みかん小説
本棚

"帰国した僕を待っていたボロ家" 第3話

写真ので抱かれている勇気は、まだ赤ん坊だった。

今はもう、へ通っている。

そうった瞬、健は、自分があまりにもくのを逃してきたことに初めて気づいた。

は稼げる。失った7は、どれだけを積んでも買い戻せない。

その夜、健は帰国を決めた。

は帰国することを誰にもらせなかった。玄関をけた瞬苗と勇気が驚いて駆け寄ってくる姿を見たかったし、それこそが7耐えてきた自分への最の褒美だとっていた。部国際空港へった朝、久しぶりに聞く本語の案内放送さえ懐かしく、空港をには自然と笑みがこぼれた。

予約していたに乗り、岐阜へ向かう途、健はサービスエリアで何度も産を確認した。母の好きな菓子、勇気に渡すしい運靴とゲーム、そして苗にはアメリカで選んださなネックレスを用していた。妻がどんな顔で箱をけるのか像すると、7の疲れがすべて報われるような気がした。

故郷の町に入ると、昔は畑だった所に宅や倉庫が建ち、し広くなっていた。それでも川や古いには見覚えがあり、健は運転に速度を落としてもらいながら、子供代の景つずつ目に焼き付けた。やがて実へ続くへ入った、彼はわずを乗りした。

広告

古びた平は、跡形もなく消えていた。

代わりに広い敷央には、るい壁の階建て宅が建っていた。黒い畳の庭、入れされた松のさな池まであり、健が送ったが目ので形になっている。その景に胸がくなり、「母さん、本当に派なを建てたんだな」とで笑った。

を入り、旅鞄を引いて玄関へ向かうと、から犬が吠えた。すぐに扉がき、母のよしえが顔をしたが、息子の姿を見た瞬、驚いたように両を覆った。やがて「健……」と声を漏らし、泣きながら駆け寄ってきた。

も母を抱きしめた。7によしえの背さくなり、髪にもいものが増えていたが、母の腕の触は昔と変わらなかった。続いて達也と美紀も姿を見せ、突然の帰国を信じられないというように何度も健を見た。

井のリビングには、型テレビとしいソファが置かれ、卓も価そうな無垢材だった。母が適な暮らしをしていることを確認すると、健はこれまでの苦労が無駄ではなかったとじた。美紀は果物を切りながらアメリカでの事業について質問し、達也も「向こうでずいぶん成功したらしいな」としたように話した。

しかし、分ほど経った頃から、健さな違まれ始めた。

広告

のどこにも、苗と勇気がいなかった。

「ところで、苗と勇気は?」

が何気なく尋ねると、部にわずかな沈黙が落ちた。よしえは湯呑みに線を落とし、美紀は果物を切る瞬止めた。

苗さんなら、ちょっと用事でているわ」

よしえが答えると、美紀もすぐに「勇気君も緒ですよ」と付け加えた。しかし平の昼であれば、勇気は学にいるはずだった。

は笑顔を保ったまま携帯話を取りした。

「じゃあ話して驚かせようかな」

その瞬、よしえがった以に素を挟んだ。

「最苗の携帯、調子が悪いらしいんだよ。旅で疲れているだろうし、夕方まで待ちなさい」

達也まで「そうだ。せっかく帰ってきたんだから、まず休め」と話をそらした。健は何も言わず、携帯話をテーブルへ戻した。

で数えきれないほどの商談を経験してきた健には、相の表が変わる瞬を見逃さない癖がついていた。が同に緊張したことはらかだったが、帰国したその族を疑うことには抵抗があった。そこで「昔の部を見てくるよ」とだけ言い、階へがった。

かつて苗とで使っていた部の扉をけた瞬、健けなくなった。ベッドもカーテンも具もすべて変わり、クローゼットには達也のスーツと美紀のが掛かっている。

サイドテーブルに置かれているのも、兄夫婦の写真だった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: