手帳や保険証まで勝手に管理されるようになる。 医師から無理な立ち仕事を避けるよう言われても、義母は「妊婦は病人じゃない」と聞き入れない。夫に訴えても返ってきたのは、「母さんは心配しているだけ」という言葉だった。 そしてある朝、美緒が家を出ようとすると、靴は消え、玄関には外から鍵が掛けられていた。 閉じ込められた家の中で、突然お腹に強い張りが走る。 その時、美緒はようやく気づく。守らなければならないのは、家族の顔色ではなく、自分とお腹の子の命だった――。嫁姑|真実|親子関係1.6万字5 1244 -
完結第14話
デブでダサいと捨てられた妻
「家で鏡くらい見ろよ」「太ってるし、服もダサい」。長年連れ添った夫から外見を馬鹿にされ、最後には別の女性を選ばれた妻は、何も言い返さず離婚届に判を押した。夫は、自分に捨てられた妻がこれからも地味で冴えない人生を送ると思っていた。しかし1年後、同窓会の会場で偶然再会した元妻を見た瞬間、その余裕は消える。髪型も服装も、立ち居振る舞いも以前とはまるで違う。だが、本当に夫を青ざめさせたのは“痩せて綺麗になったこと”ではなかった。離婚後の1年間で、彼女が取り戻していたものを知った時、元夫は初めて、自分が何を捨てたのか思い知らされる夫婦|熟年離婚2.0万字5 1216 -
完結第19話
「姉は他人」と治療費を拒んだ夫――姑の救急搬送で800万円を求められた私は、通帳を閉じた
48歳の佐藤由美は、病に倒れた実姉・直子の治療と生活のため、夫婦で貯めた口座から120万円を出そうとする。だが夫の浩司は「他人に使う金はない」と一蹴。さらに由美が通帳を確認すると、800万円のうち500万円が、見知らぬ不動産会社へ送金されていた。残る300万円を守った5日後、姑が救急搬送され、浩司は「あの貯金を使ってくれ」と泣きつく。由美が静かに拒むと、夫と姑は直子の家まで売らせようとするが、通帳、LINE、契約書、録音、そして5年前の領収書が、彼らの嘘を次々と暴いていく。夫婦|金銭問題2.4万字5 0 -
完結第16話
午前2時、義母に追いやられた離れ
水野由香は、脳梗塞で倒れた義父・正一を3年間支え、死後も遺品と会社書類の整理を続けていた。夫が出張へ出た夜、義母から庭の古い離れで寝るよう命じられる。午前2時、家政婦の富子が「今すぐ逃げて」と駆け込み、直後に3人の男が窓を破った。狙いは由香の実印と遺贈辞退書。逃走中に残した26秒の録音が義母の嘘を崩し、亡き義父の遺言から25%の株式と黒い手帳が現れる。そこには18件、合計3,240万円へ続く赤い線が残されていた――。夫婦|親子関係2.2万字5 24 -
完結第13話
旅行代を全額68万円出したのに現地で「年寄りはすぐ疲れて足手まとい」と別行動された
72歳の母は、息子夫婦に誘われ、2泊3日の箱根旅行へ出かけた。「たまには3人でゆっくりしよう。親孝行もしたい」。その言葉を信じ、宿泊費も食事代も送迎代も、68万円すべて母が支払った。ところが翌朝、嫁は「年寄りはすぐ疲れて足手まといになる」と言い、母だけをホテルに残して息子と観光へ出かけてしまう。息子も止めなかった。静かなロビーで1人になった母のスマートフォンに、家族LINEの通知が届く。そこには嫁から、「お金だけ出してくれれば、それでいいのよ。年寄りはホテルで留守番させておけばいいから」という、送る相手を間違えた一文が残されていた嫁姑|親子関係1.7万字5 1238 -
完結第11話
夫から届いた23年分の請求書
23年ぶりに働き始めた51歳の晴美は、初めての給料日を少し誇らしい気持ちで迎えていた。 しかし夫の隆司が食卓に並べたのは、祝福の言葉ではなく、12枚の「生活費精算案」だった。結婚してから自分が支払ってきた生活費の半額、合計1140万円を、これから返してほしいというのだ。 家事も育児も、義母の通院も、家族の予定管理も、すべて「養われていた時間」として扱われるのか。 納得できない晴美は、自分がこの家でしてきたことを記録し始める。すると押し入れの奥から、夫が密かに動かしていた800万円の明細が見つかった。 夫が本当に隠していたものは何だったのか。 そして、23年間の夫婦生活は「借金」だったのか。 一枚の請求書をきっかけに、家族の中で見えないまま積み重なっていた不公平が、静かに崩れ始める――。夫婦|第二の人生|金銭問題1.6万字5 431 -
完結第17話
果樹園の奥の家
夫・健太郎は、妻の栞が父から相続した長野の果樹園を任され、週5日を山で過ごしていた。ある日、「東京へ出荷に行く」と聞いていた栞は、昼食を届けようと果樹園へ向かう。ところが山の奥で見つけたのは、知らない平屋と2人の幼い子ども、そして健太郎を「パパ」と呼ぶ声だった。そこには、健太郎と6年間家族として暮らしてきたという女性までいた。さらに調べると、秘密の家や東京のマンションに使われた金は、栞自身が果樹園へ補填した1300万円と会社資金4700万円、合計6000万円と一致する。そして夫が栞と結婚した本当の理由まで明らかになる。「あなたは、健太郎の借金を返すために選ばれた人でしょう」――。夫婦2.5万字5 406